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2024年04月08日23:44

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小説を作成しました!「れんはつかない」上

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」の第二世代シリーズです。
「二方美人。」やそのシリーズを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定の第二世代シリーズの、世界観や登場人物の説明まとめ。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653

「れんはつかない」

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「れんはつかない」上



 不審者。傍から見た僕の今の姿は正にその通りだろう。お正月明けの夕方に、レストランの入口前に集まる若者達を物陰から覗き見している男。紛れもなく不審者。それ以外の何者でもない。

 今日は高校三年生の頃のクラスの同窓会。見る限り集まっている人数はおおよそ二十五人。確か三十五人くらいクラスだったので、その大半が来て、予約の時間までを歓談しながら過ごしている。その中に僕は居ない。郵送された招待状を、欠席の欄に丸をつけて送り返したからだ。皆思い思いのおめかしをして臨んでいるのに対し、物陰からそれを除く僕は普段大学に行くのと変わらぬ格好。ジーパンにポロシャツ。その上からコートを着た飾り気のない姿。髪もただ寝ぐせを直して少し前髪を整えただけ。あの場には全くそぐわない。

 二十二歳という中途半端な時期に開かれた同窓会。あの高校はほぼ全員が大学に進学するところだったため、基本的にはこの春で皆社会人デビューを果たす。その前に皆で会って門出を祝い合おうという話だろう。とても良い事だと思う。仲の良かった……という程ではないが、割とよく一緒に居た友達……あるいは仲の良い知り合いの、竹中君や波多野君も来ている。今なら昔はできなかった話もできるかもしれないし、単純に彼らが今、どこで何をしているのかも話せたらそれは良い事だったのだろう。

 しかし現実は、そうはならなかった。僕が同窓会を欠席した理由。それは、折橋(おりはし)さんが来る可能性がゼロではないから。そして今こうして不審者となって参加者達を物陰から眺めている理由。それは、その折橋さんが同窓会に来ていない事を確認したいから。僕の知る折橋さんなら、きっと来ていないはず。それだけ確認したい。それだけ確認したらここを離れて、どこか適当なお店に一人で夕飯を食べにいく。

 居ない。居ない。やっぱり何度確認しても、折橋さんはここに居ない。良し。それで良い。やっぱり折橋さんなら来ないと思っていた。目標は達成した。もうここに留まる必要はない。せっかくの大学四年の冬休み、就職先もとうに決まっていて卒業論文ももう提出済み。人生で一番自由なひと時、その自由を満喫しよう。

 そう思い踵を返そうとした時、視界の端で何かが動いた事に気付いた。道路を挟んだ向かいの、ごみ箱の陰で、何かが動いた。もしかして、あの陰からレストランの方を覗いている人が居る?

 確証はない。そもそも動いたというのも気のせいかもしれない。仮にそれが気のせいでなかったとしても、それは人ではなく捨てられた何かで、風に揺れたのを変に邪推しているだけかもしれない。でも、一応。念のため。

 歩道橋を渡って反対側の道路へと行き、更に路地裏に入りごみ箱の後ろ側へと回る。そう、時間は有り余っている。帰ってもどうしても今日中にやりたい事があるわけでもない。今は実家に帰省中であるものの、今日は外で夕飯を食べると既に伝えてある。今すぐどこかのお店に行って夕飯を食べるも良し。一度家に帰ってから気が向いた時に食べにいくも良し。僕は今、一番自由だ。もちろん今、数分を、この念のための確認に使うのも完全なる自由。

 自分の心臓の鼓動が段々と強く、早くなっている事が分かる。平常心とは程遠い。やっぱり、人だ。靴下が汚れるのもいとわず、地面に膝を付いてごみ箱の裏からレストランの方を見ている、体の小さな女性。もこもことした水色の上着にピンクと黄色の横縞模様の長い靴下、そしてこの季節にそぐわない黒のショートパンツという格好で、ピンクと緑の二色に染めた髪を大きく二つ結びにした女性。僕の今まで出会ってきた友達の中にこんな派手な服装と奇抜な髪をした女性は誰一人として見当たらないが、僕は既に確信を持っていた。

「折橋さん」

 後ろから声をかけると、女性は猫のようにびくっと体を大きく震わせ、こちらを向いた。

「光画(こうが)君……?光画君!?」

 大層驚いた様子の折橋さん。正面から見るとより分かりやすい。会うのは四年ぶりだし、写真も持っていないから丸々その四年間姿を一切見ていなかったわけだけど、それでもやっぱりちゃんと分かる。左目の下に二つ涙ぼくろがあるだとか、鼻が小さくてあごが細いだとか、あとおでこが広くて前髪でそれを隠しがちだとか、そういう言語化できる大きな特徴ももちろんだけど、それら以外でも、なんとなく。そう、なんとなく分かる。元三年一組、折橋 暦(すえもと こよみ)さん。

「そうだよ。久しぶりだね、折橋さん。今から同窓会に行くところ?」

 さっきまで落ち着かなかったはずが、折橋さんの動揺している姿を見てすっかり冷静になってしまった。とりあえず忘れないうちに、一番訊きたい事を。

「いや、行かない。行かないけど……光画君が居ないか見てた。……あ、居ないかっていうか、多分居ないと思ってたけど、居ない事を確認したかったっていうか」

 同じだ。思わず笑ってしまった。全く同じ。折橋さんの中の僕も、どうやら同窓会に参加はしないはずだったらしい。だけど念のため、自分の中に居る僕と実際の僕が違っていないかの確認のために僕と同じ不審者となっていたようだ。なんて間の抜けたお揃い。

 そのまま二人で少し話した後、同窓会の参加者達に気付かれたら気まずいからと場所を変える事とした。更に人気(ひとけ)の少ない道を進んだ先にある、二十人も入れないくらいの小さな喫茶店。

 そこで僕はフレンチトーストとチーズケーキ、ミルクティーを、折橋さんはカツサンドとプリンタルト、ミックスフルーツジュースをそれぞれ注文し、また折橋さんは注文後すぐにお手洗いへと行った。一人になった僕は暫くの間、手持無沙汰に過ごす事となった。

 ここはその昔、まだ大学に進学して地元を離れる前……高校、いや違う。確か中学生の頃だ。中学二年生か一年生の頃に、一度来た事がある。両親と妹の架帆(かほ)と、それに実(みのる)さんとそのご両親の計七人で来て、あの時は何を頼んだんだっけ。よく覚えていない。実さんが何か、大きなパフェを食べていた事だけは覚えている。どのメニューだろう。このデラックスいちごパフェだろうか。

 暫くして折橋さんが戻ってくると、それを待っていたようにすぐ注文の品が届いたので、二人でゆっくりと食べながらお互いの近況や昔の話を始めた。

 どうやら折橋さんは四月から水族館で働くらしい。そう言えば実(みのる)さんのお母さんが水族館で働いていた。同じところかと思ってどこの水族館か訊いてみたが、聞き覚えのない名前だったので恐らく別のところなのだろう。

 そして僕が自分の就職先や就活で苦労した事等を軽く話して、お互いの今後への不安と祈りを口にした後、話はお互いにどこの大学に通っているのかと、その大学生活の思い出についての事へと移っていった。

「どうやらぼくってかわいかったみたいでさぁ、大学入ってから急に男にもて出してねー」

 折橋さんは自らの髪を手で払いなびかせながら、わざとらしく演技がかった言い方でそう言った。そうまで力強く言われると否定したくなる気持ちも芽生えてくるが、自信があるのは間違いなく良い事だ。それよりも、再会してからおよそ三十分くらいが経ったわけだけど、今、初めて折橋さんが一人称を使った。そして、それが『僕』。その事実の方が今の僕にははるかに大事だ。

 人がどんな一人称を使おうとその人の自由。だからこそ、その自由の中で折橋さんが今でも自分を『僕』と言っている。その事実が素直に嬉しい。

 僕と折橋さんが高校時代に仲良くなっていく過程には沢山の小さな事の連なりがあったわけだけど、ある時から彼女が、二人で居る時は周りに合わせた『私』ではなく本来の彼女の一人称である『僕』を使うようになったのが、僕にとってはとりわけ大きな出来事の一つだった。

 単純に気を許してくれた事が嬉しいというのも一つ。そして、偶然にも僕にとって女性で『僕』という一人称を使っている人の存在が救いになっていたというのがもう一つ。

「まあ確かに昔から折橋さんは、個人的な好みはともかくとして客観的に見てかわいかったよ。今はなんていうか、元々の個性を更に伸ばしたから刺さる人には昔以上に刺さるんだろうね」

 なんとなく単に『かわいい』とだけ言うのがはばかられた。折橋さんは、個人的には別に好みってわけではないが、確かにこれをかわいいと思う人は大勢居るのだろうとは思う。

「素直じゃないなー、そこは『うん、かわいいよ』で良いじゃん」

 案の定言われた、この『素直じゃない』という言葉。いやいや、本当に『個人的な好みはともかくとして、客観的に見てかわいいのだろう』が僕にとっての素直な気持ちそのものなんだよ。

「まあでもねー、結局大学四年間で十五人くらいと付き合ってきたけど、長続きしないの。付き合っては別れて、付き合っては別れて、結局、今は一人。恋愛って難しいね」

 頬杖を突いて斜め下からこちらを見上げる。昔の折橋さんはこんなパントマイムみたいに大げさに身振り手振りをする人だったっけ。どうだったか。……んん、そうか。よくよく思い返してみれば、割と昔からこうだった。出会ってすぐの時はそんな事なかったけど、親しくなるにしたがって、人前ではともかく、二人きりの時は結構こんな感じになっていった気がする。

「分からないけど、きっと一個一個が経験になってるんだよ。今後現れる一番相性の良い人との生活でその経験が活きて、それでその人とずっと一緒に居られればそれが一番。練習は嘘を吐かないって言うでしょ。今までだって最初から練習のつもりで付き合ってたわけではないだろうけど、結果的に」

 分からないなりにどうにかそれっぽい事を言っていると、折橋さんはむくれた顔で訊いてきた。

「むー、光画君はどうなの?」

 ついにこの時が来てしまった。恋愛の話に入ってからずっと訊かれるのではないかと思いながらも、どうにかそれを回避できないかと考えていたがやっぱり無理だった。

「一度も誰とも付き合った経験無いままだよ」

 あれこれ付け足すと余計言い訳がましいので、客観的事実を淡々と述べるのみとした。すると折橋さんは嬉しそうに

「ええ、そうなんだ!それってもしかして、あれ?ぼくより魅力的な人が見つからなかったとか?」

 多分この質問には適当に『そうかもね』くらいに答えておけば折橋さんは喜ぶのだろう。だけど明らかに事実と違う事をはっきり否定しないのは僕の中では嘘と変わらない。

「残念ながらその側面はあってもせいぜい一割くらいだね。一番の原因は別にある」

 そう言ってミルクティーを少し口に含むと、折橋さんは分かりやすくふてくされた態度で「じゃあなんでぇ?単純にもてなかっただけって事?」と、明らかに落ちたトーンで言いながらストローでジュースをかき回した。

「単純にもてなかったってのは前提条件として、それ以外での話をするなら、高校時代にも度々話題に上がってたと思うけど、隣町のお姉さんとのあれこれがずっと僕の中にあったのが八割五分。後はまあ、多分彼女ができたら双子の妹の架帆(かほ)が根掘り葉掘り訊いてきそうで面倒だろうなって思ったのが五分。残り一割が折橋さん。」

 それを聞いて納得してなさそうな顔をする折橋さんに、鞄から取り出した、高校三年間の交換日記のコピーを見せて続けた。

「その一割っていうのは、一度たりとも恋愛関係にはならなかったし、そういう目で見た事もないとは言っても、折橋さんはあくまで女の子なんだから。この日記を特別に思って大事にしてる内は他の女の子と付き合ってもその子を幸せにできないと思って」

 ちなみにこの交換日記のコピー、きちんと製本してあるだけでなく、お手製のブックカバーは防水加工済み。もし彼女ができたとして、僕の部屋にこんなものを見つけたら絶対傷つくだろう。

「ぶふへっ、まっじめー!ぼくはそれ大事に隠し持ちながら他の男達に好き好き大好きなの愛してるのって言いまくってきたのに」

 露悪的な目と喋り方をしながら、口を手首で隠して笑うその姿は客観的には不幸に陥れたい腐れ女だろうと思うけど、僕はこの人に愛着を持っているものだから『嬉しそうで何よりだ』などという世間からは大きく外れた感想を抱いた。いわゆる惚れた強み(つよみ)ってやつだ。いや『惚れた』は御幣があるか。ここで言う『惚れた』は心意気に惚れただとかそういう意味合いの。

 この女がどんなに露悪的な側面を見せてこようと、僕はどんな形であろうとも『折橋さんが嬉しそうならそれで良かった』という気持ちになる。身内びいきも甚だしい。

 ひとしきり笑った後、折橋さんも鞄の中に手を入れ、がさがさと中身を漁ると交換日記の原本(げんぽん)を取り出し「もしかしたら会えるかもって思ってぼくも持ってきたんだぁ」と言って見せてきた。一冊で三年分の、分厚い日記帳。僕と折橋さんの二人作った、嘘みたいな三年間の日記。



中→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1987342854&owner_id=24167653
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