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2020年12月20日23:52

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ルールで縛って活かすということ 『TENET -テネット-』

「時間の逆行」を表現した驚異の映像の数々が我々を映画の魔法へ引き込む。この選択と表現が成立するのは、ノーランが強烈な「時間的ルール」を本作に課しかつ法則と順序を徹底させるからだ。

“名もなき男”のオペラ座襲撃から始まる本作は、序盤は意味深長な場面や台詞、現象が続く。のち中盤の折り返しで時間が逆行。後半は答え合せ。最後には最初へ巻き戻る。逆行世界で息を吸うことは吐くことになり、前へ進むことは後ろへ進むことになり、炎は熱を奪い、同時間帯に破壊されたものは復元する。この過程を組み立て。寸分たがわぬ方法で巻き戻す映像は圧巻だ。*1

キャストたちが撮影中「自身の演技がただしいのかわからなかった」は納得。現場に常に身を置く監督の指示がなければ不安になってしまったろう。*2 「量子力学」や「時間理論」の考察は熱狂的ファンへゆずる。

とにかく本作を成立させているものは、その時間逆行の徹底的なルール厳守だ。ノーランは普通なら「制約」ばかりの設定を、「荒唐無稽な時間逆行は実在する」といった“納得”の土台へと変える。整備され清潔で超人工的な監督の映像と一緒。*3 受け手が真剣になればなるほど精確に作り込んだ世界がみえてくる。

一見難解な本作だが、話の筋はじつに単純だ。時間を駆使し世界を守るスパイたちの活躍と、オレンジの紐にだけ注意して堪能すれば十分。そういった物語のシンプルな削ぎ落し方もじつにノーランらしい。*4


※1 1 → 10の順序で展開する場面の中の現象と物理法則を反対の順番で逆転させるわけだ。巻き戻しではない。車輛が横転した場合、その横転した車輛の位置関係を記憶し、そのとき対向車線をだれが車で走り、どういったアクションをしたか? 全部逆転して場面を設計。10 → 1の順番で撮り直す。マジで頭がおかしい。

※2 たとえばだれかの身体をつかまえる場面では。その動作を反対の順番で演技したのだ。どういう映像になるか想像できない。

※3 ノーランの映像は生々しさがなくて、どの場面を切り取ろうとも人工的で絵画的だ。最も近い映像は1968年以降のスタンリー・キューブリックの作品だが、熱がなく冷たくてスケールが巨大で、ある意味では現実ばなれをしている。

※4 とにかく不用なアイデアや演出・造形を削いで削いで、映像も物語も雑味がないようにしていく。
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