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2022年11月25日22:46

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作品を読む 『越境捜査2 挑発』を読む

 お昼のテレビの再放送で、『越境捜査3』というのがあると新聞で見かけた。柴田恭兵と寺島進が主役で、捜査一課の刑事と神奈川県警のヤクザ刑事のバディものらしい。その二人がどうやら、警察の暗部と対決する…みたいなアオリ文句だったので、とりあえず見てみた。

 予想に反して、面白かった! 警察はニューナンブという拳銃を使っていたのだが、それが情報公開の波にさらされて、意外に高いのではないか、という批判を受けるようになった。それで警察はニューナンブを処理して新しい銃に替えるのだけど、その処分先が天下り団体になっていて、そこで利権が働いている。さらに、その裏処分を巡って殺人事件が起こり……

 というネタだったのだが、利権構造の情報も面白かったし、捜査一課の柴田恭兵演じる鷺沼、神奈川県警のヤクザ刑事寺島進演じる宮野のキャラクターが際立っていて、凄く面白かったのだ。それで、原作ネタがあると知って、原作を読もうと思った。余談だが、ドラマのネタは原作の方がもっとずっとハードっぽい。

 で、最初の『越境捜査』を買おうと思ったが、運悪くブックオフで見つからない。ので、『2挑発』を買ってみた。で……面白くて、3日で読んだ。正直言うと、本を読むスピードは速い方だが、仕事とかあって最近は中々、一気に読む本(特に小説では)というのはない。

 しかし、この小説はまさに一気に読んだ。もう、夢中で読んだ。面白かった。そして、凄い勉強になった。

 ミステリーとか警察小説とか読んでると、非常に不満に思う事が多々あった。それは主に、人物造形に関してである。ミステリー畑の人はキャラとかあまり愛でない傾向なのか、キャラ描写が薄い傾向がある。というか、主人公も含めて最後のドン伝返しのために、「実は、そういう人ではありませんでした」みたいな事が明らかになって、がっかりするのに付き合わされてきたのである。

 小説を読むという事は、その登場人物に付き合うことだと思っている。ああ、この人はこう人なのね。と受け入れた段階で、ある意味ではその人を信頼してる、と言ってもいい。けど、ミステリーだと、いきなり最後になって、それを全部ひっくり返されたりするのである。

 いや、「意外な結末」のためには、それも必要かもね。けどね、はっきり言って、僕は『騙された』感が強くて、最後にがっかりするのだ。ああ、いい人だと思ってたのに、この人悪い人だったのねーと。それで最後に騙されると、「今まで、何に付き合って来たの?」とか思うのである。こういう感慨を抱くたび、「自分はミステリーの人じゃない」とか、つくづく思うわけである。多分、ミステリー好きの人は、その「騙される」ことの快感を求めているのだろうから。

 ま、それはともかくとして。笹本稜平さんの『越境捜査』は何が、いいって、まずキャラが魅力的! 捜査一課で、長いものに巻かれることを良しとしない鷺沼も、神奈川県警でヤクザまがいの格好で、なんとかうまい汁にありつけないかと思っている宮野も、ものすごくキャラがたってる。

 ミステリーはパズル解きに熱心でキャラは置いてけぼり感が強く、ハードな警察小説は、キャラが渋すぎて通り一遍という感じのあまり個性のないハードキャラになる傾向がある。けど笹本さんの『越境捜査』は、二人の主役に加えて脇キャラも、中々個性が豊かで実に楽しめた。

 加えて、この人の小説は、非常に合理的に話が進むのがよかった。なんか、元警察だとか業界に詳しい人とかが書いた小説に限って、「どうして、話しが合理的に進まないの?」と思うことが多々あり、そこへ行くと笹本さんの小説は、地の文で鷺沼の思考を追いつつ、状況把握の元に次に何をするかみたいな判断が、極めて合理的に懸れているのが良かった。

 そしてストーリーテリングの妙、というのも味わえる。ミステリーものでは、『いかに情報を小出しにするか』が、実は重要なテクニックだ。必要な情報は一度に出さず、捜査の進捗と共に小出しにする。それが重要なテクニックである。

 けど、ただただ順番に情報が明らかになるだけでは詰まらない。ある程度のところまで来たらその情報収集を妨げる障害がなくてはならない。それが笹本さんの今回の小説では、『情報元の人の拉致』『上からの圧力で、上司の更迭』『有力容容疑者の自殺』などという、情報を遮断するような障壁に主人公が見舞われるのである。

 大沢在昌の小説講座では『主人公は、ピンチになればなるほどいい』みたいな事を書いていたはずである。そう、主人公はピンチになて、情報がそれ以上得られない! みたいな事態を造りつつ、やはり情報を出していって話を進めなければならない。そういうバランスというか、配分が非常に上手だ。

 そしてキャラ描写にもひとつ言っておきたい。最近の仮面ライダーなどでよく見られることだが、『主人公たちが雑談をしてる時、本当に雑談』だったりするのが、まず駄目である。

 敬愛する三条陸さんのような人だと、『雑談のように見えて、キャラを際立たせつつ、ストーリー進行に必要な情報を出している』みたいなテクニックが伺えるのだ。けど、最近のライターは、雑談してる時に、本当に雑談(つまり、ストーリー進行に関係ない、どうでもいい話)をしてるのである。これは、まったくダメだ。

 同じ仮面ライダーでも、三条さんの30分と他のライターの30分では、密度が違う。小説にしても同じ事が言える。どうでもいい雑談をやたら入れる作者の400枚と、必要なエピソードだけギュッと詰め込んだ400枚では密度が違う。

 そういう点で読んでも、笹本さんの小説は凄く勉強になった。…が、敢えて不満な点あげよう。それは、僕自身のためである。では何が不満か? それは

 アクションシーンがない!

 犯人逮捕みたいなところでもそうなのだが、とにかくアクションシーンがない。いや、『科捜研の女』だって、『相棒』だって、アクションシーンはないだろう。それで満足なユーザー層ももちろんある。

 けど、僕は『絶対零度』とか『CRISIS』みたいに、アクションシーンがある警察ものが好きなのだ! だから、最後までアクションシーンが無い事がちょっと不満だった。が、それをもってしても、笹本さんの小説にはすっかり魅了された。面白かった。他にも色々読んでみたい作家さんが見つかった、と思っている。


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