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2023年09月06日22:45
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西突厥史の研究 内藤 みどり 早稲田大学出版部
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■三井寺の円珍関連文書「ユネスコ・世界の記憶」登録 大津市で特別展、9世紀の日中交流の歴史物語る
(OVO [オーヴォ] - 06月14日 11:20)
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p.252
それは執舎地(摂舎提)・処木昆・婆鼻の3部であった。摂舎提と処木昆部は咄陸部であり、婆鼻は、
葛邏祿……有三族、一、謀落、或爲謀剌。二、熾俟、或爲婆匐。三、踏實力。
と、『新唐書』巻217下回鶻伝下に見える葛邏祿三族の一婆匐部に比定される。…
…
要するに、乙毗咄陸可汗が、おそらくその葉護歩眞、そしてその後葉護として賀魯を置いた多邏斯川は、第三次賀魯討伐戦において賀魯が処木昆屈律啜とともに逃げ、簫嗣業らが追撃した邪羅斯川で、また五十余年後〔景雲1〜2年(710〜711)〕の東突厥のTürgiš征伐において、東突厥軍が10万のTürgiš軍と戦い、Türgiš qaγanらを殺して勝敗を決したYariš平原であり、それは処木昆部の居地、Emil河北のTarbagatai地方と、Emil河南のOmin地域を含むEmil河流域の平原であったと考えられる。
p.253
可汗の推選に、唐朝の介入参加を、西突厥の実力者(大臣処木昆屈律啜、最強の実力者阿悉結闕俟斤)が求めたところに、西突厥自身のエネルギーの弱化を見出すように思われる。
p.254
9 多邏斯川については、Kara Irtiš説、Yariš平原説、Talas説、伊麗Ili水説などがあるが、それは東突厥軍がTürgiš突騎施征伐時に、10万のTürgiš軍と大決戦を行ったYariš平原であり、第三次賀魯討伐戦において、賀魯と処木昆屈律啜が双河方面へ逃げた時に渡った邪羅斯川であり、その地は、Tarbagatai山脈の南、処木昆部の居地を含むEmil河流域であったと考えられる。
p.261
この〈闕啜二人〉が、胡祿屋闕啜を含むであろうこと、この時眞珠葉護が胡祿屋部などの咄陸部を率いて、興昔亡可汗・崑陵都護として赴任してきた阿史那彌射と戦ったことについては、すでに第2章4節2「啜と咄陸部」dで述べたところである。
p.262
千泉の牙庭が弩失畢部中にあった牙庭とｓるえば、双河の牙庭は咄陸部中(摂舎提部)にあったから、当然咄陸部支配の拠点であったことは間違いない。
p.263
阿悉結闕俟斤の名は、阿史那賀魯時代の十姓中、5弩失畢部長の一として見え、〈阿悉結闕俟斤最為強盛〉(『旧唐書』西突厥伝)と記されているように、都曼は十姓中最強部の長で、その名はトルコ語tumanの音訳で、〈万人長〉の意を持つ名であったと思われる。
p.264
とすれば、葉葉河は安集海Achihai河ではないであろうか。(3)…
…
ところが、蘇定方はこの葉葉水で都曼が馬頭川にいることを知り、精兵1万人、馬3000匹を選び、馬頭川に向かい、一日一夜で300里を駆け、馬頭川の馬保城の西10里に至った。
p.265
一方、都曼軍は砕葉を出発し、東進して伊麗Ili河を渡り、おそらく弓月城を過ぎて馬頭川に到着したにちがいない。…
…すなわち、都曼軍の本来の目的は、咄陸部、特に胡祿屋、摂舎提部を統率していた唐の傀儡政権阿史那彌射を倒すことにあり、そのためにEbi nor付近の馬頭川に陣を敷き、馬保城を拠地として、彌射との戦いに備えていたにちがいない。一方、彌射は、都曼軍の動きを知り、すでに進軍を開始していた蘇定方軍にその情報を伝え、葉葉水においてその情報をえた蘇定方は精兵を選び、300里を一日一夜で駆けて馬頭川に至ったと思われる。
p.266
阿悉吉闕俟斤都曼の乱の特徴の一は、〈其所部〉とともに、疏勒Kashgar、朱俱波Kargalīk、喝槃陀(葱嶺)Tashkurganを巻きこみ、于闐Khōtanを攻撃していることである。
p.268
この三国を結ぶルートは、疏勒Kashgarが砕葉Suyabと結ばれており、朱倶波Kar-ghalikと喝槃陀Tashkurganが吐蕃に通じていたことから、後の吐蕃の西突厥進出に、文字通り途を開くことになる。そして疏勒と砕葉を結ぶNaryn溪谷にいた弓月部も、三国とともに阿悉結闕俟斤都曼の乱に加担したらしいことは、次節で述べることにする。
p.271
そこで想起するのは、『新唐書』西突厥伝が、彌射の海政による殺害を述べた後に、
其部鼠尼施・抜塞幹叛走。海政追平之。
と述べていることである。
p.272
鼠尼施部が亀茲の北のYulduz渓谷を居地としていたこと、そして抜塞幹Upper Barskhan部が、Yulduz渓谷から天山を越えたIssyk kul熱海南部にいたことを考えると、両部が当時彌射の支配下にあって、彌射の亀茲討伐軍の主力となったと思われる。…ところが彌射が殺害されたため、鼠尼施・抜塞幹部が叛いて逃走したので、海政は亀茲討伐以前に両部の討伐を行わねばならなかったのである。…なぜなら、後にも抜塞幹Barskhanの存在が熱海Issyk kulの南部に知られているからである(第1章3節を参照されたい)。
p.273
弓月部は、松田博士が論証されているように、疏勒の北方、天山山脈のNaryn溪谷からその北方Issyk kul熱海地方にかけて居住していた部族である。(8)
p.274
阿悉結闕俟斤分ほど強力でなかった弓月部にとって、強力な唐朝に対抗してその勢力を西域に及ぼすためには、同じく西域への勢力伸張を希んでいた吐蕃勢力を借りて、まずは唐朝より西域をとり戻すことが必要であったのである。
…数千の兵を率いて、彌沙の部であった鼠尼施部のYulduz渓谷から、ともに南下して亀茲討伐を行おうとしていた䫻海道総管蘇海政に、彌沙の謀反を告げたのは歩眞であった。蘇海政が彌射を殺すと、鼠尼施・抜塞幹部が背走し、それを追討した蘇海政が疏勒討伐のためにその南に来た時弓月部と吐蕃の軍に会い、海政は吐蕃に軍資を贈って講和した。
p.274
数千の兵を率いて、彌射の部であった鼠尼施部のYulduz溪谷から、ともに南下して亀茲討伐を行おうとしていた䫻海道総管蘇海政に、彌射の謀反を告げたのは歩眞であった。蘇海政が彌射を殺すと、鼠尼施・拔塞幹部が背走し、それを追討した蘇海政が疏勒討伐のためにその南に来た時、弓月部と吐蕃の軍に会い、海政は吐蕃に軍資を贈って講和した。
p.275
しかし翌龍朔3年(663)には、弓月部は吐蕃を引いて于闐を攻撃し、さらに麟徳2年(665)にも、弓月は陥れた疏勒と吐蕃を引いて于闐攻撃を行ったが、唐軍のために失敗している。
p.276
〈匐延都督〉とは、賀魯平定後の顕慶3年(658)咄陸部の筆頭、処木昆部の屈律啜に与えられた称で、それは咄陸部の首領6人に与えられた6都督の一であった。
p.278
要するに、吐蕃のガルツェンニャの西突厥への働きかけがあり、次いで阿史那都支とガルツェンニャとの合意、そして同盟の結果、儀鳳2年の阿史那都支の乱が起されたのであり、都支の勢力は十姓に及んでいたとはいえ、その乱の契機は、吐蕃との提携に求められるのである。…
…
さて、この阿史那都支の独立に対して、裴行儉が、長安にいたササン朝ペルシアの王子泥涅師師Narsiを送るための〈安撫大食使〉を称して西突厥内に入り、阿史那都支と李遮匐を捕らえたことは有名である。
p.280
3. 阿史那都支が処木昆屈律啜であって可汗家の阿史那氏でなかったことは、その称した〈十姓可汗on oq qaγan〉が、咄陸部と弩失畢部の十姓部落を中心とする、文字通りの部族連合体の可汗であったことを意味する。
p.283
あるいは、氏が〈三姓咽麪〉を〈葛邏祿三姓と咽麪〉と解釈されているのに従えば、氏が〈大漠都督府及其三姓咽麪的轄地〉とされている〈東は額尓斉斯Irtiš河、宰桑泊Zaisan norより、西へまっすぐに今の巴尓喀什湖Barkhash湖浜まで〉は、確かに北庭都護府の管轄下にあったであろうが、その中央に位置するEmil河流域を居地とする、咄陸部中最強の処木昆部の存在を、どのように理解したらよいのであろうか。…
…したがって〈昆職〉という名の人物は、三姓咽麪の長であったことは確かであろう。
p.284
要するに、三姓葛邏禄と三世咽麪は、その長が同じ葉護Yabγuの称をとっていたが、全く別地の別部であり、この三姓咽麪が、匐延都督阿史那都支に従い、おそらく〈十姓可汗〉阿史那都支にも属し、さらに、阿史那車簿の乱時にも、その葉護の指導下に一丸となって、熱海Issyk kulで王方翼軍を襲撃したのであろう。
…いずれにせよ、咽麪の居地はBalkhash東南部Ala-tauの北に求められ、Naryn河谷から勢力を拡大し、熱海Issyk kul方面へ進出してきた弓月と結んだことは、確かであろう。
p.287
〈車薄〉は〈車簿〉と同じ音を写したと思われるが、〈十姓突厥〉〈十姓偽可汗〉〈十姓〉と、〈十姓〉をその名に付している例が多い。…
…そこで、もしこの例をあてはめることができれば、阿史那車簿啜は、5咄陸部の長であることになる。また、〈阿史那〉という氏姓が、可汗家の阿史那氏以外に見えることを、特に処木昆闕啜家の場合で見てきた。…さらに、阿史那氏が胡祿屋闕啜家にも見えることを、次章3節2の、阿史那闕啜忠節の例で証明している。そして、阿史那車簿啜の場合も、可汗家阿史那氏ではなく、胡祿屋部の長であった可能性が高いことについては、第2章2節bを参照されたい。
p.290
要するに、チンリンは、垂拱2年の前半に吐蕃にやっと帰り、翌3年に再びDru-guのGu-zan亀茲進軍を行い、永昌元年に帰ったのであるから、おそらく垂拱年間は、ほとんどDru-guの国へ行っていたことになる。
p.292
垂拱2年(686)の時点で見える〈金牙軍〉が、阿史那車簿の乱後、弓月城、あるいはその北の金牙山に置かれた鎮軍で、金山都護府の管轄下にあったのではないかと想像されるのであるが、史書はその後の金山都護府についても、金牙軍についても、黙して語らない。
p.297
北は突厥人阿瑟那(阿史那)鼠匿の子遏波之で、渇塞Qasan、Kasan城を都とした。南はイラン人系契苾の子阿了參が、呼悶城Khujandahに拠って、その勢力を回復したので、遏波之はSyr河北岸の西鞬城Aksikant、Akhsikathから、その西北の渇塞Kasanへ都を移したのであった。
p.299
佐藤氏はこれをBlon brtsan nenと還元され、さらにこのロンツェンニェンを、『于闐国懸記』のガルロンツェンニングントン、すなわち『年代記』羊の年(695)に見える、ツェンポに退けられ殺されたガルツェンニェングントンとされている。(42)…
…要するに、俀子とともに王孝傑軍に敗れて以来、吐蕃における指導力は、徐々にガル一家からツェンポに移行し、聖暦2年には、完全にツェンポに移ったのである。
p.300
次に最後の〈胡祿〉は〈胡祿屋〉にちがいなく、咄陸部の一部である。そして〈突厥施質汗〉の〈突厥施〉は〈突騎施〉であると思われるが、〈質汗〉については対比すべきものがなく不明である。しかし、もし〈質汗〉の中の〈汗〉がkhān、あるいは可汗を意味していたとすれば、この時すでに突厥施部の長はkhānあるいは可汗を称していたことになる。この汗が突騎施烏質勒であったかどうかは不明であるが、このころすでに強力化していたと思われる突騎施部(次章参照)を考えると、全くありえないことではないようである。
p.301
このガルタグゥがチンリンの弟悉多于ツェンワで、ソグダクがソグド人を指すことは、Fang-kuei Li、佐藤両氏の論じられた通りである。
p.303
もし阿史那俀子をこのKha-gan Ton-ya-bgo統葉護可汗に比定することが誤りでないならば、阿史那俀子の乱の結末は、延載元年(694)の武威道総管王孝傑軍による俀子・孛攵論贊刀軍の撃破、及び砕葉鎮守使韓思忠の西突厥部・吐蕃軍攻陥で終るのではなく、少なくとも699年から700年にかけての俀子の動きと西突厥の状況まで、考察しておかなければならないであろう。
p.306
これらのうち、ⓐは斛瑟羅が、父阿史那歩眞の可汗号や都護の称を継襲する以前に、歩利bori(狼)設sadを称していたことを述べているが、これは『通典』西突厥伝にだけ、同文が記されている。
p.309
もしこの東突厥軍を默啜可汗軍とすれば、先述したように、〈垂拱〉ではありえないわけであるから、骨咄禄時代の十姓侵掠の事実が、どうしても浮び上がってくる。そして垂拱2年(686)かその翌年に鉄勒を破ってUtukan烏徳犍山に牙庭を置き、モンゴリアを統一して第二帝国を完成した骨咄禄Iltiris qaγanが、その勢いを駆って西突厥部に入ったであろうことを想定しなければならないし、また想定しうることである。
p.315
烏質勒系と蘇祿系の部は、後に黄姓と黒姓の部落として突騎施における可汗位争奪戦を行うが、ここで新興の蘇祿が〈突騎施別種〉と述べられているのは、その当時、突騎施部における本流であった烏質勒系部、すなわち後の黄姓に対して〈別部〉であったことを示している。
p.316
このうち、�六嚇堝追椶涼屬�れた阿利施部は、あるいはかつて賀魯時代の突騎施部の首領として知られた賀邏施啜の部であったかもしれない。一方、嗢祿都督府の設置された索葛莫賀部についても不明であるが、後に烏質勒は嗢祿州都督とされ、その子婆葛も同じ嗢祿州都督を継いでいる。
…おそらく烏質勒は、斛瑟羅の牙庭で〈索葛(髪の意)莫賀達干Sac Baγa tarqan〉を称していたらしい。
このように考えると、賀魯時代、突騎施部で十姓に数えられたのは賀邏施(阿利施？)部系だけで、索葛莫賀部はその〈別部〉であったと思われる。
p.320
『旧唐書』巻194上突厥伝によれば、
(聖暦)二年、默啜立其弟咄悉匐爲左廂察、骨咄祿子默矩爲右廂察、各主兵馬二萬餘人。又立其子匐俱爲小可汗、位在兩察之上。仍主處木昆等十姓兵馬四萬餘人。又號拓西可汗。自是連歳冦邊。
と述べられており、聖暦2年(699)、東突厥の默啜可汗Qapγan qaγanは、その弟咄悉匐と骨咄祿Qutluq、Iltiriš qaγanの子默矩(後のBilgä qaγan)を左右の設šadに配すると同時に、その子匐俱に拓西可汗の称を与えて、西突厥の処木昆部らの兵4万を統率させ、辺を犯させたという。ここに見える拓西可汗が、西突厥の十姓部落のうち、特に西方に住地を持っていた咄陸部中の処木昆部らの兵4万を持っていたことは、このころすでに東突厥による西突厥部侵略が行われていたことを示している。金山Altaiを越えて東突厥の勢力が処木昆部などの咄陸部にに及んでいたことは、より西部にいたとはいえ、同じ咄陸部である突騎施部にとっては身の危険を感じる重大事であったはずである。
p.322
阿悉吉薄露の後に吐蕃がいたことは、『冊府元亀』に封思業らが吐蕃と阿悉吉薄露を斬ったと記されていることから知ることができるが、薄露は吐蕃軍の応援を受けて自負していたらしく、唐軍の到着した砕葉城のそばに夜こっそりやって来て、唐軍のラクダや馬を掠奪して逃げた。
p.324
そしてもし、阿悉吉薄露が、阿悉結泥孰俟斤であるとすることが許されるなら、阿悉結泥孰俟斤部に千泉都督府が設置されたことは、第1章3節で述べている通りであるから、薄露の拠城を千泉Merke付近に求めることができよう。
p.331
そして1都督が7000人の兵を率いていれば、総勢14万人となる。…
…しかし1部中に、また多数の下級部族が含まれていたことは賀魯時代の処木昆部の例など(18)によっても知られるから、20員の都督はそのような下級部族の長もあわせていたと考えられる。…
…
(18) たとえば、処木昆部の長は屈律啜であるが、その他に万余帳をもって蘇定方に来降した俟斤irkin嬾獨祿の存在が見える。
p.332
おそらく回紇における都督tutuq制導入に、この烏質勒の都督制が何らかの影響を与えたことは確かであろう。
…
一方、松田壽男氏は註(17)で引用した『皇與西域図志』卷13によって、Ili河とCharyn河の合流点付近を小牙の一と認め、嗢祿はトルコ語で〈大〉を意味するulugの音訳らしいとされている。
p.334
(22) 1部族の兵数を記す例はほとんどないが、蘇定方が賀魯討伐のため金山を越えて処木昆部を目指した時、『旧唐書』巻83蘇定方伝
其俟斤嬾獨祿以衆萬餘帳來降。
と述べているから、処木昆部を構成する一部と思われる俟斤嬾獨祿部は、およそ1万余帳であった。
p.338
1. 神龍2年(706)閏月29日、烏質勒は懐徳群王に封じられた。
2. 神龍2年12月、安西大都護郭元振と御史中丞解琬らが砕葉の烏質勒庭を訪れ、談合していたが、その最中に烏質勒が死亡した(11日以後、28日以前。おそらくは11日に近いと思われる)。その子娑葛は突騎施王国を継承し、安西大都護郭元振の誠意を認めて唐との通好関係を保った。
3. 神龍2年12月28日、十姓可汗阿史那懐道が唐朝より使節として派遣され、嗢祿州都督娑葛をその後継者と認め、左驍衛大将軍、衛尉卿、懐徳群王を継襲させ、封冊した。この時、宮女4人が娑葛に贈られた。
p.339
4. 景龍元年(707)、娑葛は遣使して、5000匹の馬、200匹の駱駝、十余万頭の牛羊を中宗に贈った。中宗は萬騎の雨林軍をつらねて使者を引見し、労をねぎらって贈物を与え、両者の関係は最高潮に達した。
5. 景龍2年(708)、中宗は御史大夫解琬を突騎施に派遣し、娑葛をさらに〈金河郡王〉に封冊した。
p.340
まず、〈十姓大首領鹽泊都督阿史那忠節〉についての復原は、そのまま受け入れることができよう。『長安志図』が〈鹽風〉と〈都督〉との間に置いた一次分の欠は、銘文の読みようによっては不要であることを、『金石録補』が示しているし、〈鹽泊都督府〉が正しいことは、氏が忠節の〈闕啜〉の官号から、〈胡祿屋闕啜〉とされ、胡祿屋部に置かれた〈鹽泊都督府〉との関係を、見事に証明されているからである。(28)
p.341
ただ、上の吐火羅条の文は、月氏都督を、その〈王阿史那〉との関係が疑われるかもしれない。…
それよりも問題となるのは、西突厥滅亡後設置された都督府制の中で、同一人物が〈月氏都督〉と〈鹽泊都督〉を兼任したことになる点で、また月氏都督がAmu河南の遏換城、阿緩城War-waliz(現Kunduz)(30)に置かれ、一方、塩泊都督府が、陳氏のいわれる〈其轄地在今准噶尓盆地的北部瑪拉斯湖一帯〉の中心部に置かれたとすると、(31)両所は全くかけ離れているのである。しかも月氏都督は〈其王〉すなわち現地の吐火羅王であったから、胡祿屋部の首長闕啜では全くありえない。
p.342
一方、阿史那賀魯の十姓部落中、咄陸部を説明して、『旧唐書』西突厥伝が、
二曰胡祿屋闕啜、賀魯以女妻之。
と、胡祿屋闕啜は賀魯の女婿であったことを記しているから、初代塩泊都督は賀魯の女婿、あるいは賀魯の娘の子であったにちがいない。
p.344
そして胡祿屋阿史那闕啜は〈左武衛大将軍〉に任じられるとともに〈忠節〉の名を与えられて、〈塩泊都督阿史那闕啜忠節〉となったのであろう。
p.345
烏質勒は、胡祿屋部の首長闕啜忠節を部将として自らの体制の中に組み入れると同時に、特に顧遇したのではないだろうか。
p.346
しかし、阿史那忠節の胡祿屋部の居地は、Ebi norの南、あるいはAyar nor付近に比定されており、(33)とても金山地帯まで、その勢力を拡大していたとは思われない。
p.347
この〈兵衆〉が、胡祿屋部の衆であったことはすでに述べたが、この〈兵衆〉が、胡祿屋部すべてではないとしても、相当の勢力であったことは、郭元振も〈瓜・沙等州〉に安置することを建言していたことからも知られよう。
p.349
しかし、奪回された忠節について、あるいはその胡祿屋部について、記している史料はもうない。おそらく娑葛軍に敗北して捕虜とされた胡祿屋部衆は、娑葛とともに西突厥部に戻ってその勢力とされ、忠節は〈一老胡〉として、唐朝でその生涯を終えたにちがいない。
p.350
そしてこのような動きの影には、唐内部において、強力な娑葛勢力と友好関係を維持しようとする郭元振と、娑葛勢力を忠節と吐蕃とを利用して追放し、阿史那氏を十姓可汗として冊立し、唐の影響力を及ぼそうとする周以悌の二派が対立し、画策していたのである。
p.354
さらに突騎施について、松田氏は〈突騎施には、獨立の國を營んでいたころから、黒姓と黄姓との別があって、時に両姓の可汗が並立した場合さえ見受けられた點をとりあげる〉とされ、突厥碑文に見えるQara Turgis黒姓突騎施が、景雲元年(710)にまで遡りうることを、小野川氏の論文を引いて述べられている。(42)
p.357
そして、三姓咽麪の部族長が葉護Yabγuを称する一人の人物(昆職)であった例からも、三姓咽麪は一姓として扱われたと思われる。
p.369
なんといっても、ペルシア語であるというKermichionが、同時代に活躍したSpet Xyonすなわちエフタルとともに、Karmi(r) Xyonとしてペルシア語文献中に顕在するのである。…
2) 一方、Macartney氏は、Menandros(Fragmenta 19)によって、トルコ人がもとSacaeと呼ばれていたことを挙げ、かつてのSacaeの地域である天山地方の草原にいたトルコ人と区別して、Massagetaiと呼ばれたKermichionを、アラル・カスピ海方面のChionitaeに比定された(13)。…
…
さて、Askelを、西突厥十姓中、弩失畢部の阿悉結O-si-kie/a-sjet-kietに比定し、その首長を十姓中最強といわれた阿悉結闕俟斤とされたのはHarmatta氏である。
p.373
ただし、G. Schlegel氏は、阿悉結O-si-kieの古音をAsikkilと復原されている。…
…初期突厥において、弩失畢部はいわば外様であったように思われる。また弩失畢5姓が事実上、阿悉結、哥舒、拔塞幹の3部で構成されていたことも、本来、3部よりなる1グループであったことを示唆していると考える。
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■三井寺の円珍関連文書「ユネスコ・世界の記憶」登録 大津市で特別展、9世紀の日中交流の歴史物語る
(OVO [オーヴォ] - 06月14日 11:20)
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滋賀県大津市の天台寺門宗総本山・三井寺（園城寺）が所有する国宝「智証大師関係文書典籍」「五部心観」2件が2023年5月25日、「ユネスコ・世界の記憶」への登録が決定した。それに伴い大津市で特別展などのイベントが開催される。
今回登録されるのは9世紀の日本と中国の文化交流を記す史料群で、2件は「智証大師円珍関係文書典籍−日本と中国の文化交流の歴史」の一部として登録される。資料群を構成するのはこのほか、いずれも東京国立博物館所有の国宝「円珍関係文書」と「円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書」。
これらの史料には当時の大帝国・唐の制度を示す文書の原本が完全な状態で含まれており、特に、園城寺が所有する唐の役所が発給した通行許可書「過所（かしょ）」は、唐代の書式例を完全な形で伝える世界で唯一現存する一次史料。過所には「円珍は、越州の開元寺を出発し、洛陽・長安・五台山を巡礼し、再び開元寺に帰還する予定である。その往還の州県にある関津などで、官司にとがめられないよう、交付申請を行う」という趣旨が書かれているという。これらは円珍（814〜891年、追号は智証大師）が日本に持ち帰り、1100 年以上にわたり保管されてきた。
円珍は、853 年から858 年まで遣唐使として唐に留学。日本の仏教普及に重要な働きをした日本天台宗の高僧で、第5 代天台座主として園城寺を再興、天台寺門宗の宗祖と仰がれている。円珍にまつわる膨大な文書典籍がまとまって伝来したことは、日本の宗教史上においても希少とされる。
今回の登録について地元滋賀県の三日月大造知事は「円珍上人が中国への命がけの旅をへて日本に持ち帰った大切な古文書や典籍類が、度重なる戦乱や災害をくぐり抜けて守り継がれてきた結果、世界に唯一現存する貴重な記録として認められたものであり、滋賀県民にとっても大きな喜び」とコメントした。
2件の特別展示は滋賀県大津市の園城寺文化財収蔵庫で7月2日まで、大津市歴史博物館で7月4日から30日まで行われる。7月27日には「智証大師円珍の足跡と『世界の記憶』」（仮題）と題した福家俊彦氏（園城寺長吏）の講演会が、午後2時から大津市の「コラボしが21」で開かれる。
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