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2024年04月17日13:04

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ノーランのデビュー作は江戸川乱歩?「フォロウィング」

最新作「オッペンハイマー」が話題のクリストファー・ノーラン監督のデビュー作「フォロウィング」が、現在レストア版で劇場公開されています。
ミステリー映画として評価の高い作品という事で興味もあったので、劇場には行きませんでしたが、家で観てみました。

モノクロの地味な作品です。
ウルトラ低予算映画ではありますが、それは驚くほど気になりません。
内容はいわゆる「ノワール」と呼ばれる犯罪ものです。
時間は70分ほどなので、ノーラン作品としては普段の半分くらいです。
気軽に観られます。

なるほど、確かに面白い!
単純な話では決してありませんが、主要人物は3人程度で舞台も限られているため、ノーラン作品としては分かりやすい部類でしょう。
決して突飛な話ではありませんが、見せ方でサプライズに成功しています。
時間軸を複雑に交差させる手法を、デビュー作から存分に使っているのです。

この映画の冒頭がまず面白い。
主人公は、退屈しのぎに「適当な人を尾行する」という趣味を持っているのです。
その人に何をするでも無く、適当な所まで尾行したら終わり。
異常な行為に興味を持ちながら、犯罪者になる勇気までは持っていない。
これはまるで、江戸川乱歩の小説の主人公を思わせます。

そんな男が、ある日出会ったのがコップという男です。
彼は、他人の家に平気で侵入してしまいます。
そして、そこに住む人間が困るだろう行為をあえてするのです。
自分よりずっと過激で背徳的な行為を堂々とやってのけるコップ。
しかも、そこになにやら高尚な理由まで演説するのです。
すっかり彼にのめり込み、行動を共にする様になる主人公ですが・・・。

江戸川乱歩の短編に「ペテン師と空気男」という話がありますが、まさにあれを思い出しました。
無気力に生きる男がペテン師に出会い魅了され、そこにペテン師の妻が加わって起こる犯罪物語。
おそらくノワールというジャンルでは定型となっている展開なのかもしれませんが、共通する部分は少なくありません。

江戸川乱歩の小説では、明らかに主人公の男に寄り添った描き方がされています。
人生がさっぱり面白くない。
何か異常な事、猟奇ものに興味はあるが、それを実行する勇気は無く、ボンヤリと夢想するだけ。
まさに乱歩自身の投影だからです。
変態的な行為の怪しい楽しさ、ドキドキする背徳感の素晴らしさについて、乱歩は実にイキイキと描きます。

ところが、ノーランのこの作品では、どちらかと言えばペテン師の方に寄り添った様な印象を受けました。
他人の意識を操作して、自分の思うままにする方にこそ、ノーランは興味があるのでしょう。
時間軸を交差させて観客を戸惑わせ、欺く行為。
これは、ノーランの観客に対するペテンなのです。

この映画に時間軸を交差させる行為は必須だったかと考えると、必ずしもそうでは無いと思います。
また、効果的にやるならここまで複雑にしない方が良いでしょう。
それでもこうしたのは、そもそも時間軸の交差自体がやりたい事だったのでしょう。

かつて、映画で自在に時間軸が交差する演出を観て、ノーラン自身も魅了されたのではないでしょうか。
やられた!そうか。
映画では時間の交差は自由なのだ。
現実には起こりえない、神にしか出来ない行為が、映画の監督になれば出来る。
神にはなれなくても、魔術師くらいにはなれるのだ、と。

これに取り憑かれたら、順番に物語を語るなど、退屈以外の何物でもありません。
この後に撮った「メメント」では時間が逆行していく演出でしたが、一方方向に向かうだけなので、つまらなかったのではないでしょうか。
バラバラにして、すっかり並べ直す。
今度はどんな風に交差させようか・・・。
これ自体が最高の楽しみなのでしょう。
そう考えると、「オッペンハイマー」は相当楽しんだと思います。

ペテン師ノーランに魅了されるのはいつだって、空気男の様な凡庸な観客です。
鋭く「あそこが矛盾している!」と指摘してくる面倒な賢い観客は、対象にしていません。
なんだか分からないけど、凄いなあ!
また今回もノーランに騙されちゃった!
映画を最も純粋に楽しめる空気男達のために、彼はこれからも胡散臭くて複雑な映画を撮りつづけるのでしょう。
ミステリーが好きで、騙されてばかりいる自分も、その内の一人である事は間違いありません。

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