mixiユーザー(id:9051319)

2020年12月27日23:50

236 view

寓話か? それとも露悪か? モノクロで巡る少年一人地獄たび 「異端の鳥」

迫害を逃れさまよう少年の旅路は寓話的か? 露悪的か? いずれにしろ記憶に残る映画だ。ホロコーストを逃れ、祖母の住む寒村で家族を待つ少年。だが祖母は急死。少年はあてどもない苦難の旅へ出る。

ポーランドの作家イェジー・コシンスが原作の映画は、全編に渡りモノクロだ。ゼラチンシルバー(銀塩写真)を彷彿とさせるような黒、白、銀の映像はとにかくうつくしく、作品へ拡張高い雰囲気をあたえている。*1 だが、うつくしさとは正反対に、少年の旅路は東欧辺境の因習や異常、異物への差別、少年を搾取しおのずの持ち物にしようという悪意へとみちあふれている。*2

魔女。間男の目玉をくりぬいて妻を痛めつけ辱しめる亭主。野に住む淫婦と鳥飼の情交。淫婦の性器に棒を突き刺し殺す村の女。性に狂い獸姦する少女。善良の皮を被るキリストの使途だが少年の性を奪う村男。目を背ける異常さと残酷さで一杯だ。*3

当然この激流にさらされて少年はかわる。生き残る目的で暴力をふるい、物を奪い、人の生き死に無感情になる。ただ、同時に変化していく少年の行動は、他人の支配下/庇護下から脱出して自立性を得る複雑性の象徴でもある。*4

この映像と内容が悪趣味で露悪的な映画だとする人々の感想は真っ当だ。一方、少年の旅路が寓話的であり、人間の悪徳と自立を描く内容だとする感想も真っ当だ。どちらなのかは見る人がきめることだ。作中で一切言葉をはっさない少年は我々に無言で問う。


※1 同時に本作が4色作品だったら露悪的/変態的な部分が悪目立ちして低俗な作品になったとも想像する。

※2 少年が劇的にかわり自身の意志を抱くきっかけは、本人の意志を曲げ帰属を強要する人々への抵抗だ。ここから物語ははっきりとかわる。

※3 おそらく拒否反応で完全に「ダメ」とするようにエグい映像が満載だ。このエログロをモノクロ映像が中和をしてくれる。

※4 初期の旅路は従順で人に頼るばかりだった少年は、中盤へ経て、自身を守り他人へと頼らず生き抜く目的で悪の道を歩む。暴力を覚え物を奪う。だが過酷な状況でそれはいちがいに悪い事だとくくれるだろうか? 自身を守る事は「あらがう」ことであって、でないと搾取され続けることになる。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年12月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031