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2019年05月14日23:02

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武道随感  ある日の武術談義

  先日、ふと本棚にあった黒田鉄山先生の居合術の本を手に取ってパラ読みしてみた。黒田先生の本は柔術と剣術の本は舐めるように読んだ時期があるのだが、居合術の本は難しくて読めなかったのだ。それで棚に積ん読になっていたのだが、なんか手に取るきになったのである。

 で、冒頭の方に驚くような話が書いてある。黒田先生の曽祖父は、たらいに節が三つほどある竹を立て、その傍に水を張った状態で木刀で「トン」と打ち、その竹を真っ二つにしたというのだ。で、祖父は、「わしも割ることはできるが、まだ水が跳ねる」と言っていた、と。

 いや、なんだよ、それ? 竹を木刀で真っ二つ? 嘘だろ。と、思うが黒田先生のことだ、本当なのだろう。とか思っている時に、不意に先日の稽古の際、僕の薙刀の切先が割れたことを想い出した。

 稽古用の薙刀の切先は、竹を二枚重ねたものでできている。先日、奥さんと自主練し、その稽古が終わった時に、自分の切先が割れていることに気が付いたのだ。それは綺麗に真ん中に線を入れたように、表の竹も裏の竹も割れていたのだ。

 元来、薙刀では切っ先が折れたりすることをあまりヨシとしない。力任せに振ったり前手で振ったり、していると折れやすい、というような事を聞いたことがある。大体、男子の試合で切っ先が折れることが多く、女子では少ない。その事からも、男子薙刀は力を使いすぎている、とされているのだ。

 そんな事もあって、ちょっと使い方が荒かったのかな、と思った。が、ふとその割れた切っ先を見て奥さんが言った。「綺麗に真ん中で打ってるって証ね」 まあ、確かに、横に当ててたり、斜めに打ち込んだりはしてないとは言えるだろう。折れたわけではないし、裏も表もこんな綺麗に真ん中から割れたなんて、初めてである。まあ、珍しいこともあるもんだとその時は思った。

 しかし黒田先生の記述を読んで、少しこの事について考えてみた。立てた竹を木刀で割る。こんな事、力任せに木刀で打ち付けたところで、到底できることではないだろう。黒田先生は、「トンと打つ」と表現している。それは『斬り』を入れている、ということだ。

 『斬り』とは何か? これを竹が割れたという結果から考えてみる。ものを二つに割る場合、衝撃はその対象の中心を捉えつつも、衝撃そのものは対象の全体に「広がり」かつ、そのものを「貫通」するような衝撃だと思う。

 最近になって僕が薙刀の振りにおける「斬り」の重要性に気付いた数か月前、奥さんと自主練をした後に奥さんが、「なんか打たれた感じが顎まで抜けてる感じがする。こんなの初めて」と言っていたことを想い出した。

 力で「叩く」のではなく、最後に後ろ手を使って「斬り」を入れることで「振り」の速さを出そうとしていた結果である。別に衝撃を与えようなどという意識はこちらにはなかったので、ちょっと意外だった。そもそもだが、薙刀では「痛い」打突は非とされる。けどこれは打たれた時には「痛くない」打突だったという。

 その「斬り」が、恐らく面がねに正確に真ん中に当たったのだろう。その結果、切っ先が綺麗に真ん中から割れたのだ。面がねに当たったということは、ちょっと「足らない」打突なので、やはり打突としては駄目なのだが、因果関係としてはそうなのだろう。よくよく考えてみれば、仮に金づちを持って切っ先を真っ二つに割ろうとしても、むしろ難しい話だ。振りのなかで起きたからこそ、こういう現象が現れたに違いない。

 そんな話を奥さんにすると、奥さんはそこからさらに興味深い話をした。それは東京の『先生』がした話で、その『先生』の先輩の話だそうである。

 ある時、『先生』たちがいる寮に泥棒が入った。女子寮である。『先生』も先輩も、無論、女性である。『先生』の先輩(以下、先輩と略)も薙刀を学ぶ武道家である。木刀を持って追っかけて行き、その泥棒の面を打ったのだそうだ。

 泥棒は一撃で昏倒した。のみならず、そこで絶命した。その先輩は大変なショックを受けて、結局、武道を止めてしまった、というお話なのだった。しかし、この話が興味深いわけである。

 仮に力任せに木刀で頭を打って頭蓋骨陥没とかになったとしても、意外とその一命はとりとめたりするものである。逆にその先輩は、ちゃんと「斬り」ができたのだろう。無意識にきちんとした打ちを出し、その頭部に『斬り』が入ったのだ。そこで竹パカーン、みたいな衝撃が頭の全体に「入った」のだろうと思う。

 まあ悪いのは泥棒の方だけど、その先輩もまさか自分の打突がそんな威力だなんて知りもしなかったのだろう。なにせ薙刀では「痛い」打突は注意されるし、普段から「力任せに打たない」ことを厳しく言われる。力が十分に抜けた自分の一撃が、そんな威力を持ってるとは思いもしなかったに違いない。不幸な事故である。

 奥さんはそんな話をした後に、さらにこう続けた。「いや、踏み込み面を素振りをしている時に思ったのよ。レインメーカーは凄いなって」

 は? いや、何故こここにレインメーカー(※プロレスラー、オカダカズチカの必殺技)が?

 ちなみに、奥さんは最近になって、僕のアドバイスを受けつつ踏み込み面を練習中なのである。『斬り』の意識は出てきていたが、コンパクトさと鋭さに欠けるので、もう一つ、力を抜いて「身体をたたんだ」ところから出る、というのをやったばかりだった。が、何故にレインメーカー? ちなみに、レインメーカーは、こんな技。


 奥さんに説明を求めると、「コンパクトなのに、威力がある」のだそうだ。考えてみると、レインメーカーというのは不思議な技だ。走り込んできたラリアットが、衝撃力が大きいのは見た眼でも判る。だがレインメーカーは、後ろから右手首と捉えておいて、相手をグルンと回すように突き放したところで、相手の手首を持ったままラリアットをくらわせる技だ。至近距離だし、走込みの「タメ」もない。

 にも関わらず、レインメーカーは3カウント率100%の技だ。なんでこの技で3カウントとれるのか、今までも不思議だったが、改めて謎に思った。で、奥さんに軽い感じで実演してもらい検証することにした。
 
 まずは、普通のラリアット。ちょっと駆けてきて、ボンと前腕を当てる。うん、こういう感じね。次、向かい合った状態で手首を掴んでもらい、そこからラリアット。うん、これもこういう感じね、なるほど。

 で、レインメーカーの形。後ろから右手を取られて、ぐるんと回転しながら前に出される。と、腕を掴まれたままラリアット。ボスン、と僕の身体が倒れた。

 威力、の問題ではなかった。前二つのラリアットが、衝撃が来る、と判っていてそれに身体が対抗できたのに対し、レインメーカーの方は堪えきれないのだ。ぐるんと回された後の身体は極めて不安定な状態にあり、そこに至近距離から、『斬り』に近い上から下へと向かう衝撃が加わるのである。

 長州力の使ったリキラリアットは「下から上へ」跳ね上げることで威力を増すラリアットだったが、レインメーカーは「上から下へ」斬り落とす感じの技だった。しかもその前段階で、古流柔術のように柔らかくこちらの体が崩されているのである。正直、レインメーカーというのは新味のないラリアットの変形技くらいにしか思ってなかったのだが、恐ろしい技だと思った。

 というのも、受ける側が踏ん張りきれなく、まず真っ逆さまにマットに倒される。その時、「斬り」の入った衝撃によって下に叩きつけられることで、後頭部周辺に極大の衝撃を受けるはずだ。どうしてレインメーカーをくらった相手が起き上がれないのか、やっと判った。なるほど。

 ちなみにこの感じ、上位の合気道家に正面入り身投げをくらった感じに近い。力で倒されるのではなく、態勢で倒されてしまう。形こそ似ているが、柔道の大外刈りとは異なり、足の刈りが入らなくても後ろに倒されてしまう合気道の入り身投げである。

 それにしても、奥さんの連想力に驚かされた一件であった。
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