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2025年07月02日22:36

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「フロントライン」感想

 これは、2020年2月、新型コロナウイルス感染拡大の初期に、日本で初めての集団感染が発生した豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号で、患者の治療に当たった医師たちの戦いを、事実に基づいて描いたドラマ。
 監督は「かくしごと」の関根光才。企画、脚本、プロデュースを務めたのは「劇場版コード・ブルー」の増本淳で、300ページを超える取材メモからまとめ上げた、映画オリジナル脚本となる。
 出演は、小栗旬、窪塚洋介、松坂桃李、池松壮亮と主役級が揃う豪華キャスト。
 フォト
 2020年2月、乗客乗員3711名を乗せた豪華客船が横浜港に入港を申告。だが、香港で下船した乗客に新型コロナウイルスの感染が確認されていた船内では、すでに感染が拡大しており、横浜港は入港を認めたものの、下船許可を出さなかった。
 そこで、出動要請を受けたのは、災害派遣医療チームDMAT(Disaster Medical Assistance Team)。だが、地震や洪水など、災害時緊急医療対応のスペシャリストのDMATも、感染症パンデミック……それも、未知のウイルスに対応できる経験や訓練は積んでいなかった。それでも、DMATを統括する結城英晴は出動を了承。厚労省の官僚、立松信貴と共に、人命救助を最優先に対応を進めるが……

 この映画は、まだ5年前、新型コロナ感染症のパンデミック初期に印象的だったエピソードを描くもの。横浜在住の自分にとっては、正に身近な問題であり、注目をしていた事を思い出す――それでも、その船内でこんな事があったのか、と驚く内容になっている。

 映画は、冒頭の描写が上手い――ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港、船が止まったので重症患者を下ろそうとゲートを開くも、船は海上で停止しており、埠頭までの間に海上保安庁の巡視船が割って入って接弦させない……と言う日本政府の拒絶を示し、コロナ感染により行き場のない乗員・乗客の絶望感を見せ付ける。
 そこから、DMAT神奈川の結城医師が、神奈川県からの要請を受けるのだが、映画は、敢えてその決断に至る心理描写を省いて、それを終盤に持って行く、と言う語り口は巧妙で、この導入で一気に心を掴まれた感じだ。

 映画は、そうして船内の感染者の対応、人命救助の為の医療関係者を奮闘を描き、中盤以降、話を広げながら扇動的なメディアと無理解な社会との闘いに焦点を合わせて行く、と言う語り口は巧みで、オリジナル作品で勝負出来ない日本映画ながら、その力量を示した感じだ、
 そんな脚本は、話だけでなく、台詞も秀逸……文法を無視、気持ちを優先しているのがいい。
 「やれることは全部やる、でしょう!DMATは」
 「人の役に立ちたいと思って役人になったんです、これでも」
 と言う台詞、並の脚本家だったら、文法通りのセリフを書いてシラけさせるんだけど、気持ちの高ぶりがある時には、強い想いが乗る言葉から先に出る、と言うリアルさを描いているのはなかなかだな、と思った。

 演者では、やはり、小栗旬と窪塚洋介がいい。実年齢もそうだが、窪塚演じる仙道は役の上でも経験も年齢も上。そんな彼が「向いているから」と現場に入り、後方で小栗が演じる結城が上に立つ、その微妙な人間関係が、個人的には共感出来る部分もあってよかった。
 また、松坂桃李の、いかにも官僚然とした演技も良く、「役人がルールを破る訳にはいかない」とか言って融通が利かないんじゃ、と思わせつつ、しれっとウソをついて話を進めてしまう、あの辺りもいい感じだ。

 充実した取材に基づく、リアルで豊かなエピソードには心を打たれる一方、船外の描写は、あるTV局の取材クルー一組に限られ、医療関係者以外は、関係者家族を除いて殆ど登場せず、「一方的だ、DMATを英雄視し過ぎている」との非難もあるが、それはそれで仕方がないだろう。
 この映画は、その時のコロナ感染拡大阻止の最前線に注目して、そこを描くものなのだから……視点を広げろ、と言うのは、本作が描いた豊かなエピソードを削る事にもなり、それは得策とは思えない。

 映画は、2020年3月、隔離期間を過ぎて下船する乗客の姿で終わる。それをハッピーエンドのように描いている事に抵抗を覚える人もいるようだ――実際、安倍首相による緊急事態宣言が出され、社会が止まるのは、この翌月の事なのだ。
 だが、そんなコロナ感染拡大の当初、手探りで対処に当たった人々の奮戦を描く本作は、それを記録した、と言う意味だけでも価値あるものと思う。
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