<ストーリー>
銀行員の目から様々な中小業者の悲哀と策略を描いた短編集。中でも表題となった作品は京都の一澤帆布事件を素材に取った作品。
<コメント>
池井戸潤の作品は週刊誌の連載では読んだことがあるけれども、どうも僕の感性にはイマイチでこの人の本を買ったのはこれが最初。「十年目のクリスマス」「セールストーク」「手形の行方」などどれにも絵にかいたような悪役が出てくる。こんな人実際にいるのか?とつい思ってしまう。
唯一恋愛ものに見える「妻の元カレ」も結局はレディースコミックみたいな話
を銀行員でやっただけだし。
で、お目当ての「かばん屋の相続」。実は下卑た興味から一澤帆布事件を昔追跡していたことがある。
まずは本当にあった事件。宮内庁へも奉納する有名なかばん屋の長男が銀行員となって実家は三男が継いでいてその実力から皆の信頼を勝ち取っていた。ところが父親が病気になって入院して死んだとたんに実家のすべてを長男に譲る、というウソみたいな遺言状が出てきて、これを地方裁判所は有効とする。
実は三男に譲るという遺言状もあったけれども、日付から無効にされてしまう。怒った三男は職人を引き連れて会社を辞めて近所に自分の帆布店を設立。京都の近所の人は全て三男の味方。
そしてこの時期に書かれたこの小説ではさすがに「遺言書は元銀行員の兄が偽造した」ということをにおわせてうまく逆転劇で兄をへこます痛快な終わり方をしている。
しかし、実際は最高裁で「やっぱりアニキの遺言状は偽造」という判決が出てやっぱり兄は姿を消すという痛快な結末である。
その辺りまで小説にすれば変な銀行話を絡めなくてもよかったのに。
それでやっぱり銀行の話がややこしすぎるのと、悪役の類型的すぎる姿にちょっと興ざめするので、池井戸潤の小説は僕にはイマイチである。
かばん屋の相続
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