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p.168
すでにわれわれが考察してきたように、兌換銀行券が信認されるのは兌換保証があるからだと考えるのは物々交換神話から解放されている論者は少なかったようで、国家紙幣説が多数派だった。
p.169
しかし、少数ながら、不換化しても銀行券はあくまで銀行券である、すなわち信用貨幣であると主張する論者もいた。彼らが重視したのは、兌換の有無にかかわらず、銀行券には――純粋の国家紙幣とは異なり――還流があることだった。…
…
ところが、序章注2で、「お札発行丸儲け論」に近い見解を述べている経済学者として挙げた岩井克人は、「銀行券は、形式的には他の債券と同様に発行者である中央銀行の負債である」36)と認めていながら、「個人や私企業の場合……自分の発行した借金証文や債券を持って来た人に対して、自分の他の資産を取り崩して指定の金額を支払わなければならないのにひきかえ、中央銀行の場合は銀行券を持って来た人に対しては全く同額の銀行券を手渡せばよい」37)と主張している。
p.170
前節で取り上げた「I promise to pay」と書かれた銀行券が請求者と発行者の間を1日中往復する「笑い話」を思い出してしまうが、「中央銀行の負債勘定は、中央銀行にとって決して返済する必要のない負債を表している〔傍点原文〕」38)というのである。
…要するに、不換制下においても預金・銀行券は銀行の債務であり、預金・銀行券保有者は、兌換制下における方法とは異なるとしても債権を行使しているのである39)。
…小栗誠二が言うように、現代においても「銀行券(不換銀行券)は債権・債務関係という信用関係の中で発行される中央銀行の債務である」40)。
p.171
したがって、不換制下であっても中央銀行の恣意で「銀行券の増刷」などできない。
p.173
ところが、MMTの有名な見解のひとつに、自国通貨建てで国債を発行できる政府は国債をどれだけ発行しても債務不履行を起こさない、それゆえ財政赤字を心配する必要はない、というものがある。レイはこのように言っている。「主権を有し、「不換」通貨を発行する政府は、その通貨において支払不能になることはない」5)。「政府は、自らの通貨で表示される義務において、非自発的なデフォルトを強いられることはあり得ない。自国通貨建てで売られているものなら何でも購入する「支出能力」がある」6)。
しかし、この主張は中央銀行が貨幣を自由に増加できることを想定しているに等しく、実質的には外生説になっているのではないだろうか。
p.174
自国通貨建てならば国債の償還は容易にできるという認識には、政府あるいは中央銀行は経済の外部から恣意的に貨幣を投入できるという発想が混入しているように思われる。…
p.176
国債購入を企図する者は、他の投資・貸出の場合と同じように採算や回収を考慮するので、価格、金利(利回り)、償還期限等々の諸条件によって購入の有無や量を変える。諸々の制約下にある者が価格や利回りの変動にさらされながら売買しているのが国債発行・流通市場なのである。それを想起すれば、つねに政府の意図どおりに資金調達ができる保証などないのはすぐに分かるだろう。ここでも忘れてはならないのは「信用の先行」である。
p.177
中央銀行の国債買い入れは一見すると、いくらでも買い入れができるようにみえます。しかし、中央銀行が国債を買えるというのは、通貨、すなわち銀行券ないし中央銀行当座預金という無利子の中央銀行の債務を個人や企業、民間金融機関が受け取ってくれるからこそ可能となるものです。しかし、経済状態が変化しそれに応じて金利水準も上がる場合には、民間部門が持とうとする中央銀行通貨の量も減ってきます。…
…まず、日銀の経常損益がもし赤字になるようなことがあれば、代田純が分析しているように、日銀の国債購入額が減少するという事態も起こりうると考えねばならない13)。また、日銀が国債を額面以上の価格で購入し、額面で償還される満期まで保有すれば、日銀には「償還損が発生」14)するが、「今後国債償還損は増加する可能性が高い」15)との予想もある。
p.178
いずれにしても、長期金利が上昇すれば国債利払費膨張によって財政破綻の恐れもあるので、金利上昇＝国債価格下落を避けるため日銀が国債を買い続ける必要があるとは言えるだろう。2005年1月には94兆円だった日銀の国債保有額が、2022年11月には561兆円に膨張している事実は、「国債を買ってくれる人」がもういないので、間接的にではあっても日銀がひたすら購入し続けていることの表れではないのだろうか。
p.179
デフォルトの心配はない、すなわち国債償還は容易に可能であるという見解は、中央銀行は貨幣をいくらでも創出できるという外生説である。
p.180
MMTは、貨幣生成には前提として信用の先行が必要であることを明確に自覚していないので、外生説的な貨幣増発可能論に陥ることになったのではないだろうか。
…財政赤字＝国債発行は民間預金(貨幣供給量)を増加させるのだから国内民間貯蓄は国債発行の制約ではないという主張19)は、国債は民間貯蓄によって購入されるとする伝統的マクロ経済学が行う外生説的説明に対しては一定の批判になりうるが、国債発行に制約がないという論拠にはならない筈である。
p.181
貸出とは、それによって得る債権に対応して債務を創出するのであるから、銀行とはいえ返済が期待できない不健全な資金需要には応じられないのである。貨幣の内生性の根源にあるこの信用先行(債権・債務関係生成)を忘れて、信用創造による預金創出のみを主張するのは表面的な内生説である。…重ねていえば、MMTは、たとえ内政説的認識を示してはいても、貨幣の内生性が何に由来するのかを必ずしも十分に自覚できていないゆえに外生説的認識へと陥るのではないだろうか。
p.186
まず、中央銀行券の発券については、市中銀行と中央銀行の間で信用取引が行なわれ、市中銀行の中央銀行預金が生成していることが前提になる3)。
p.187
銀行券が口座から引き出された時点から別の口座に預け入れられる時点までを視野におさめれば、結果的には「ある口座の残高を減らして他の口座の残高を増やす」、すなわち預金振替が行なわれているのである。
p.188
先行して行なわれた信用取引なしには、預金も生まれず、それゆえ銀行券も生まれず、また、その後に債務を解消するための取引も起こりようがない。
p.197
19) 「新自由主義」という概念ないし用語は、研究領域・検討課題・論者等々によって多様な意味で使用され、簡単には規定できないが、ここでは通俗的な意味で用いている。すなわち、自助、規制緩和、民営化、市場機能重視などを主張する「ネオ・リベラリズム(Neoliberalism)」である。市場経済が抱える諸問題の積極的な改革を求めるような「新自由主義(New Liberalism)」の系譜も含めての、第二次大戦後における国家と市場の関係をめぐる議論については、さしあたり権丈編著[2006]参照。
p.199
それらの動きと密接に関連しつつ、ユーロダラー取引の拡大や証券化(セキュリタイゼーション)の展開も進み、その過程で実体経済から乖離した金融が膨張したのである。
…これに対して2007年の世界貿易総額は13兆8,000なので、貿易決済に必要な外為取引だけなら4日分強で済むという計算になる。
p.200
もちろん金融の機能によって現実の生産活動が拡大することはあるし、それが金融の社会的意義であろうが、現実の生産とまったく結びつかず金融の世界だけで完結する、金融取引のための金融取引の場合には何も富は増えない。1きれのパンも1足の靴も生み出されないのである。そうした純粋に金融的活動であっても、そこから収益を得る個人や個別企業にとっては意味があろうが、その収益が他での損失から生じているなら社会全体としては既存の富が再分配されているだけで、端的にいえばゼロサムゲームである。
p.202
投機目的の外為取引を抑制すべくトービン税(Tobin Tax)が提唱されて久しいが、やはり実現は容易ではなさそうである。…
しかし、人々の真摯な活動を暮らしの向上に結びつけるためには、必ず行われる筈の先行する信用取引を、その中身に応じて促進したり抑制したりする仕組みが、外為取引以外の分野も含めて、国際的にも国内的にも構想されねばならない。
p.220
代田純 [2017a]『日本国債の膨張と崩壊――日本の財政金融政策』文眞堂。
財務省の「財政ヤバい」にダマされるな！ "増税必要なし"の納得の理由
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=141&from=diary&id=7518153
政府は通勤手当や給与所得控除、さらには退職金も狙った"サラリーマン大打撃"の増税を検討中――そんな報道が流れるや、批判の声が岸田政権に殺到。官邸はそれを否定したが、増税の気配はまだ濃厚に漂っている。
そもそも、景気回復の途上である日本で増税は必要？ その疑問に強く「否！」と答える人たちがその理由を語った！
■本当に増税しない？
今年6月末に政府税制調査会（首相の諮問機関、政府税調）が4年ぶりにまとめあげた中期答申が話題になった。
政府税調は税率の上げ下げや新しい税金の創設などを議論・提案するための機関。財務省の影響下にあり、同機関が出す基本方針は財務官僚の意向が強く反映されている。ここが数年ごとに中長期的な税制の方向を示すのが「中期答申」だ。
そして、答申には通勤手当や社宅の貸与への課税、退職金控除の見直しといった、サラリーマンにダメージを与える項目が頻出。また、失業手当や給付型の奨学金、生活保護給付などにも課税拡大を検討すべきだとの提言が並んでいたのだ。自民党の国会議員の秘書A氏はこう振り返る。
「答申の分厚さには驚きました。あらゆる増税の可能性を詰め込んだという感じで200ページ以上。財務省の増税熱がひと目で伝わってきました。奨学金まで対象になっているのはやりすぎと思いましたよ」
ただ、この答申が「サラリーマン増税だ」と騒ぎになると政権は火消しにかかる。「（サラリーマン増税は）まったく考えていない」。報道によると、岸田文雄首相は7月25日に官邸で面会した自民党税制調査会の宮沢洋一会長にこう伝えたという。
果たして本当に増税はしないのか？ ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。
「額面どおり受け取ることはできません。その直前の週末に報道各社が内閣支持率調査の結果を発表しましたが、どこも政権維持の"危険水域"である30％に迫る数値でした。官邸関係者は支持率下落の最大の要因を増税への動きと考えたのではないでしょうか。それで慌てて、増税否定の火消しにかかったのでしょう。
今、自民内では毎年9月頃にある党人事が今年は8月に前倒しになるとの観測があります。岸田首相は、内閣改造と党内人事で支持率を再上昇させてから解散・総選挙に突入したいのでしょう。選挙で勝利すれば、改めて増税への動きを加速させると思います」
鈴木氏が続ける。
「財務省の影響が色濃い岸田政権は"増税政権"だと私は考えています。第2次安倍政権の約9年間（2012〜20年）は経産省の官僚を重用していたし、続く菅政権も経産省、総務省の影響が強かった。
この10年間は、省庁のトップを自任する財務省にとって大きな恥辱でした。それが岸田政権で影響力を取り戻した。約10年間にわたり『やれなかったことをやりたい』というのが財務省の本音です」
鈴木氏は岸田政権の用いる言葉に注意を促す。
「岸田政権は『増税』という言葉を巧みに回避して、『税体系の見直し』や『公平化』といった言い回しで国民負担率が高くなる政策を進めてくるので注意が必要です。財務省と政権の動きを追う際には、国民負担率がどうなるかを考えるようにしたほうが政策の性質がわかりやすい」
ちなみに昨年度の国民負担率は47.5％。2000年度が35.6％なので、約20年間で10％超も増えたことになる。
「政府が収穫米の5割を上納することを強いて農民の一揆（いっき）を招いた江戸時代の負担率『五公五民』に近づいている。今後、この負担率がさらに上がるのか、それとも下げるための施策を打つのか、政府の税制を評価するひとつの軸にしてみてください」（鈴木氏）
それでは先述した増税メニュー以外で、どんな増税（実質的なものも含む）を狙っているのか。経済アナリスト・森永卓郎氏はこう話す。
「まずは扶養控除、配偶者控除の圧縮。いちばん大きいのは給与所得控除（課税対象となる所得から差し引く必要経費のこと）の圧縮です」
事実、先述した中間答申でも「給与所得控除の見直し」が言及されていた。それによると、"（日本では）給与所得控除により（中略）給与収入総額の3割程度が控除されるが、給与所得者の必要経費は約3％程度と試算されており、主要国との比較においても全体的に高い水準"とある。
現状、例えば年収500万円のサラリーマンだと約30％の給与所得控除（144万円）が発生する。これがもし中間答申が指摘するところの3％に下げられた場合、控除額は15万円になる。いきなり3％にすることは現実的ではないかもしれないが、仮に数％の下げ幅であっても、手取りに与える影響は決して小さくない。
このほかにも、こんな増税もあるという。
「来年から森林環境税の徴収も始まります。これは森林環境を守るために用いられるとういう名目で、住民税に上乗せされるようです」（森永氏）
■実は借金は「0円」？
次々と現れる"増税検討"メニューに、どうにも憂鬱（ゆううつ）な気分になる。しかし、森永氏はこう断言する。
「そもそも増税自体、必要ありません。今年度の基礎的財政収支は黒字になる可能性が高い。しかも、今年度中に国の借金が実質ゼロになる可能性も大です。なのに、財務省はなお増税しようとしている。むしろ減税しないとおかしいんですけどね」
でも、財務省発行の『これからの日本のために 財政を考える』（23年4月）を読むと、イヤというほど「（国の）借金」が強調されていて、「普通国債残高は、累増の一途をたどり、2023年度末には1068兆円に上ると見込まれています」（6ページ）と書かれていますよ？
「その分、日本は資産もたくさん持っています。世界の投資家もグロス（負債総額）ではなくネット（負債総額−資産総額）で見ているので、国の借金を考えるときは、こっちで考えたほうがいいでしょう。
すでに公表されている21年度の連結貸借対照表を見てみます。これは国の資産と借金の目録みたいなもの。それによるとこの年の負債総額は国債が1103兆円、その他の借入金などを合わせて負債総額は1514兆円（� 砲任后�
これに対し、資産総額は943兆円（�◆砲覆里如◆抬 櫚◆�571兆円】となります。これが日本の本当の借金額です。21年の名目GDP（国内総生産）は約550兆円なので、ほぼ同額。先進国ではこのくらいが普通です」（森永氏）
それでも借金は残っている。
「残りは『通貨発行益』で相殺されると考えています。国債を発行して日銀に買ってもらうと、実質的には借金ではなく利益になる。国債には償還期限があるからいずれ返済しなければならないのですが、その際に同額の国債を発行して、借り換えればいいのです。
それを繰り返せば元本を返済する必要はなくなります。もちろん利息は払わなければなりませんが、日銀が得た利益は、出資者への配当等を引いて国民の財産として国庫に納められる（国庫納付金）ので、結局は国民に戻ってくる。
今年4月の時点で日銀が保有する国債の残高は581兆円。これを通貨発行益と考えると、借金はゼロになります。
ただ、この考え方を財務省は絶対認めない。同省は前身の大蔵省のときから『歳出は税収の範囲内に抑えるべき』という財政均衡主義に縛られているからです。今後も変化は望めません」（森永氏）
■自民党内の"財政抗争"
そんな財務省にべったりの岸田政権だが、自民党の中には抵抗勢力もいるようだ。ある自民党関係者が内情を語る。
「党内では税制についてふたつのグループが争っています。ひとつは財務省の言いなりで、借金を減らすために歳出を抑え税収を上げようとする緊縮財政派。もうひとつは需給ギャップを埋めるためにも国が支出を増やすべきと考える積極財政派です。こちらは安倍派の議員が多いです」
需給ギャップとは従業員や設備といった経済の供給力と、消費や設備投資といった総需要の乖離（かいり）のこと。プラスのときは需要が供給を上回り、物価を押し上げる圧力になり、マイナスなら需要不足で物価を下げる圧力になる。
マイナスの場合、企業は従業員や設備が過剰で、解雇や投資の先送りに動くため、景気を悪くし、持続的なデフレを招く。内閣府によると日本の23年1〜3月期の需給ギャップはマイナス0.7％だった。
コロナ禍の20年7〜9月期がマイナス4.0％だったことを踏まえると、かなり回復してきたが、積極財政派はこの数値をさらに押し上げ景気の好循環を促進するためにも、国が減税などで企業を支援すべきだとする立場だ。
「ここ数年は毎年6月、骨太の方針が作成される時期になると、両グループが水面下で激しくぶつかり合います。
どちらかの本部が部会を開いてこんな提言をぶち上げるらしいとの情報が入ると、そこにぶつけるようにもう一方の本部が対抗するようにやはり部会を開き、反対あるいはカウンターとなる政策提言をぶち上げる。時間が違うだけで、同じ日にふたつの部会が開かれることも珍しくありません。
とにかく財務省は予算を削り、税収を増やすことだけに熱中している。そんな財務省が増税を諦めるわけがなく、しかも、岸田首相はそれに乗っかっている。景気回復途上でそんなことをしたら、日本経済が中折れするのは間違いない。なんとしても増税への動きを食い止めたいと思います」（前出・自民党関係者）
そして国民としては、やがて迎える選挙のときに投票で岸田政権に「NO！」を突きつけるのが、やはり一番の増税への抵抗になるだろう。
写真／時事通信社
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