mixiユーザー(id:24167653)

2023年01月04日15:25

300 view

小説を作成しました!「破岸一笑(はがんいっしょう)。」B

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」シリーズのその後を描くスピンオフ作品です。
そちらを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定のスピンオフ作品群について、世界観や登場人物の説明まとめ(適宜追加予定)。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653




小説「破岸一笑(はがんいっしょう)。」A前編
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088391&owner_id=24167653

小説「破岸一笑(はがんいっしょう)。」A後編
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088413&owner_id=24167653

声劇台本「破岸一笑(はがんいっしょう)。」C
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088484&owner_id=24167653





「破岸一笑」B




 あの馬鹿。なんで、あの馬鹿。何から言ったら良いんだ、紫雨(しう)君。紫雨君の馬鹿。遙千 紫雨(ようせん しう)の馬鹿。紫雨君に自分の馬鹿さ加減を分かってもらうのに、一体何から話を始めたら良いものか。

 なんであんな。私を一体何だと思ってるの、本当に馬鹿なんだから。ああもう、考えすぎて頭が痛い。パジャマに着替えてベッドに入ろう。電気も消してしまえ。

 しかしながら。いざ布団に入って横になると、意識が変に頭の方に集中してしまう。仰向けは仰向けで後頭部に違和感があるし、横向きは歯に悪いって聞いた事があるし、うつ伏せは息が苦しくて論外。どんな体勢でも寝苦しい。枕が合ってないのかも。



 ああ、もう。私のせいなのかな。それは私も彼女として、至らないところは沢山あると思う。そもそも、二年以上付き合ってきて、それでも彼の前でろくに笑えすらしていないのは本当に悪いと思うし、甘えすぎだと思う。私が自分の過去の荷物を整理できないままずっと居るせいで、どれほど紫雨君につまらない思いをさせてきたことだろう。

 普段の会話だってそう。普通の中高生らしい会話なんてできなくて、私が口にするのは、やれあの草が何だとか、やれあの花が何だとか。あとは今日の空には特別な星が見えるだとか、今日の月はいつもより近づいてるだとか。私は落ち着ける相手と一緒に居る、その時間が好きだから。だから一緒に居る時わざわざ話し続ける必要も感じないけど、普通はそんな事無くって、ろくに喋りもしない相手となんて一緒に居たって楽しくないはず。なのに私が出せる話題なんてそんなものしか無くて。それなのに、あなたはずっと私の事を好きで居てくれて。



 私がどれだけ、人を、というか人の気持ちを信用できない事か。紫雨君だって知ってるでしょ、響 音踏(ひびき おとふみ)君の事。中学一年の時、響君が交通事故で亡くなって。クラス皆、響君の事のけ者にしたり陰で悪口言ったりしてた癖して。しかもその原因があの子が他の子の財布盗んだんじゃないかって、なんの証拠も無いただの想像で。響君家(ひびきくんち)があんまりお金無いからって言いがかりで。そんな酷い事してた癖していざ響君が死んだらわざとらしく泣いてた人達が、どれだけ私にとって気味が悪くて見たくないものだったか。そんな時にすら不謹慎にふざけた事を言って笑っていた人達にもいらつきはしたけど、それでも泣いていた人達と比べたらまだ嫌悪感は多少なりとも少なかったよ。理解できなかったし、理解しようと考える事すら嫌だった。

 気分が悪くて、そんな人の気持ちなんて理解したくなくて。しかも私は、誰にも言ってないけど響君に事故の前日告白されて振ってて。だから私があの事故を最初聞いた時、私のせいで自殺したんじゃないかって思って、その後先生からの事故の内容の説明を聞いて「確実に自殺じゃない。その状況だったら絶対にただの事故だ。自殺じゃない。私のせいじゃない」って。響君が亡くなった事に対する悲しみや無念さなんかよりも、自分のせいじゃないって証拠をかき集めるのに必死で、自分のせいじゃないと確信が持てるとそれに安堵して。私は自分で自分が醜くて仕方なかったよ。他人(ひと)の気持ちも、自分の気持ちも、気色悪くて受け入れられなくて、何より信じられなくなったんだよ。周りの生徒達は散々響君をのけ者にしておきながらあんな安っぽい涙を零すのに、仲の良かったはずの私は涙の一つすら流せない。



 その後も響君が夢に出てきた。それも、車に轢かれそうになりながら「あ、別に死ぬつもりはなかったけど、まあ死ぬなら死ぬで良いか。遊語(ゆうご)さんにも振られたし」と穏やかな表情で自らの死を受け入れている夢。

 なんのつもりだ。なんのつもりでそんな夢を見るんだ私は。私は一体何の気持ちを抱いているんだ。



 自分で自分が分からなかったし、他人(ひと)の事も分からなかった。人の感情、気持ち。そういうのが全然分からなくて、考えたくもなくて、自分の中身を見る事も怖くて、何も受け入れたくなくて、嫌で、嫌で。ずっとずっと過去を引っ張り続けて誰にも心が開けなかった私に、紫雨君は仲良くなりたいって言ってきてくれて、こんなつまらない私とずっと一緒に居てくれて。いつも紫雨君は楽しそうにしてくれた。私の好きな景色だとか草だとか花だとか、そういうの言う度に「遊語(ゆうご)さんの好きなものが知れて嬉しい」だなんて。

 景色って言ったら、泥見園(なづみえん)も何度も行ったよね。私はあの静かなお庭を見てると心が澄んでいく気がしてとっても好きだけど、普通はただ池を眺めるだけの時間なんて、暇なだけだよね。入場料も三千五百円もするのに、私がその景色を好きだからって、何度も何度も私に付き合ってくれて。良い場所だねって言ってくれて。私の大事なものを一緒に大事にしてくれた。



 夏祭りにも行ったよね。初めて行ったのは中学三年の時、私、夏祭りなんて久しぶりで、何をどう楽しんだら良いのか分からなくて。金魚すくいの屋台の前に行った時「これなら確か昔得意だった気がする」って思って、やろうとしたのに。これなら少しは一緒に楽しめるんじゃないかって思ったのに。その金魚の死体が浮かんでるの想像して、固まっちゃって。夏祭り楽しみたかったはずなのに、隣に居る私があんなだったから迷惑かけたよね。それでも君は楽しくしようとしてくれて。それに、私のために射的でお菓子取ろうとしてくれた。ごめんね、紫雨君。去年も、今年も一緒に行ったけど、どうだったかな。思い返してみれば、デートなんてそのほとんどが私の趣味に紫雨君が付き合ってくれたもので、紫雨君の行きたいところに一緒に行ったのなんて夏祭りくらいのものだったけど、私はちゃんと夏祭り、紫雨君にとって楽しい思い出にできてたのかな。

 こんな私のどこが格好良いのだろう。紫雨君はよく私に格好良いだとか、氷夊(ひすい)さんみたいになりたいだとか、口癖のように言ってくれる。中学三年の時から仲良くなり始めて、今はもう高校二年生の冬。三年半も経つ。付き合い始めたのは高校に上がる直前だから、付き合い始めてから二年半以上。その間に一体何回聞いたことだろう。彼はきっと本当にそう思っていたのだろう。おだてるだとか口説き文句だとか、そんなのじゃなくて、紫雨君は本当に私の事を、格好良いだとか私みたいになりたいだとか、あと、好きだとか。そう思っていて、それをずっと素直に口に出し続けてくれているのだろう。

 あなたの方が格好良いよ。お父さんの事、初めて聞いた時びっくりしたよ。自分でも言ってたけど、紫雨君の親子関係はお父さんと子供じゃなくて、冷え切った夫婦そのものだよ。ろくに会話もなく、ただひたすらにお父さんはお金だけ入れて、紫雨君は黙って家事とお金の管理をする。せっかく作ったご飯も日によって食べたり食べなかったり。たまの連絡事項も文面でのやり取りに終始する。そんななのに、恨み言を零す事もなく、毎日毎日、学校の宿題の傍ら家事全般を淡々とこなして。



 高校に入ってからお父さんが再婚して、新しいお母さんができたというのもそう。家事の負担が減ったりだとか、家族が増えて少しは家の中が賑やかになったりだとか、良い部分もあったにせよ、自分の役割が奪われたりだとか、心を許してもいない相手がずっと家の中に居るだとか。心がつらくなる部分も沢山あったと思う。

 私には当たり前みたいにずっとお母さんが居て、毎日ご飯も作ってくれて、お弁当作りもいつも横で見守ってくれる。お父さんもお仕事忙しいのに、お休みの日は決まってお家の中ぴかぴかに掃除してくれるし、紫雨君の事で悩んだ時にはよく話を聞いてくれる。二個下の弟の蛍(ほたる)も、かわいい子で、私の事をよく慕ってくれる。それにあの子は昔から絵を描くのが好きで、人に見せるのが怖いなんて言いながら、私にはよく見せてくれる。あの子らしい、かわいい絵を描くんだ。

 でも紫雨君は違う。ずっと冷え切った夫婦みたいな親子関係の中に居て、ずっとずっとそれを当たり前の日常として受け入れて、そんな生活の中でも弱音も恨み言も言わずに頑張ってきた。そこに急に新しいお母さんが現れても、さあ喜べなんて無理な話でしょ。困惑とストレスの方が先に来て当たり前。大体、何もかも急なんだよ。あのお父さん、なんで事前に連絡だとか相談だとか何もしないの。本当に。「再婚したから」「今日からこの人がお母さんな」じゃないんだよ。たとえ親子じゃなくても事前連絡は大事なのに、親子なのになんであんななのよ。



 それでも新しいお母さんが来てしばらく経って、段々とそれにも慣れてきた様子の紫雨君を見て私は嬉しかった。なんだかなって思うところもあったけど、でもやっとこの人にも、プラスになる親子関係が生まれたんだって、良かったなって思った。

 それを。お父さんもだけど、居なくなったお母さん。あの人なんて大嫌いだ。今年の9月、あの人はある日突然居なくなった。紫雨君はずっと待ってたのに。月曜日、学校に来た紫雨君はすごく弱ってて、どうしたのと訊いても濁すばかりで中々教えてくれなくて。お弁当も持ってきてないって言うから私の分けてあげたら「ありがとう」って言いながら静かに泣き出して。

 私は響君の一件以来、ずっと人の涙なんか素直な目で見られなくなってたんだよ。自己演出だとか白々しいだとか安っぽいとか、そんな捻くれた目でばっかり見てしまって。なのに紫雨君のその涙は。すごく胸が痛くて苦しくて、私まで泣きたくなって。なんでこんなひどい事ができるの。



 お父さんもお父さんだけど、お母さんも本当に何やってんの。せめて事前に言ってって。再婚の時もそうだけど。なんで毎回毎回、そんな大事な事を何も言わずに勝手に話を進めて、勝手に全部終わってからしか教えてくれない。腹が立つ。本当に腹が立つ。子供に押し付けてばかりで、本当にそんなので良いと思ってるの。紫雨君を……どれだけ傷つけたら気が済むんだ。なんでこんな良い人を傷付けられるんだ。

 なのになんで紫雨君、あなたは彼らへの恨み言を言わないの。毎回毎回律儀に「俺には見えてないところで色んな苦労があったんだと思う」だとか「何か事情があったのかな」だとか。良いんだよ。たまには「あいつらふざけやがって、一発殴らないと気が済まない」くらい言っても。私は引いたりしないから。口では「気持ちは分かるけど、本当に殴らないでね」なんて言いながら、でも一発くらいならって思いながら聞くから。

 ほんと、なんで紫雨君はあんな馬鹿なんだろ。

 あなたとお父さんとの関係が親子には見えないって話だけど、そこに加えて言うなら新しいお母さん……だった人との関係も、親子には見えなかったよ。私には…………いや、それは私怨(しえん)かな。



 相手にその気はなくても、紫雨君。あなたの心は乱暴に振り回されて、ひどく粗末に扱われたんだよ。自分に対して愛情を注いでくれる人にさ、その愛情を怖がって素直に受け取れないのがつらくて、それに申し訳なくてさ。頑張って、少しずつその愛情を受け取ってみる事にして。怖いのに耐えて、頑張って。そうやって、やっとその愛情を素直に全部受け取れるようになって。なのに、せっかく信じたのに、その愛情が器ごと全部ひっくり返されて。

 私は絶対に許さない。紫雨君がそれを望まないとしても、私はあなたの二番目のお母さんを絶対に許さない。

 だから、勘違いしないでよ。私が怒ったのは、あなたにじゃないんだ。どうしても私を見る目が、お母さんの代わりを求めるものになってしまってる?そんな自分が嫌で合わせる顔が無い?私はね。あなたにいつまでも消えない大きな傷を付けた、その人に対して怒ったんだよ。失ったら痛くて、自然とその影を追ってしまうくらいには大きな存在になっておきながら、何の義理も果たさず消えたあの人が憎くて憎くて、大嫌いなのよ。私が紫雨君を嫌うわけが無いし、その話を聞いて私があなたを非難するわけが無いのに。そのくらい分かってよ、本当に馬鹿。



 馬鹿。馬鹿は私もだよね。ごめんね、紫雨君。勘違いさせて。普段笑いもしない癖して、怒る時だけ怒って、そんなの怖くて当たり前だよね。甘えすぎたよね、私。ちゃんと会ってお話しよう?伝えたい事、沢山あるんだ。まだお礼言えてない事も沢山あるし、謝りたい事も沢山あるから。だから、お願い。



――以上――
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する