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2025年06月14日08:14

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「無名の人生」感想

 これは、独学で作った短編アニメ「MAHOROBA」が数々の賞を獲得して注目されている鈴木達也監督初の長編編アニメ。
 「音楽」の岩井澤健治監督が本作をプロデュース。主役の声をラッパーのACE COOLが担当した。

 男性アイドルとの望まれなかった愛から生まれた彼は、母の死後、心を閉ざすようになった。
 仙台の団地で育ち、いじめられっ子だった彼は、ある出会いから、父の後を追うようにアイドルになるが――映画は、蔑称や源氏名などいくつもの呼称で呼ばれ続けた彼の生涯を、全10章の構成で描いて行く。

 アニメーションは集団作業で作るもの、と言う常識が新海誠によって打ち壊され、アニメーション映画を「個人製作する」のは最早珍しい事ではなくなったが、ここでまたひとり、新たな作り手が登場した。
 ただ、独学で学ぶうち、己の才を見極め、「アニメーションを作るのは失礼」だと思った、と言う鈴木監督は、アニメーションとは言っても、平面的な「絵」によって、物語を語る事を選択した。
 平面的なアニメと言う事で、映画好きに一番馴染があるのは、TOHOシネマズの幕間に流れる「紙兎ロペ」だろうか?
 シンメトリックな構図はウェス・アンダーソンを思わせるし、決して「巧い」絵ではないが、色使いのセンスなど、アート性も高い……これを突き詰めていけば、ミシェル・オスロやトム・ムーアのようなアートアニメ作家にもなり得るのではないか、と思う。

 物語は、ひとりの男が生まれる前の父母の出会いに始まり、その死後まで100年以上を描く壮大なもので、これを個人で出来る、と言うのもまたアニメの魅力ではある。
 いじめや暴走する高齢ドライバー、芸能界の闇、と言う現代社会の諸問題を盛り込んで始まった物語は、やがては災害や戦争、と言う大きな問題を描き、まるで「AI」や「2001年 宇宙の旅」を思わせる場面に辿り着くのもまったくの予想外で、これには驚かされた。これはとにかく観て貰うしかない、と言う感じだ。

 その物語展開は、ゴールを決めずに、思いのままに進んで行ったらこうなった、と言うもので、まるで「ミッション・インポッシブル」のような事をやってしまっていのもまた個人製作の強みだろう。
 ただ、内容的に、ジャニーズ問題をいささか直接的に盛り込んでいる辺りや、既存のキャラクターの安易に思える引用など、これもまた個人製作故の一種の“危うさ”を孕んでいるのも事実だと思う。

 それでも、初の長編映画で、自身のスタイルをはっきりと示した本作は、鈴木達也監督にとってエポックメイキングな1作となるのは間違いのない所だと思う。
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