Mr. Bojangles。
ミスター・ボージャングル。
なんか、いい感じのCMで使っていた記憶がある。
…………………………
調べてみたら、1988年、サントリー角瓶のCMだった。
昭和63年。
まだ、CMに時代を牽引する無敵のチカラがあった時代だ。
…………………………
CMの出演は鮎川誠。
当時、39歳だと思う。
と、一匹の犬。
ニッティ・グリッティ・ダート・バンドの「ボージャングル」が話題になったらしく、8センチCDがリリースされている。
…………………………
Bojangles というのは、20世紀前半のアメリカ、エンターテインメント業界で、黒人として最も成功した芸能人である。
ビル・“ボージャングル”・ロビンソン。
ビル・ロビンソンのニックネームだ。
お決まりのミンストレル・ショーからの叩き上げで、タップダンスの王様の称号を持つ。
…………………………
Mr. Bojangles という歌は、NGDB のオリジナルではなく、カントリーのジェリー・ジェフ・ウォーカーが1968年に発表したものだ。
この歌の Bojangles という老人は、刑務所で出会ったということなので、ダンスが上手いことから、ビル・ロビンソンのニックネームを戴いたのだろう。
…………………………
日本では、Bojangles を【ボージャングル】と写してきた。
まだ、ナマの文化に接触しがたい時代で、映画の出演者、Bill “Bojangles” Robinson の名前を前にした担当者が、ケイジャン・フレンチだと、早飲み込みした可能性がある。
最後の -s はサイレントだと考えたのかもしれない。
…………………………
つまり、日本では、Bojangles を【ボージャングル】と読む伝統があったので、この “Mr. Bojangles” も『ミスター・ボージャングル』とされたのだった。
もちろん、曲を聴けば、ボウヂャングルスと発音していることは明らかである。
現在、ネットでは、
ボージャングル
ボージャングルズ
ボージャングルス
の3通りを見受ける。
…………………………
Bo [ˈboʊ] は、ケイジャン・フレンチ beau [ˈbo] の借用語で、「伊達男」 とか、「恋人」 の意味であった。
現在では廃用である。
ケイジャン・フレンチ説は、半分は当たっていたわけだ。
jangle [ˈdʒæŋl] は、ビル・ロビンソンが大声で口論する性癖があったから。
「ジャングル」 は英語の擬音語である。
「大声で口論してばかりの伊達男」。
それが、ボージャングルズ。
…………………………
初めて、ボージャングルを聴いた頃は、「美しい密林」 を思い浮かべた。
beau jungle
[bo 'ʒœ̃ɡl] [ボˈジャんグる]
だが、とても残念なことにフランス語のジャングルは女性名詞なのだ。
forêt 森が女性名詞だからなのか、あるいは、語末が -e に終わっているからなのか。
…………………………
フランス語の jungle は、英語からの借用語である。
英語の jungle は、pyjama などと同様、イギリスのインド統治時代、ヒンディー語から借用されたものだ。
当時は、ヒンディー語とウルドゥー語は分離しておらず、ヒンドゥスターニー語と呼ばれていた。
ヒンドゥスターニー語では男性名詞で、その元となった先祖のサンスクリットでは中性名詞だった。
してみると、女性名詞になったのはフランス語の事情らしい。
…………………………
フランス語で、美しい密林は、
la belle jungle
ラ・ベル・ジャングル
だったのだ。
ログインしてコメントを確認・投稿する