これは、2020年、コロナ禍の最中に報じられたひとりの少女についての新聞記事着想を得た人間ドラマ。
主演は、「少女は卒業しない」の河合優実。共演に「さがす」の佐藤二朗、「正欲」の稲垣吾郎。監督は、「聖地X」の入江悠。
香川杏は、ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らしている。幼い頃から母親のDVとネグレクトを受け、万引きで食いつないでいたので小学4年生で不登校になった。12歳で母親の紹介で初めて体を売り、16歳で覚せい剤を使うようになった。
だが、売春のトラブルで補導され、人情味あふれる型破りな刑事・多々羅に出会ったのがきっかけで更生の道を歩み出す事になる。多々羅の友人で雑誌記者の桐野も加わり、杏の薄暗闇の世界が少しずつ変わり始めるが、ある雑誌記事と、コロナ禍が彼女の生活を一変させる事になる――
これは、コロナ禍における、ある悲劇を元にしたドラマ。救いのない話だが、映画は終盤、杏が幼児を預かる、と言うエピソードを除き、ほぼ現実をそのまま描いているのだ、と言う。
男女の生活格差、シングルマザーの貧困に、DVに売春、薬物に加え、ネグレクトにヤングケアラーと、女性が直面する社会問題の数多くを一身に背負ってしまったような杏の人生は、壮絶、と言うしかなく、それが現実と言う事に言葉を失う。
そんな境遇に生まれながらも、杏は生真面目で聡明で、だからこそ、更生の道を歩み始めた彼女を、観る人は自然に応援したくなるし、そんな彼女を、多々羅と桐野と言う2人の男性が支えるのも無理のない事に思える。
だが、多々羅のある行為と、コロナ禍が杏の居場所を奪い、更に母親の共依存からの理不尽な暴力が杏に襲いかかる……それは、希望を掴みかけたからこそ感じる本物の絶望。これには胸を締め付けられる。
河合優実は、現在、若手女優ではピカイチの存在だが、これは間違いなく彼女の代表作になるだろう。彼女自身が、杏のモデルとなった女性について調べたと言う徹底した役作りで、杏と言う少女の生き様をフィルムに焼き付けている。薬物濫用で焦点の合わない視線、そして、更生した彼女が見せるあどけない程の笑顔……元々役の振れ幅の大きな河合優実だが、これはあらためて見事と言うしかない。
共演の佐藤二朗、稲垣吾郎は、ある意味、“駄目な大人”を見せないといけない役柄だが、これは持ち味を巧く生かしていると思う。
考えさせられるのは、こうした悲劇をどうやって防ぐ事が出来るのか――つまり、子供たちに、社会が、その行く道をちゃんと示してやれるのか、と言う事……これは、決して、コロナ禍が生んだ悲劇ではなく、母親のDVと、それに気づけなかった社会、歪んだ欲望が生んだ、多々羅の二面性と、正義の名の下に、それを“商品”にした桐野の仕事……つまり、大人たちが寄ってたかって杏の未来を奪ったのだ。
その事実を突きつけられれば、沈黙をするしかない――勿論、多々羅の台詞を借りて「そんなこと、わかんねぇよ」と言ってしまうのは簡単だが。
これは、ひとりの少女の悲劇ではなく、この社会と、それを作り出す大人たち、その掲げる“正義”の意味を問う物語だと思う。
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