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2023年05月26日23:12

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誰が履くか? 誰が売るか? 『AIR/エア』

あのジョブスも、本作の舞台となるナイキの公告戦略は賞賛した。 *1 物語は、現在でも1年で6000憶円以上を売り上げる“エア・ジョーダン”の誕生秘話だ。

1980年代、ナイキは低迷していた。*2

閉鎖が迫るバスケットシューズ部門の責任者ソニー(マット・デイモン)は、現在同様、ドラフト上位指名選手と契約。自社製品の広告に採用する戦略で、異例の行動に出た。彼が才能を認めたマイケル・ジョーダン(以下MJ)1本に契約をしぼり、MJ自身をブランドと化す方法だ。

自身をふくめ、いまマーケィングに関るヒトたちが見たなら、ソニーの行動はむちゃくちゃだ。エージェントをはさまずに選手へ会いに向かう、CEOフィル・ナイト(ベン・アフレック)へ直談判に行く、シューズ開発の責任者ムーアに短期間で試作品の制作を頼む。常習的ルール違反。荒々しい情熱の「Just do it(とにかくやれ!)」*3

本作の秀逸な部分は、現実でも、MJの人生の支柱となった母親デロリス(ヴィオラ・ディヴィス)の息子への思慕、同時にソニーがMJへ送る即興のプレゼンだ。

プロスポーツにおける選手生命は短い。

2人は絶頂以降も人生が続く事をMJに教え、MJとの生涯契約へ踏み込む。この助言は、母親デロリスゆえ、また仕事で辛酸をなめたソニーゆえに重みが加わる。*4

本作はパワフルな時代のアメリカを舞台に、情熱と人間がつむぐ、営業シンデレラストーリーだ。ひと仕事やり終えた終劇では余韻が漂う。


※1 「(ジョブス)ナイキの広告では、製品について一切語らない。エアソールがリーボックより優れているなんて言わない。ナイキは広告で何をしているのか? 偉大な選手を称え、偉大な競技を称える。それは彼ら(ナイキ)が何者であるか、存在意義は何かということだ」 ジョブスはナイキが、製品の機能ではなく、競技ファースト/選手ファースト――バスケットボール自体を称賛して、顧客に“価値”をすりこむ部分をほめたたえた。ファンたちは、製品を買い、会社と一緒に“価値”の一部になるのだ。これらは現在も続く、アップルとユーザーの相互的価値観へと通じる。

※2 当時のバスケットボールシューズのシェアトップは、コンバースとリーボックが8割を独占していた。超弱小のナイキは残る2割のうちの10数%のシェアしかなかった。

※3 「Just do it」を代表に、ナイキの社訓が画面に登場し、それへそった物語が展開していく部分がおもしろい。

※4 現在は当たり前になった選手との生涯契約の皮切は、ナイキとMJが締結した契約が雛形となっている。また、この即興のプレゼンでソニーがMJに語る「絶頂のち絶望」の話は、現在まで「栄光と転落」の両方を体験した、監督ベン・アフレックのキャリアとも多少かぶる部分がある。
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