十字路が一番危険だ。敵の火力が集中出来るし、視角が広がるため、待ち伏せにも適している。
建物の壁に身を隠してから機械的に銃と目線を同時に動かし、動線の確保をしていく。
「（右）タマン！ （左）タマン！ （正面）タマン！…ＧＯ！ ＧＯＧＯＧＯＧＯ！」
デカの掛け声で、小隊が駆け出す。
それでもやはり取りこぼしはある、右の方から発砲の光と発射音が確認出来た。
「クソッタレ、スレイマン！ 2時の方角…距離は約４テイ（440ｍ）だ！」
デカの報告でスレイマンのスナイプ班が、応射を開始する。とはいえこちらもサーモスコープ（ＴＩＲ）どころか赤外線暗視スコープ（ＶＮＩＲ）さえも無い。単純に高価なのでユピタルでは運用できないというだけの話だが。
それでも職人芸のなせる業か、セキズが敵を撃ち抜いたようで、不意に敵の攻撃が終焉した。その隙を見計らい、残っていたデカとスナイプ班が次のパッシブポイントまで駆け抜ける。
次の十字路ではメフメド伍長が動線の確保をしていた。兵は迅速を尊ぶ、デカの負担が減ったことは大きい。ただ、もうスレイマン軍曹率いるスナイプ班の精度が落ちかけている。
ずっと駆けずり回っていたので、ただでさえ運動不足なのに加えて集中力が切れて来たのだ。呼吸が荒くなれば射撃が正確に出来なくなる。それに暗闇での狙撃は目が疲れるのだ。そうそう長くできるものではない。
「目前、国会議事堂ですぜ…到着でさあ！ オールグリーン、走れ！」
メフメドの雄叫びで一斉に全員が建物内に雪崩れ込む。
「シーラーズ隊との交戦は控えろよ。ここからは慎重に行動しろ！」
ノラの命令に各隊員がそれぞれ、「エベット（了解）」と小さく反応した。
「隊長。同士討ちを避けるためにもヘッドライト付けて、パンジール・ウルケーだと分かるようにしましょう」
トルノヴァツの言う通りだ。建物内も照明など無く、寧ろ暗い。
ライトを付けると、シーラーズ隊の兵士が確認出来た。
「撃つな、我々はアナトリア師団から来た特使だ。サンダリエ将軍に会いたい！」
するとあからさまにホッとした様子のシーラーズ隊兵士達。
銃を下して５階に居る事を教えてくれた。その兵士達をまじかで見ると、少年兵と言っても過言ではない程、若い。
こちらもドクズやセキズ、ドブロクの年齢の事を考えれば、似たような状況ではあるが、何か居たたまれなくなった。
「あの…カーラマン・ノラ・シアンさんですよね？」
シーラーズ隊の兵士の一人がこちらに笑いかける。
「あの、あの…握手してくれますか？」
―ああ、彼等は知っているのだ。父とも思えるサンダリエ将軍の暴走を。それでも命令だから殉じるつもりだが、死が身近に来て本能的に怖くなったのだ。だから『不死身のカーラマン』に会えた事で心を奮起させようとしているのだ。戦争は人間を老け込ませる。
黙ってギュッと握手すると、周りの兵士も先を競ってお願いしだして、チョットした握手会になってしまった。
「将軍。アナトリア師団のイズミル隊と名乗る連中が、特使としてアポイントメントを求めていますが……」
５階から見える、戦闘風景を眺める痩せた老人に対し、副官が声をかけた。
「…来るのは分かっていたよ。通したまえ」
副官に振り向いた将軍の顔は、暗くて表情がよく分からなかった。
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