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2021年04月04日18:14

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落語:20年越しの「息の長い絶滅危惧種」

 戒厳令、違った非常事態宣言でも普通〜に仕事があり普通〜に仕事に明け暮れるしかなかった医療関係者、何を生きる糧にしていたかというと。

  落語に再ハマりしてました。

 思い知ったのは大体20年前だったと思います。
舞台演劇が好きで好きで、でも役者の観客動員力で配役が決まってしまうこと。役者の力量で物語の完成度どころかテーマまでが変わってくること。役者のチョイスを間違えると作品そのものがつまらなくなってしまうこと。
 それどころか、演出家がバカだと、作品のテーマそのものが行方不明になるという悲劇が起こるということ。
 それが分かっているのにそれでも行っちゃう舞台という魔力的な怪物のこと。

 で、何がどうしてそうなった?なんですけど、落語にどハマリして。直後に過労で初の病気休職になり、治った時にはオールキャンセルしちゃってた。落語の記憶、消えてた。

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 常に寄席をやっている『常小屋』は、浅草・新宿・池袋の三ヶ所。(上野はちょっと独特でな‥‥)
 江戸情緒が残ってるからか、私は浅草が大の贔屓でした。まずは雷門を通って仲町通を冷やかして。観音様に軽くお参りしてから、古着屋(着物です)や、江戸切子の専門店や、焼き立てきんつば(凄まじくシステマティックな製造機が見れます)を堪能してから夜席に行けるのがイイ。当時はゆるゆる〜で、ちょっとタバコ吸いに出ますとか、コンビニ行ってきますとか、木戸のお兄さんに顔を覚えてもらえばそれでOKでした。

 今はどうも路上禁煙禁止になった上、コロナの関係で途中退席も難しいらしいです。いやいやいや、昼席も夜席も4時間以上あるんだぞ、エコノミー症候群が怖いわ。
 当の噺家さんに「ひょいっと入ってもらえれば」と言われたけど、ヤダヤダ、私は開演時間の前にある前座さんの“勉強”から、仲入り前の師匠、大トリの師匠まで見たいんだい。

※寄席に開幕時間ギリギリに行ってはいけない。その前の10〜15分、前座さんの「料金外の」一席がある。前座さんは噺家とは認めてられていないので、ギャラが発生しないこういうかたちでの披露となる。ここで「お、この人イイな」と感じた人が、十年後にとんでもない出世をしてたりする。
 
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 昨年、近所に「飲み食いしながら落語を見れる」というお店が出来まして。
 近所に飲食店ができると、日と時間さえ合えば一度はつい行ってしまう私。しかもこのご時世での開店とは強気だな!と、落語会をやっていない日にひょっこり、お邪魔してみました。
 そしたら、マスターは高校の日本史の先生だったという。そして江戸時代の最盛期マニアで、落語に関しては50年以上の付き合いを続けていたという。
「私も‥‥すっごい前に、落語が好きで」
「ああじゃあ、コレ来てみない?」
 深くは聞かずにさらりとその店でやるイベントのスケジュール紙を渡す先生、マジ先生。以降、マスターを先生と呼びます。 
 その後も、摂食障害で医者に「1日3回炭水化物を摂れ!」と言われたけど無理なんですよねアハハ、と酒と肴しか頼まなない私に勝手に少量のナポリタンを出してくれたり、秘蔵の台湾のビーフジャーキーをさらりと出してくれたり。先生、マジ先生。

 落語会行くよ。行きますよ。
 こういう場に呼ばれるのは「実力のある若手ニツ目」で、私が好きなのは「円熟した真打」で、例えるならヌール・ヌーヴォーを楽しむ勢とヴィンテージを有難がる勢の違いみたいなもん。一回目は正直、先生へのご祝儀な気分でした。

‥‥‥‥

 やべえ、やっぱり落語面白い。
 その時の演目は『初天神』だったのですが。噺家さんってまず客層を見て演目をその場で決め、「枕」という雑談を最初にする事でそれをどう演じるか決めるんですよ(私が『世界最高の一人芝居』と評価するのはそこ)(ワヤンはまた別次元)。
 その日の『実力のある二ツ目』さんのネタは初天神。「それやったら先生が寝そうだったから」という理由で、この噺で一番有名な“息子に買ってやったみたらし団子の餡を、お前は着物を汚すからという理由で全部自分が舐めてしまう”という笑い所をすっ飛ばして、“一番高い凧を買わされたが揚げるのに自分が夢中になって息子に糸を渡さない”という、あんまり演じられないラスト部分に繋げた。
 こういう柔軟性がな‥‥最高なんだよな‥‥

 少人数での落語会だったので、その後の親睦会という名の飲み会で、サシで色々と今まで疑問だったとを聞いてしまいました。その中で出てきた、
「師匠は違うけど親しくさせてもらってる兄さんが、今度、三人抜きで真打になるんですよ〜」
 マ ジ か。

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 ここらへんはちょっと説明が必要?
 面倒くさいので「香盤表」でググって下され。ついでに落語協会と落語芸術協会の違いもね。笑点で、なんで圓楽師匠じゃなくて昇太師匠が司会をやってるのかも、それで分かるから。
 実は後日、女性二つ目さんと(美女なので追っかけがいるらしく、そいつがべったり離さないので空気を読めない酔っ払いを演じてヘルプに入ったのが切っ掛け)、
久「せめて笑点の前半で落語やってくれれば、もっと分かってくれる人が増えると思うんです」
二「それいいですね!あ、いや、勿論、色物の先生達やコントの方々も凄いですけど!(←気遣い)」
久 「てかあの錚々たる師匠方に大喜利やらせるとかどういう了見かと」
二「確かに!!」
久「まあ、大喜利に台本があるのは知ってますが」
二「え〜どうなんですかね〜(目を逸らす)」
 というワンonワンの会話の中で、香盤表について詳しく聞いた次第です。噺を聞く限り実力も凄いお方。人情噺で、オチは見当ついたのに泣いた。
 私が離れていた20年の間に、女性の噺家さんも増えました。もしかしたら近いうちにNHK新人演芸大賞で見るかもよ。

 すまぬ、話が逸れまくった。とにかく、「三人抜き」というのは、『香盤表で上にいる三人を差し置いても、こいつを真打にしないでおくのは勿体ないから、出世させよう』の意味。それくらい実力があるということ。
 俄然、その兄さんに興味が湧きましたね。でもこちとら、親と自分の病院通いで自由になる日は月に2回くらい。もらったチラシを熟読する。
(余談。こういう日本の伝統芸能でも、宣伝用のフルカラーB5つるつる紙のチラシはフライヤーと呼ぶのだろうか?)
 
 よし、この日。この日しか空いてねえ。と国立演芸場に電話を掛けてラス1ゲット。
 ――いや、QRコードでオンライン予約もできたのよ。しかし、それがあまりに前世代のほーむぺーじ仕様で、1個でも入力を間違えると最初に戻る最悪の作り。ブチッと来て、仕事の昼食時間に直電。
「チケットはインターネットでも予約できますが、ご存じですか」
「あ、はい、でもあのサイト、ちょっとよく分からなくて‥‥(=システムが古すぎて使えんわ、これだからお役所仕事は)」
「(いきなり口調がゆっくりになる)そうですか。では、お手元にメモのご用意はございますか?これから申し上げる番号を、セブンイレブンの店員に伝えて下さい」
「(ああ、セブンチケット使ってんのか)はーい」
 そしてその日の内にセブンに行って、チケット機に向かったけど、何をどうしても発券まで辿り着けない。半ばパニックで、すいている時間だったので店員さんに泣きつく。
「これ、直接レジに打ち込む番号ですね」
 手打ちで番号を入れたら、奥でガーっとプリンタの音がした、
 ――つまりアレか、私は自力でチケット発券すらできないおババだと思われた、と。
‥‥‥
 うん、これほどの屈辱、中々ないんですけど。
 もういいよ、このご時世でナマ落語を見れるだけで、色々目を瞑るよ。

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 いや、新真打の師匠の噺、めっちゃ面白かった。
 演目は奇しくも20年ぶりに近所の飲み屋で聴いたのと同じ『初天神』。しかし先生が寝るのを防ぎたいあまりに凧まですっ飛ばした前回に比べて、今回は子供があの手この手で父親の天神詣りに付いていく悪戦苦闘がメインで、物語としては飴を選ぶ所まで。
 一つのストーリーが、演者の解釈やその日の気分で、全く違った噺になるんですよね。「同じ物語は二度と観られない」は舞台の鉄則ですが、ここまで違うともう口を開けて(マスクしてるけど)拍手するしかありません。

 演者は一人、大道具なし、小道具は扇と手拭いのみ。クラシックバレエからお能まで、生舞台と聞けば行っていた私が『世界最高の一人芝居』と評価してるの、誰か信じて欲しい。

 三人抜き新師匠、例のお店で独演会があるんですよ。御披露目興行を聴いたその場でLINEで先生に予約入れちゃった。うふふふ、楽しみ。
 
****

 先生のお店、ご飯系も充実してまして(「あ、今日はそれ在庫ないわ」と組み合わせで)、ある日、前日の昼食が最後の食事だった午後6時。フラフラになりながら「せんせ〜何か食べさせて〜」と入店しようとしたら。
 初めてここで生落語を体験した二ツ目さん(初天神の人)とばったり遭遇。私あの時、飲みすぎてガッツリ転んだんだよな。
「あれ‥‥?」
「あ、もう入れますよ」
「え、いや、あれ?あ、覚えていらっしゃらないかと思いますが、ここで一度お会いして‥‥」
「覚えてます。あの後大丈夫でしたか?」
「?(なんでココに居るの)」
「?(なんで挙動不審)」
先生「今から落語会だよ〜。久さん、予約してるよ。忘れちゃったの」
久「マジすか!?まるで偶然で来たんですけど、うっわー不義理かまさなくてよかった!!」

 酔っぱらった私の言動は、絶対に信用してはいけない。最後の最後まで素面のような理性的な言動をしているが、記憶はよく飛ぶ。そして足にきてるのでよくコケる。

先生「ところで電車に何かあった?さっきからクラクションが凄いんだけど」(このお店、某鉄道の踏切から10歩の二階という立地)
久「隣の駅で人身事故です。30分前。遮断機が上がらなくて、一通だから目の前の道が詰まっちゃってます」
先生「あーそれでか。じゃあ車動いたら教えて。あと、時間過ぎたらなんとか凌いで」
久「(前半)はい。(後半)???」
噺家さん@テツ疑い「(前半) ? (後半)はい、承知しました!!」

 この日は三人会で、既に到着していたこの方(「テツですよね?」「…、違います」ならなんで相鉄線の新車のネイビーブルーって単語を知ってるんだ、絶対テツだ)以外は、二駅前で立ち往生してました。先生、裏道を使い倒して二駅前まで噺家さんを拾って、超特急で戻ってきて、なんと時間通りに始まりましたよ落語会。
 先生マジ先生。
 飲食店は20時終了の戒厳……緊急事態宣言の間の事でした。

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 もう一つ、奇跡的な偶然があるんだけど、それはまた後日。
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