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2024年05月16日04:16

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笑顔でタッチするようになった

物心ついた頃から
右腕は左腕が嫌いだった

左腕は
のろまで、さぼりで、不器用で
まるで力なしだからだ

運動場でボールを投げる時も
勉強中に字を書く時も
お箸を使ってご飯を食べる時も
主は何をするにも
右腕を使ってくれた

主が成長するにつれて
右腕はどんどんできることが増えて
左腕とはますます差がついていった

主が両腕を使って何かをするとき
決まって左腕が足を引っ張った

水泳の練習の時は
左腕が力尽きて泳げなくなったり
腕立て伏せや鉄棒などでも
いつも先に左腕が音を上げた

そんな左腕に右腕はイライラし
主が拍手する機会を待って
日頃の鬱憤を左腕にぶつけたりした

ある時アクシデントが起こった
雨上がりの下り坂
主が自転車の急ブレーキで転倒し
とっさに右腕で頭をかばい
右の手首とひじを骨折した
全治4ケ月の大怪我だった

その日から
主は左腕のみを頼った

今まで右腕がしていたことを
左腕でするようになった
慣れない左腕は
主を支えようと頑張ったが
右腕のようにはいかなかった

右腕は最初
左腕に自分の代役は務まらないと
そう思っていた

でも1ケ月を過ぎる頃には
字を書いたり
お箸を使ったり
覚束ないけれど
色々とできるようになってきた

そんな主と左腕の頑張りに
治った時に以前のように
頼ってもらえるかと
右腕は焦りを感じ始めた

更に気づいたことがあった
右腕が使えなくなって
主は水泳も腕立て伏せも鉄棒も
まったくできなくなっていた

加えて
服の着替えや靴ひもを結んだり
荷物を運ぶのでさえ
人に頼らねばならなかった

両腕でないとできないことが
たくさんあることに気づいた

のろまで、さぼりで、不器用で
まるで力なしと思っていたけれど
左腕は主に
欠かせない存在だったことを知った

4ケ月めにギプスが取れた
3ケ月以上使わなかったので
右腕は以前のように動けなかった
筋肉も落ちてしまっていた

主は折に触れて
やせ細った右腕を
左腕で撫でたりさすったりした
左腕は右腕に慈しむように触れた

しばらくたって
右腕は元のように動いたり
力を出したりできるようになった

心配していた役割も
左腕から戻ってきた

右腕はもう左腕を嫌っていなかった
以前とは違い
良きパートナーとして
共に主を支える喜びを知った

主が拍手する機会には
笑顔でタッチするようになった

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