mixiユーザー(id:6007866)

2024年01月12日08:56

176 view

「獲る食べる生きる」

フォト

聞の書評欄で興味を惹かれた黒田未来雄著『 獲る食べる生きる 〜狩猟と先住民から学ぶ ”いのち” の巡り〜 』を読んだ。「カナダ先住民の生き方に魅せられたNHK自然番組ディレクターが『猟師』になるまでの物語」と帯に書かれている通り、著者は大自然と、そこに棲む先住民の生き方に感銘を受け、自分で獲物をとり、食べて行くことを決心する。先住民のハンターから野生動物や狩猟について学び、最初は赴任先の北海道で休日のたびに独りで山に入って狩猟をはじめるのだが、その後、離職して専業猟師への道を歩む。

 街に住み、スーパーマーケットで肉や野菜などの食料品を買い、それを調理して食べることにほとんどの人は何の疑問も抱かない。鶏、豚、牛がどのように生まれ、成長し、いかなる流通経路を経て目の前の精肉となったかを「なんとなく知ってはいるが、それ以上、詳しく考えたくない」というのが正直なところだろう。食べるために家畜の肉が必要だとはわかっていても、自分の手でそれを獲得したいと思う者は稀だ。生き物の命を奪うという行為には覚悟と技術が必要だからだ。著者は、自分が食べている肉は「動物が命を与えてくれた」からこそ存在するものであり、そのことに真摯に向き合うためには自ら獲るしかないという思いに至る。著者の考えを理解しないでもないが、これを実際、行動に移すのは極めて困難だ。

 先住民のハンターから大自然のこと、野生動物のこと、狩猟のことなどを学んだ著者が、北海道で「単独忍び猟」を開始する序盤から、実際に獲物を仕留めていく中盤までの過程は興味深い。まるで、著者の傍らで狩猟のあれこれを学んで行くような感覚になる。野生動物の行動についての描写が生き生きとしているのは、動物ドキュメンタリー番組を数多く手がけて来た著者ならではだろう。そんな中、最も感銘を受けたのは本書終盤の「ヒグマ猟記」である。猟師として5年目を迎えた著者がたった独りで、猟犬も連れずに山に入り、ヒグマの痕跡を追うものだ。小説やルポルタージュ記事とは異なり、著者自身が体験したものを書いているだけに生々しい臨場感に溢れている。文章は少々癖があるが、この「ヒグマ猟記」の素晴らしい緊張感を味わえただけでも、本書を読んだ価値は充分にあった。 
10 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年01月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   

最近の日記

もっと見る