「奈良はね、京都に来たついでに、ちょっと足を伸ばして寄ってみようかという感じの観光客が多くて、虹さん達のように奈良がメインで3泊もする客は少ないんですよ」
奈良の一棟貸し古民家ホテルの宿主はそう言って私たちを歓迎してくれたが、明らかにホテルは老後の趣味で始めました、というスタンスの宿のようだった。
写真��
入り口を入ったらすぐ前にはホームバーがあり、世界中を旅して集めたウイスキーやお酒などが棚にずらっと並んでいる。
＊写真��
宿主の酒好きの趣味のそんなこだわりもまた古民家ホテルに一味添える。
リクエストがあれば一部のお酒をご馳走していただけるらしいのだけど、あいにく私は飲めないし、主人もお酒はドクター・ストップがかけられて飲めない。
でも、このウイスキーはどこでどうやって集めたかと言った話が面白く、去年の12月に泊まった倉敷の古民家ホテルとはまた違った魅力のある宿だった。
何しろ営業日が基本は週5日で、何かの時は平気で3日も4日も休まれているらしく、稼ごうという気配がない。
食事は朝食のみだけど、とてもアットホームなおもてなしで、食器等のこだわりもおしゃれ。
ホテルだとこうはいかないだろう。
それにしても奈良は寺が多い町だ。
ならまちの通りは古い格子戸のある家が並び、倉敷と同じような雰囲気はあるが、とにかくお寺が多い。
驚いたことに泊まった古民家ホテルの中庭の塀は世界文化遺産、元興寺の塀になっていて、塀を乗り越えたら無料でお寺の境内に入れると言う身近さ。
＊写真��
(突き当たりの木に隠れるようにあるのが、その塀)
古民家ホテル自体が元々は江戸末期に建てられた家だったと聞いたが、その頃はお寺の外塀にくっつくように家を建ててもお咎めはなかったのだろう。
大阪、京都、奈良と関西は東京より都の歴史がある町が固まっている所だが、県民性はそれぞれだ。
大阪は商人の街で「儲かりまっか」「ぼちぼちでんな」が挨拶だと聞くが、京都は「ゆっくりしていきなはれ」と言われたら本音はその反対だと聞く。
奈良にはそんな県民性を表すような話はあまり聞いたことはない。
夕方早々に店を閉めたりする商店や、マイペースで宿を切り盛りする古民家の宿の夫婦も商売っ気もなければ、気負いもないからだろうか。
なんでも家をリノベーションした時に地面を掘ったら古銭が出てきたと言う。
金貨ならともかく、そんなものが出てきたら工事ができなくなるだけでいい迷惑だからと、慌てて欲しがった工事関係者にあげ、残りはすぐ埋めてもらったと笑う。
私の方が目を丸くしたら奥様曰く。
「この辺はちょっと掘ったらそんなのが結構出てくるのよ」
なるほど。
奈良は歴史も文化も声高に自慢せず、でしゃばらず、欲張らずに、ただただ寡黙に悠久の時だけを眺めて来たのだろう。
そんな町や人が出来上がったのは、お寺が多いことと何か関係があるのかもしれない。
そう思ったけれど、それはいささか穿ちすぎだろうか。
ログインしてコメントを確認・投稿する