いよいよ今日からキール歌劇場の「リング・チクルス」である。キールはハンブルクの北90�劼曚匹里箸海蹐飽銘屬掘▲丱襯罰い北未靴真邑�24万人ほど町である。シュレスヴィヒ＝ホルシュタイン州はキールやリューベックなどは郡に属さない独立市も含め総人口は280万人ほどで、キールが州都となっている。オペラ劇場の客席数はパルケット316（オペラの場合は274）、エルステン・ラング206、ツヴァイテン・ラング160、ドリッテン・ラング135の計812席（オペラの場合は775席）のようである。こんな小さな町で「リング・サイクル」を上演するというのだから驚きである。私もどの程度の質の「リング」が上演されるのか半信半疑でやってきた。
さてこの「ニーベルングの指輪」は演出ダニエル・カラセック、指揮ゲオルク・フリッツ。「ラインの黄金」の舞台美術はノルベルト・チールマン、衣装クラウディア・シュピールマン、ビデオ コンラッド・ケストナー、照明マルティン・ヴィツェル、（巨人族制作とその振付 マルク・シュニッティガー）、ドラマトゥルギー コルデュラ・エンゲルベルト。今宵の配役は ヴォータン トーマス・ホール、ドンナー トーマス・ベラウ、フロー Yoonki Baek、ローゲ トーマス・モール、アルベリッヒ イェルク・サブロウスキー、ミーメ フレッド・ホフマン、ファゾルト ソーステン・グリィムベル、ファフナー フリーデマン・レーリック、フリッカ Katarzyna Kuncio、フライア アグニスツカ・ハウザー、エルダ タチア・ジブラーツェTatia Jibladze、ヴォークリンデ メルチェデス・アルクーリ、ヴェルグンデ ハイケ・ヴィットリープ、フロースヒルデ タチア・ジブラーツェ。キール・フィルハーモニック・オーケストラ、キール市立劇場。
席はパルケット6列目（実際には4列目）83番。サイクル料金で€29.45。字幕はドイツ語のみで字が大きく太字なのが実に良い。
拍手があり、幕が上がると白い幕が現れる。小さな球が映し出される。それが次第に大きく画面いっぱいとなってくる。回りに小さい泡のようなものが現れ、それらが分裂したり統合されてゆく。どうも地球の生成を現しているようだ。
第1場。その白い幕が上がると舞台中央後方に金属製の7本のポールのようなものが水平に吊るされている。前から3本目のポールには白いドレスのフロースヒルデが中央に、一番手前のポールの右側に黒のハーフトーンの衣装のヴェルグンデ、そして2本目の左手には薄い緑色の衣装のヴォークリンデ。このポールが上下に昇降する。そしてその後ろにさざ波のような映像。この三人、遠目には優雅で、バランスの良い声量である。
そのポールの前方には傾斜のついた舞台。そこに黒装束で超ロングのチョッキのようなコートを着た汚らしいアルベリッヒが登場する。彼は乙女たち（一人でも）をものにしたいと思っているのだが、その急な坂に足をとられて彼女たちのところになかなか行きつけない。乙女たちはのんきなものでそのパイプの上でゆらゆらしている。やがて彼が登りきると今度は乙女たちが活発に動き回り彼をいたぶる。次第に明るさが増してきて後方に金塊が見えてくる。乙女たちは黄金の出現に幸せな気分になり、ぎょうぜつに黄金の秘密をしゃべりだす。その間アルベリッヒは黄金を吟味し、考えを巡らせる。そしてウェルグンデが「Der Welt Erbe gewänne zu eigen, wer aus dem Rheingold schüfe den Ring, der masslose Macht ihm verlieh'.」というのを聞いていたアルベリッヒは意を固め、「Erzwäng' ich nicht Liebe, doch listig erzwäng' ich mir Lust?」と言って、大きな黄金を持ち上げ、抱えて左へ逃げ去る。このアルベリッヒを歌うイェルク・サブロウスキーが実に良い。
第2場。ヴォータンの館。傾斜のついた舞台中央に長めのテーブル。その上には超高層のワルハラの模型が乗っている。その両端に椅子が置かれ、右側にフリッカ、左側にヴォータンがうつぶせで寝ている。先に目の覚めたフリッカが「Wotan, Gemahl, erwache!」と言って夫のヴォータンを起こす。そうこうするうちにフライアが逃げてくる。彼女を追ってファフナーとファゾルトが登場。この巨人たちは頭と両手両足以外は針金細工のような感じで透けて見える。身長は通常の人間より少し大きい程度。一人の巨人を、頭を動かす人、右手を動かす人、左手を動かす人（歌手）、そして両足を動かす人の合計4人で扱う。特に両足の担当者は常に腰を折って作業をするので大変過酷な労働だ。ヴォータンと巨人たちが支払いの件でもめ始める。ファフナーが「Du da! Folg' uns fort!」と言ってフライアを連れ去ろうとすると、フローとドンナーがやって来、ドンナーがハンマーを振り下ろそうとするとローゲがなかなかやってこないのでイライラしていたヴォータンが「Halt, du Wilder! Nichts durch Gewalt!」と言って止めに入る。そこへ赤の上下、おまけにシャツも赤のローゲが登場する。トーマス・モールは最近幅を聞かせているいわゆる「ローゲ声」ではないが実に素晴らしい声でローゲを歌う。「どこをほっつき歩いていたんだ」というヴォータンの叱責にも慌てず「女のもたらす喜びと価値ほどに豊かなものは、男にとっては存在しないということです！」と言って、アルベリッヒの話を始める。そしてラインの乙女たちが「アルベリッヒを捕まえ黄金を再び水中に戻してください」と懇願したと付け加えます。この話に巨人たちは興味を示す。フリッカもその黄金を手に入れることに肯定的だ。ヴォータンも次第に指輪を手に入れたくなってゆく。ローゲはそれを横取りすることを示唆する。ファフナーも「uns rauhen Riesen genügt des Niblungen rotes Gold.」と言い出し、それに対しヴォータンは「Seid ihr bei Sinn? Was nicht ich besitze, soll ich euch Schamlosen schenken?」といったんは他人の物を渡すなど非常識だと良識を示すが、巨人たちはフライヤを人質として連れ去ってしまう。威勢の良かったフローとドンナーも彼女が連れ去られるのを阻止できない。フライヤが連れ去られるとヴォータン、フリッカ、フロー、ドンナーはへなへなとへたり込んでしまう。しかしヴォータンは「Auf, Loge, hinab mit mir!」と言ってローゲに支えられながらニーベルハイムに向かう。ドンナーなどは「Fahre wohl, Wotan!」などとのんきなことを言って送り出す。（なぜfahrenなのだ？）
白幕に下へ下へと降りてゆく映像が写される。
第3場。舞台後方がそっくり奈落から上がってきて、後方は舞台が上下に分かれる。前方は通常の舞台のレベルで右側に金塊が積み上げてあるが、後ろは下に下がっている。上方からヴォータンとローゲの乗った金属製のリフトが降りてくる（ワーグナーはこのようなことを連想して「fahren」を使ったのではあるまいか）。二人はリフトから降り、ローゲが床のふたを開けアルミのはしごを使いニーベルハイムに降りる。そこではアルベリッヒ（コートは第1場と同じものだが、下のシャツが黒でなく金となっている）がミーメに作らせた隠れ兜を取り上げ、それを用い透明になる。この場面では彼は後方の低い位置におり。前方の舞台に手下の子供たちが並んで彼の体を隠し、それに煙を使って消える。そして前方にいたミーメを痛めつける。アルベリッヒが去ると物陰からその光景を観ていたローゲとヴォータンが登場。彼らがいろいろ探りを入れているところにアルベリッヒが戻ってくる。ローゲは言葉巧みにアルベリッヒに隠れ兜を使わせる。まずアルベリッヒは龍に化ける。しっぽが後ろの舞台から前の舞台に現れのたうつ。次いで鋭い爪をもつ前足が舞台両端に現れ、最後にこうもりのような羽を翻した顔が現れる。ちょっと滑稽で怖くない龍だ。ローゲに乗せられたアルベリッヒは次に小さなものに化ける。後ろから小さなカエルが現れる。ローゲはヴォータンに捕まえさせるのではなく、自分でカエルを捕まえ懐に入れると隠れ兜を腰に括り付けはしごを登りヴォータンの館へと戻ってゆく。
第4場。第2場と同じ場所。アルベリッヒは元の姿に戻っており、ロープで床につながれている。彼の命令により手下たちが金塊を持って現れる。たむろしていた手下たちに自分のみじめな姿を見せたくないのか、彼は手下たちに帰れと命ずる。するとすごい悲鳴を上げて彼らは逃げかえる。彼らの大部分は子供たちなので、それはすさまじい叫びだ。片手の戒めを外されたので、金塊を供出したのでもう帰れるだろうと思っていたらそうではなかった。指輪を引き抜くためだった。抵抗する彼を抑え込み、ヴォータンは彼の指から指輪を引き抜く。それで彼は放免されたが半信半疑だ。しかしただでは起きない彼は指輪に呪いをかけて去る。
ファフナーとファゾルトがフライヤを連れて戻ってくる。巨人たちの要求に従い、ローゲたちは彼女の姿が見えないように金塊を器用に積み上げてゆく。すべての金塊を使ってしまってもファフナーにまだ見えると言われ、隠れ兜も供出して隙間に埋める。今度はファゾルトが吟味をして「この美しい目が、わしの目に入る限り、 この女神をどうしても諦めきれぬ！」というものだからファフナーが何とかしろと言い、さらに「ヴォータンの指に、黄金の指輪が光っているだろう。」と言って指輪を要求する。しかしローゲやフローやドンナーまでが頼んでもヴォータンは指輪を頑として渡さない。そこに左胸が丸見え（イミテーション）の大胆な衣装のエルダが現れる。彼女は「神々の黄昏の暗黒の日が始まろうとしている・・・ だからこそ警告するのだ・・・その指輪には近づくなと！」というと、ヴォータンは「どうやって心配したり、恐れたりすることができようか？ あなたをつかまえて、全てのことを理解しないうちには！」と言ってすべてのことを知りたがる。しかしエルダが去ってしまうと、指輪を渡すことにし、フライヤは解放される。このタチア・ジブラーツェがまたすごい。フロースヒルデでもよいと思ったが、エルダでは実に説得力があり、かつ声量も圧倒的だった。
指輪を受け取ったファフナーは網を出しさっさと金塊を詰め始める。ファゾルトが俺にも分け前をよこせというので争いとなり、ファフナーはファゾルトを素手で殴り殺してしまう。そしてフローとドンナーも荷づくりに協力し、彼は財宝をもって立ち去る。
ドンナーがハンマーを打ち下ろし、フローはスモーク・マシンを持ってスモークを作り出す。後方に超高層ビルのヴァルハラが見えてくる。神々たちはヴァルハラに向かって右に行進してゆく。ラインの乙女たちの悲しげな声が聞こえてくる。（幕）
このオペラ・ハウスに失礼だが、多くを期待せずに購入したサイクル・チケットであった。しかし聴き進むにしたがって驚愕に変わっていった。確かにオーケストラは多少ミスもあったが、ゲオルク・フリッツの指揮のもと盛り上がりのあるよい演奏をした。そして歌手陣が実に良かった。ヴォータンのトーマス・ホールは確信に満ちた歌いぶりで、ひょっとすると現在最高のヴォータン歌いかもしれない。アルベリッヒのイェルク・サブロウスキーとエルダのタチア・ジブラーツェ、そしてローゲのトーマス・モールに感銘を受けたほか、すべてのキャスティングが完璧だったと思う。そして大変オーソドックスな演出。ドイツでこれほどワーグナーのト書きに忠実な舞台が観られるとは思ってもみなかった。舞台装置も悪くないし、ビデオもよい。今年観た「ラインの黄金」の中では最高に良かった。ティーレマン指揮のドレスデンのものより良かったと思うのだから、自分でも驚きである。明日からの舞台に期待がかかる。びわ湖よりも好きな演出だ。
すごく良い気持ちで10時ごろ劇場を出る。キールには夜遅くまでやっているレストランが少ない。劇場の近くに月‐土に0時までやっている「ブロック・ハウス」というステーキ・レストランがあるのでここに入ることにした。0.5lのヴァイツェン・ビールが€4.90、オニオン・スープが€5.50、Mrs.という180gのステーキが18.50、占めて€28.90。ここは満足度が高かったが、ステーキ・レストランなので毎日来るわけにもいかない。
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