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2023年02月21日06:09

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作品を読む 『陸王』を観た

 今更ながら『陸王』を観た。非常に面白かった。しかし何故今更、というと、奥さんが「佐野くんと竹内くんが出てるから観たい!」と言い出してレンタルしてきたのだ。言うまでもないが二人はライダーであり、佐野岳(仮面ライダー鎧武 葛葉鉱汰)、竹内凉真(仮面ライダードライブ 泊進之介)となる。

 まあ世間的には竹内くんは人気者だが、我が家では実は佐野くん推しなのだ。というのも、実は佐野くんは我々の後輩ということもあり、勝手に親近感を持っているのである。…が、この『陸王』では、竹内くん演じる茂木選手が、勝手に親近感をもたれる役で、佐野くんは茂木選手のライバルである毛塚役だった。

 二人はマラソン選手なのだが、佐野くんも竹内くんもサッカーをやっていて身体能力が高いので、走ってるシーンが本当に様になっていた。このドラマはそれだけでも、非情な幸運に恵まれたキャスティングができたドラマだと思う。二人が並ぶ絵面が本当によかった。

 が、まあそれをおいてもお話しが面白かった。こはぜ屋という老舗の足袋屋が、ひょんなことからマラソンシューズ造りに挑戦する…というお話だ。足袋の縫製の高い技術はあるけでろ、市場は縮小している。もう、銀行の融資も受けられるかどうか判らない…というピンチの状態がスタートだ。
 
 まずピンチから始まる。これが池井戸潤のテクニックだ。これでまず、見ている人間を引き込む。実に上手い。そして一つピンチを解決する糸口が見えたと思ったら、またさらなるピンチに陥る。これがまた上手い。ついついハラハラして、続きが気になる。池井戸潤のこの作劇術に、実に感心した。

 無論、そういう事は言葉では判ってはいた。『新宿鮫』の大沢在昌の本、『小説講座 売れる作家の全技術』でも次のように書いている。

『「主人公に残酷な物語は面白い」。これテストに出ます。絶対に覚えておいたほうがいい。残酷であればあるほど、主人公が苦しめば苦しむほど、物語は面白くなる』

 理屈としては判っていても、これを物語の筋で実戦するとなると中々に難しい。強い敵が出てくるとかいうのは判りやすいが、池井戸潤の上手さは、その困難が社会的な条件として出てくるところが面白いのだろう。

 『陸王』ではまず機械が無くなった、というところから始まり、融資が降りない、ソウル(靴の底の部分)の素材がない、素材造りの相手が協力してくれない、大手のシューズメーカーが選手を引き抜こうとする、大手が素材屋を引き抜いてしまう…など、色々多彩な手で(爆)ピンチになる。なるほど〜、と思うのだ。

 『陸王』では「こはぜ屋」に対して、世界的シューズメーカーの「アトランティス 日本支部」が立ちふさがる。金と勢いにものを言わせて、様々な横やりを入れてくるのだが、この日本支部の代表を演じるピエール滝が上手すぎて、本当に憎ったらしく見えてくる。

 この『大手』対『中小企業』の構図は、『下町ロケット』でも同じであった。が、『下町』の方は、大手に吉川晃司がいて、「実はいい人」のケースなのだが、この『陸王』は完全に敵である。そして選手は自社の広告塔でしかなく、怪我でもしたら使い捨て、それでも「うちを選ぶことが、君の将来につながる懸命な判断」と断言する、あくまで上からの物言いなど、『大手の論理』というものが象徴的に描かれた形だった。

 単純に筋を追っても面白いのだが、この『大手の論理』が興味深かった。僕はこれを観ながら、ふと思ったのだ。恐らく、イスラム国などを反米主義を取る小さな組織は、きっとこういう気分なのだろう、と。

 アメリカは巨大資本と軍事力で、「自分たちこそが世界の中心」として振る舞う。従っているうちはいいが、従わなければ手の平返しで潰しにかかる。そういう『大手のやり方』に対して、反抗したい。従いたくない。そういう気分があるのだろう。『こはぜ屋対アトランティス』は、世界のあちこちに見られる構図なのだ。

 そしてここで改めて考えてみる。大手はなぜ、大手なのだろう? それは大量の消費者がいて、資金力があるからだ。つまり、やはり大手の商品を皆が購入するから、大手は大手なのである。小さい所がいいものを造ったから、と言って、これは中々ひっくり返らない。何故か?

 大手はいいものを、大量に作るがゆえに安価で売れる。また大量消費の傾向に合わせて商品種類を多様にできる。こはぜ屋は極みのシューズである「陸王」と、その技術を生かして造った新技術の足袋「足軽大将」が主力の商品。ラインナップ数は、看板商品しかない。

 これに対しアトランティスの方は、詳しく描写はされないが「〜モデル」みたいのが沢山あるわけだ。そして一つのシューズのために、開発資金を大量にぶち込んで、データを取って、いいものを造るのである。

 これに対し、「手縫いの縫製の技術が高い」という、パート従業員のおばちゃん達に頼る小さな足袋屋が、対抗できるはずがない。はずがない、のに対抗する。それがファンタジーである。そう、これは現代ビジネスものなんだけど、やはりファンタジーなのだ。その辺が、まあ池井戸潤の上手さだ。

 が、長野に住んでると判るが、地方の企業は中々に元気だ。自分たちのプライドを持って仕事している、こはぜ屋や、『下町ロケット』の佃製作所みたいなところが多い。高い技術を持って、大手に商品を降ろし、それが全国シェアを持ってる中小企業さんも少なくない。

 なんでそんな事を知ってるか? ラジオやテレビで結構、そういう事をやるのだ。長野企業の社長の話を聞くとか、会社、イベントを紹介するなど、地方に密着した情報が非常に多い。これは東京に住んでいた時にはあまりなかったもので、長野に越してきてからのリアルである。つまり、『小さくても頑張れる」のはファンタジーなんだけど、やはりリアルなのであった。
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