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2019年12月20日23:49

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原作を換骨奪胎してまとめきるむずかしさ 『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

文庫4冊、約2千ページの大冊をよく換骨奪胎している。
だが自身の友人が言う様に「難色」をしめす人々の気持もわかるのだ。

原作をまとめきれない。
まとめきれなさが「わけのわからなさ」につながるのも。

前作から約27年後の2016年。
たった1人デリーへと残ったマイクは殺人現場にITが残す伝言を発見。
ペニー・ワイズ復活を知り「血の誓い」をかわす仲間を呼び戻す。

まず映画が原作以上の部分は多い。

「過去と現在が交差する原作の整理の仕方」*1
「チュードの儀式の解釈の変更」*2
「スタン(ユフス)の自殺の意味」*3
「過去をふくらませたルーザーズクラブのトラウマとの対決」*4
「事件以後の5人の記憶の保持」*5 は特筆すべきだ。

詳細は脚注へとゆずるが見事な変更だ。

一方で後編は原作をスリムにした悪影響がじわじわ効いてくる。
キング・ユニバースの根底とは、「信じる力」 = 「想念の強さ」。*6
今回ならエディの持つ鉄柵が槍に変りITを突き刺す場面がそれだ。

だが映画は前作で「子供時代のルーザーズクラブがITを撃退する想念の対決」
を削除した。*7 ゆえ「想念」の要素がわかりづらいのだ。
巨大蜘蛛となったペニー・ワイズを小さく縮めるのも「想念の強さ」だからだ。

デッドライト――死の光や早口のように説明する「チュードの儀式」など、
「原作読了」によりかかっている節も多い。*8

この説明不足が、前作のような熱狂を、
国内でも国外でも呼び込まない理由かもしれない。


※1 原作では1958年の少年時代の「記憶」と「物事」が、1985年――成長したルーザーズクラブが「IT撃退」に動き出す時系で「回想のように挟み込まれる」。映画でマイクが説明したよう、デリーから離れれば離れるほど、デリーでの出来事を忘却していくのが理由だ。そのため原作はひとつづりの物語ではなく過去と現在が交錯する。映画はそれを整理して、過去から未来へほぼ一本道ですすむわかりやすい構成にしている。

※2 映画の「チュードの儀式」はルーザーズクラブの想い出の品物を入れ火を炊く「わかりやすい」ものになっている(原作とはことなる)。くわえて太古、シャカピワー族がITを封印した描写もオカルトよりになってわかりやすい(原作の異星人の宇宙船が墜落する描写を削除している)。かつてデリーの地下に落下した「宇宙の邪悪」。この邪悪の想念がITの正体。キングがその想像の源泉を「ラヴクラフト作品」と語る様に「旧支配者的」なのである。

※3 原作でのスタン(ユフス)の自殺の理由はITに恐怖しただけである。

※4 チュードの儀式の変更――想い出の品物を探すことによって、これまた各位のトラウマとの向き合い方が強調をされている。

※5 原作ではITの消滅とともにルーザーズクラブはその出来事を忘却していく。だが映画は記憶をとどめる。

※6 キング・ユニバースにおいて“想念”はとりわけ重要な要素だ。良いも悪いも“想念”は現実に影響をあたえる。たとえば『シャイニング』においてオーバー・ルック・ホテルの邪悪な“想念”はダニーの“かがやき”に目を覚ます。『ダークタワー』のガンスリンガーの弾は想い念じ撃つからこそ百発百中だ。『ドクター・スリープ』でダニーは自身の「頭の中の箱」に邪悪な幽霊を封印する。これらはすべてが“想念”へと通じる。

※7 原作でルーザーズクラブは子供時代、ニーボルト・ストリートのITにパチンコで銀の弾丸を撃ち対抗した。実際ITに効果があるのではなく「ITに効果がある」と強く信じた子供らの団結の“想念”が効果をあたえたのだ。エディが持つ鉄柵が槍と化す理由も、子供らの罵倒にITが縮小するのも同じ仕組みだ。ゆえやっぱり、このパチンコでの戦いは前編にいれるべきであった。

※8 「これ原作未読のヒトが理解できるのかな?」って想像する場面がちらほら。
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