北千住の街を、日がな、歩いている S字の人がいる。
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脚の関節が曲がったままで、中腰なのである。
背中は重度の猫背で、顔はつねに地ベタを見ている。
横から見ると、まさにS字なのである。
スニーカーを履いた足を、ズーズーと音を立てて、引き摺りながら歩いている。
これがけっこうなスピードなのである。
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最近は寒いので、上にレンガ色のジャケットを羽織り、特徴とてないグレーのズボン。
S字といっても、イタリックのそれで、この人は、落ちて行く頭を掬うために前進しているのではないか、と疑われる。
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よわい、70くらい。
コンピューターのイカレたAIゾンビと言ったらぴったりである。
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このAIゾンビは、何が目的で、どこへ向かっているのか、皆目わからない。
東から西へ歩いて行ったと思ったら、しばらくして、南から北へと駈け歩いてゆく。
カバンも持っていなければ、買い物袋を提げていることもない。
まさに、コンピューターがイカレたようだ。
はじめは、S字が病的であるだけに、何か障害でもあるのか、と疑われたが、一日中 歩いているのを見ると、そうとも思えない。
たぶん、北千住の街の人は、全員、この S字の人を知っていると思う。
そして、たぶん、彼が歩き続ける理由は、誰も知らないと思う。
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