本作は、ミア・ゴスが年齢差のある二役を演じ話題になったA24制作の『X エックス』の続編だ。殺人鬼パールはいかにして誕生したかの過去を解き明かす。
1918年が舞台の本作は、発色の強い当時のテクニカラーを意識した映像を採用。農村で働くパールの姿はまるで「オズの魔法使い」のドロシーのようだが、このドロシーまったくのサイコパスだ。
我々は未来でパールが殺人鬼になるのを知っている。
未来で老女となったパールは、若さに溢れる奔放な女優マキシーンと自身を比較し、殺人衝動を爆発させることになる。*1
彼女が殺人鬼/キラーへと覚醒するきっかけは、やっぱり抑圧。本作はキリスト教的禁欲と性的抑圧が大きく関わる。
未来と同様、彼女は、厳格に宗教の教えを守る母親へ束縛され、障害を持つ父親の世話を行う。戦地に夫は従軍。愛し合う相手はいない。当時流行したスペイン風邪も拍車をかける。とにかくパールはがんじからめだ。*2
その彼女にロマンスを囁く間男と、彼女が夢見る女優への未来がしめされる。だが、それはパールを徹底的に見放し、絶望の中で彼女は暴走する。*3
スラッシャーホラーとしては、第1作目よりもパワーアップ。作品のアイコン――レッドワンピースをまとい、笑顔いっぱい、ピッチフォークで相手を突き殺す彼女の姿は非常にパワフルだ。
戦地から帰還した夫が妻の凶行を知る「食卓の風景」は異様そのもの。最後を飾るミア・ゴスの笑顔の長回しがすさまじい。*4
※1 本作ではパールが閉塞した農村の生活から脱出するため女優を夢見た過去がしめされる。彼女が第1作目でマキシーンに羨望と嫉妬の感情をもったのは、この経緯からだったことがはっきりする。ポルノモデルとはいえ女優は女優。舞台でセンター。マキシーンはパールが夢見た「自身」にちがいないのだ。
※2 正直なところパールには少々“同情”する。当時の家族的価値観、家父長制、宗教倫理の中でパールには自身を“解放”する場所が一切なかった。またタイ・ウェスト(監督)が「スペイン風邪」を引き合いにだしたのは、新型ウイルスの流行で当時人々がしいられた隔離生活の反映もあるのだろう。
※3 オーディションで女優の立ち位置をあらわすテープ(ばみり)が白い×印――つまりは「X(エックス)」だというのが示唆的で暗示的だ。パールはこの位置に立ちオーディションに“失敗”したとき誕生した。本作では「X」の文字がよく言及される。「X」は「x-factor」へ通じ、「x-factor」は「未知」「未知の要因」「未知の人物」「特異」をあらわす。イーロン・マスクが「X」にこだわるのもこの理由からだ。
※4 この長回しの演技をふくめ、作中で彼女がずっとしゃべりつづける長回しの台詞など、本作の大半はミア・ゴスの演技が冴え渡る。
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