これは、「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督が描く、核を巡るポリティカル・サスペンス。
出演は、イドリス・エルバ、レベッカ・ファーガソン、グレタ・リー、アンソニー・ラモスら多彩な顔ぶれを揃えている。
NETFLIXでの配信を前に、限定的に劇場公開されており、配信前に劇場で鑑賞した。
ある平凡な朝、誰もが昨日と変わらぬ日常に入り始めた矢先に警報が入る。
アメリカ太平洋方面に配置されたレーダーがICBM(大陸間弾道弾)の発射を捕捉。当初は北朝鮮による警告なし発射実験かと思われたのだが、ICBMは弾道軌道を取りアメリカに向かっている事が判明、約18分後にシカゴに着弾する、との予測が発せられる。
軍は迎撃ミサイルの発射を命じ、政府は市民の避難、メディアへの発表を検討するが、何をやろうにも時間がない。それでも、各自は持ち場に着いてやれる事をやるしかない――更に、着弾の時間が迫る中、大統領はルーティーンに従い、報復の決断を迫られ……
これは、ミリタリー・サスペンスを得意とするキャスリン・ビグローによる、緊迫のサスペンス。
映画は、冒頭で職場へ出勤する登場人物の日常を丁寧に描いた後で、ミサイル発射警報で事態を急転させるのだが、警報が発せられてから着弾までは約20分、これでは2時間の映画にならない訳で、映画はちょっと凝った構成になっている。
第一部「傾斜が水平に」で、主に軍によるミサイル追跡と迎撃を描き、第二部「弾丸で弾丸を撃つ」で、大統領補佐官による外交交渉、第三部「ダイナマイトで出来た家」で大統領の選択を描く、とし、ミサイル感知から着弾までの約20分を(少し引き伸ばしつつ)、視点を変えて繰り返し描くようにしているのだ。
これは面白い工夫で、本作のように複雑な人間模様を見せる群像劇を、それぞれに見せ場を作って見せていたらやたら冗長な印象を与えるものになってしまっただろう。それを、この工夫でダレる事無く、タイムサスペンスを盛り上げているのはさすが、と言うしかない。
本作はポリティカル・フィクションとして大変に見応えがあるが、ミリタリー関係に詳しいキャスリン・ビグロー監督の入念なリサーチによって示された現実にも慄然とするだろう。
弾道弾迎撃ミサイルの数は全く足りず、しかも、その効果は限定的であり、本作のようにたった一発のミサイルであっても阻止出来る保証はない、と言う事。そして、何よりも恐ろしいのは、そうした現状から、実は核兵器は既に抑止力足り得ず、その気になれば「使う」事が出来る兵器であり、尚且つ、核は一度使ってしまったら、相互不信によりエスカレートする可能性が大と言う事――それはウクライナ戦争を見れば判るように、戦争は始めてしまうと、広げない事と止める事が酷く難しいものなのだ。
そして、現実を振り返った時、現在の米政府中枢にいる人物が、本作の登場人物のような、よりよい選択に悩むようには見えない事が何より恐ろしいものだと思う。
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