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2024年04月08日23:50

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小説を作成しました!「れんはつかない」下

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」の第二世代シリーズです。
「二方美人。」やそのシリーズを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定の第二世代シリーズの、世界観や登場人物の説明まとめ。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653

「れんはつかない」

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1987342802&owner_id=24167653

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「れんはつかない」下


 僕の引っ越しは交換日記の完成を意味するものだったが、もう一つ大きな意味を持っていた。そう、お互いに分かっていた。もし今ここでお互いの連絡先を交換しなければ、今後は何かの奇跡的な偶然が起きなければ再会する事は叶わない。折橋(おりはし)さんは僕の引っ越し先を知らないし、僕は折橋さんの家を知らない。それどころか、お互い進学する事自体は知っていても、その進学先は知らない。

 二人でコンビニに行き、膨大な量の日記の全ページのコピーを取りながら、その間ずっと考えていた。どうしたものか。別れの前に連絡先を交換すべきか、しないべきか。それまで折橋さんは一度たりとも連絡先の交換をしようと言い出さなかったし、折橋さんが僕の家の前まで来る事はあれども僕を折橋さんの家まで連れて行ってくれる事は無かった。それはきっと、彼女なりのこだわりなのだろう。

 そう思うと僕は連絡先の交換をしようとは言い出せなかった。そんな葛藤を察したのか、その時、折橋さんは僕に尋ねた。「連絡先、どうする?交換する?」と。正直、交換するならする、しないならしないで折橋さんの方で決めてくれと思いもしたが、判断をゆだねてくれるのであれば僕の本音をここで選ぶだけだ。『交換する』『交換しない』そのどちらの気持ちの方が本音なのかを、自分の意志で選ぶ。

 沈黙の中、コピー機の動作音がまるで急かすかのように鳴り響き続けた。そして、時間にして一分くらい経っただろうか。言うと決めた事を、ようやく口に出す事ができた。

「しない」

 その言葉を聴いた折橋さんは口元に手をやり、笑いながら「えー、ショックだなぁ。ぼくの事嫌い?」とわざとらしく身をくねらせながら訊いてきた。

「好きだよ」

 予定調和すぎてまっすぐ答えてやるのに抵抗を覚えながらも、仕方なく素直にそう答えると折橋さんは「知ってるー」と言い、また口を手首で隠しながらにやにやと笑った。

 僕と折橋さんはお互いの事をきっとあまりよく知らない。それでも、何一つとして知らないわけじゃない。

 そして今。あの三年間を懐かしみ語り合い、お互いに小鳥がついばむような小さな一口を重ねていたが、ついに二人とも目の前の食べ物、そして飲み物を平らげてしまった。

 自然とそのままお会計の流れとなり、お店を出た。お店の前で「おいしかったね」「そうだね」などと、お互いにたどたどしい会話をした後、折橋さんからの提案で、再会の記念にと交換日記の僕が持つコピーの最後のページの余白に折橋さんが、折橋さんの持つ原本(げんぽん)の余ったページに僕が、それぞれ今日の年月日を記入し合った。

 二人でそれを見てえへへと笑い合いながら、解散の時が着実に近づいている事を感じていた。

 どうしたものかと考えていると、またしても折橋さんの方から話を切り出した。

「ねえ、連絡先……交換するかどうか、今度はぼくが決めて良い?」

 もじもじと、髪をいじりながら落ち着かない様子で尋ねる折橋さん。勿論、断る理由は無い。

「勿論だよ。どうする?」

 折橋さんは「ちょっと待ってね」と言い、靴下を引っ張り上げたり左手の包帯を結び直したりし、こちらに向き直った後、また今度は襟を正したり二〜三度自分の手同士をこすり合わせたりし、そして「んん……」と唸りながら、その場にしゃがんで顔を膝にうずめてしまった。心の準備に手間取っている様子だ。

 僕が「ちゃんと待ってるよ」と声をかけると「うん」とだけ返し、顔を上げた。そして「耳貸して」と言うので僕もしゃがみ、身をよじりながら地面に片手を突いて耳を近づけた。身長差があると体勢がきつい。

 すると耳に両手を当てがい、口を近づけ「しない」と、聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の大きさの声で、震えながら言葉を吐き出した。

 そんなに苦しそうにするくらいなら別に交換しても良いんじゃないか。もしこの光景を見た人が居たとするなら、多分、そう思うのだろう。だけどそうじゃない。最初から分かっていた。あの時も、今も、折橋さんは折橋さんなんだ。

 あの日記は奇跡の産物。僕達の三年間があたかも楽しいばかりの夢物語だったかのような、捉えようによっては嘘だし、捉えようによっては嘘じゃないとも言える、そんな夢うつつの宝物。

 だからこそ、続きはなくて良い。せっかく綺麗に完結した物語。下手に続きを作ったら、今度は奇跡が起きないかもしれない。

 二人はお互いの事をそんなに知らない。折橋さんは実(みのる)さんの存在は知っていても、単に憧れのお姉さんという事しか知らない。僕は折橋さんの好きなものはいくらか知っているけれど、どうして自分に傷痕を作ってしまうのかは全く知らない。

 続きの物語を作って、お互いの知らなかった事をもっと深く知っていった先で、どうしても相容れない事が起きてしまうかもしれない。たとえどちらも何も悪くなくても、何かが違うと感じてしまう時が来てしまうかもしれない。

 もしそうなってしまったら、人生に疲れた時あの日記を見ても、もう二度と力をもらえなくなるかもしれない。だから今こうして会っているのは、第二部の開始ではなくて番外編。一回限りの特別読み切り。それで良い、それが良い。

 でも良かった。連絡先を交換しないという選択も、同窓会に出席しないという選択も、だけど念のため相手が来ていない事は確認したいという思いも。繋がっている。上辺を撫で合い続けた二人だけど、ちゃんと二人は見えない思いで繋がっている。知らない事も多いけれど、何も知らないわけじゃない。日記以外にも残ったものが確かにある。

 そうは言えども、やっぱり解散が名残惜しいものは名残惜しい。折橋さんと一緒に居られる時間が終わってほしくない。それもまた本音。

 少しでもそれを先延ばしにするため、僕からの提案で、昔のように僕の実家の前まで一緒に歩いて、その間にもう少しだけ話す事にした。しかしそんな先延ばしも大して役に立ちはしない。折橋さんと最近はまっている歌の話で盛り上がっていると、その二十分ほどの道のりはあっという間に歩き終えてしまった。今だけは恨めしい、愛する我が家。ついに、本当に解散の時だ。

「ね、またもしいつか、今日みたいに。同窓会で会うとかじゃなくって本当に偶然、奇跡的に会う事があったら、その時はまた一緒にご飯食べようね」

 そう言う折橋さんに「その時のお互いの立場がそれを許すのであればね」と返しながら、僕は次に何を言われるか分かっていた。

「あっはは、やっぱりまっじめー!彼女居た事ないくせに!」

 はいはい、と軽く流しながら、きっとこれは僕だけじゃないのだろうと思い、自然と笑みがこぼれた。きっと折橋さんも折橋さんで、さっきの発言は僕の返事が分かり切った上で言ったものだろう。

 僕がまるで名残惜しくなどないかのように格好つけて「今日は楽しかったよ、ありがとう。それじゃあ、もしまたがあったら、その時はよろしくね」と言って手を振ると、最後の最後に折橋さんは、予想外の事を口にした。

「ねえ、光画(こうが)君はさ、ぼくのこと…………る?」

 まさか、折橋さんからそんな事を訊かれるとは思ってもみなかった。流石に返事に困ってしまう。そもそもその言葉の意味、特にこの場におけるその言葉の真意は一体何だ。考える程に分からなくなってしまいそうだけれど、少し時間をもらい、僕は折橋さんに対する、僕なりの本音を探し、そして見つけた。見つけたのなら、それをまっすぐに伝えるだけだ。

「れんはつかないけど、うん。間違いなく、僕は折橋さんを…………るよ」

 その返事を聞いた彼女は、今度はまた予想通りの反応を見せた後「またね!」と言い、元気に歩いていった。

 少し大きな声を出し「気を付けて帰るんだよ!」とその背を見送り、完全に後ろ姿が見えなくなった後、玄関をくぐると、いつの間にか自分が鞄の紐を強く握りしめていた事に気付いた。

 きっと僕に恋人ができるのは、まだまだ、だいぶ先だ。





 完
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