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2022年05月23日00:00

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木曜は……

 今週末は、観たい映画が重なっている。先週はトラックショーで土曜日潰してしまったので先送りした映画があり、来週は、「トップガン:マーベリック」始め、気になる映画が複数あって、先送りするのは難しそうだ。
 仕事の方は結構キリがよく、これなら思い切って木曜・金曜休みにしてもよさそう――で、木曜休み、金曜は先週土曜に仕事した分の振り替え休日にして4連休にしてしまおう。

 で、木曜。
 午前中に、4連休の映画鑑賞予定を立て、それから溜まっていた映画レビューを数本書く。

 午後は、シネマジャック&ベティで、映画3本。
 最寄り駅に行ったら、丁度、電車が行ってしまったので、思い切って、歩いて行く事にした――電車だと5駅だが、遠回りになる電車に対し、歩いて行くなら、最短コースで行けるので3kmくらいしかない。結局、30分で到着。


 今日の1本目は、
 「ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師」。

 これは、2018年にノーベル平和賞を受賞したコンゴの婦人科医デニ・ムクウェゲの闘いの日々を追ったドキュメンタリー。
 監督はTBSで数々のドキュメンンタリーを手がけてきた立山芽以子。ナレーションは常盤貴子が担当している。

 アフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国、ブガブ。この地は“女性にとって世界最悪の場所”と呼ばれている。20年以上にわたり、40万人以上の女性たちがレイプ被害を受けているのだ。
 婦人科医のデニ・ムクウェゲが運営するパンジ病院には、年間3000人もの性被害を受けた女性たちが運び込まれ、無償で治療してきた。
 実はこの地には金、錫に加え、貴重なレアメタルを含む豊かな鉱物資源が埋まっており、武装勢力はその利権を得るために、性暴力という武器を使い住民を恐怖で支配しようとしていたのだ――

 ムクウェゲ医師が治療したレイプ被害者の最年少は生後6ヶ月。最高齢は91歳だと言う――映画の中で明らかにされていくが、武装勢力の行うレイプは、性的欲望を満たす為ではなく、家族の要である女性の尊厳と肉体を破壊し、家族を破壊する為に意図的に行われているのだ。これで人々をバラバラにし、男は武装勢力の兵士、若しくは鉱山で働かせる、と言うやり口だ。
 しかも、コンゴでは殺人やレイプが重罪としては扱われず、武装勢力の兵士として数年で数十人を殺害し200人をレイプした、その実刑が懲役4年……しかも、取材対象の男は刑の確定後、家族が刑務所長に金を握らせて数ヶ月の収監で釈放されてしまった、と言うのだ。その一方で、武装勢力に逆らった即、殺されてしまう、となれば、これは、抑止力などなきに等しいだろう。
 また、コンゴで起きているこの事態に、日本も他人事ではいられないのだ。古くはコンゴで産出されたウランが広島原爆に使われ、現在では、スマートフォンなどに使われる高性能半導体の材料のタンタルは、コンゴが世界の産出量の80%を賄い、その精錬加工の30%は日本で行われている、と言うのだから……日本の産業が安い鉱物資源を求める事が、コンゴの武装勢力を跋扈させる要因でもあるのだ。

 こうした衝撃的でもある事実を見せるだけでも有意義ではあるし、日本が決して他人事としてはいけない事も理解出来る――だが、本作はドキュメンタリー映画として決して誉められた出来ではないと思う。
 映画の対象が、ムクウェゲ医師なのか、コンゴの状況なのか、あるいは、そうした中で被害を受けながらも前を向くコンゴの女性たちなのか……どうにも散漫な構成に思えるし、ただただ現地で撮影した映像を繋げて行く内容にも工夫が見られない。その、現地取材も、パンジ病院でのインタビュー中心で、映像的にも幅がなく、それに常盤貴子の情緒過剰なナレーションを被せる、と言う内容はどうにも――確かに、これは世界に、特に日本にコンゴの状況を知らしめる価値あるものではあるけれど、正にそれ故に、この出来映えは勿体ない、と思う。


 2本目は、
 「連鎖」。

 これは、知的障碍のある青年と、少女との交流が思わぬ事態を生み、波紋を広げて行く様を描くドラマ。
 監督・脚本は本作で初長篇デビューを果たしたキム・ジョンシク。

 知的障碍により知能が8歳ほどしかない青年ソックは小さな村で精米所を運営しながら友人や近隣の人々と穏やかに暮らしていた。
 そんなある日、村の教会の児童センターに家出少女ウンジがやって来る。「父を探している」と言うウンジを、ソックは素直に信じて父親探しを手伝ううちに、ソックはウンジの友人として二人だけの時間を過ごすようになる。
 児童センターのキム所長はそんな二人の関係性を心配するが、ソックを幼い頃から知る教会の神父は二人を見守ろうとキム所長をなだめるのだった。
 だが、ある夜、行方不明となったウンジを探すキム所長は、ソックの精米所で……

 この映画、先日見た「流浪の月」と類似した内容――少女への性暴力を疑われた青年が、潔白であるにも関わらず、それを証す事が出来なかったが故に居場所をなくしてしまう、と言う物語。
 しかし、この映画、障害者のセックス、そして、宗教と言う厄介な問題を盛り込み、更に司法との関係まで交え、「こう言う時、あなたならどうする?」と観客にも刃をつきつけながら、最後はメロドラマに落とし込む……この難しい内容を、見事にまとめた辺り、キム・ジョンシク監督、初めてとは思えない巧みさだ。

 少女への性暴力を疑われた事で、ソックは村のコミュニティから完全に弾き出されてしまう。ソック自身は何も変わっていないのに、だ。正に、人と人が暮らす社会において、たったひとつの誤解が、人間関係の根本である信頼を壊して行く怖さ。“正義”と“良識”の御旗の下で生まれる、“悪”に向かって放たれる暴力の数々……これを嫌と言う程描くのだ。これは痛い。
 しかも、ソックを信頼している、と言う神父でさえ、ソックの言葉を聞こうとはせず、ソックを疑う筆頭のキム所長にしても、悪意ではなく善意でしか行動していない、と言うのがやり切れない。

 SNSなどで、容易に、暴力を誰かに向けられる世の中、“正義”によって放たれる暴力が如何に人を追い詰めるのか――ソックの最後の表情に“正義”の意味する所を考えさせられる。


 3本目は、
 「夕方のおともだち」。

 これは、過激な性描写とメッセージ性の強い作風で知られる漫画家・山本直樹の同題漫画を廣木隆一監督が実写映画化したもの。
 出演は、廣木組には欠かせない村上淳と、インディーズ映画の華、菜葉菜。

 ヨシダヨシオは、市の水道局員で、父の死後、寝たきりとなった母親と暮らす、一見、真面目な男。だが、彼は毎週末SMクラブに通うマゾヒストでもあり、“女王様”のミホからお仕置きを受けていた。
 だが、このところ、なぜかプレイに身が入らない――それは、ヨシオをマゾヒストに目覚めさせ、その後、姿を消した伝説のユキ子女王様の残像を追いかけているからだ。
 プレイに身の入らないヨシオは、やがてミホと店外でSM抜きの付き合いをするようになるが……

 この映画、驚かされたのはミホを演じた菜葉菜。脇役で、多くの映画で観る彼女を、これまで魅力に乏しく感じていたのだが、冒頭、女王様のボンテージ衣装で登場した際の艶っぽさに、まず驚き。こんなにもセクシーで魅力的なのか、と……後半にはAV女優ばりの濃厚、かつ長い濡れ場もあり、また、美味い食事を振舞って「いい奥さんになれるかな?」と言う台詞には、ぐらっと来た。うーん、こんないい女だったとは……我ながら人を見る目がないなぁ……

 物語の方は、そんなミホとのありふれた幸せよりも、苦痛と死に直面する事で得られるマゾヒストの快楽にどうしようもなく惹かれるヨシオのアンビバレンツな想いを描くもの。
 「気持ちいい」ことに溺れる事を描き続けて来た山本直樹らしい話だと言えるし、それを通して、生死観や人生観を描いて行くのだ。
 更に、映画舞台となるのは、廣木監督の故郷でもある福島県いわき市。被災から復興して行く街の姿に、物語のテーマを重ねているのだろう。

 ラストシーンは、東日本震災後に建設された防潮堤で街と区切られた海辺の道路をクルマで走るヨシオとミホ――小市民的な幸せな人生からは道を外れた2人の、それでも行く末に希望が見えるラストシーンに思えた。
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