全身アザだらけの全裸。氷が大量に入る裸身を冷水に沈め、
身体を冷やす彼女がバスタブから水を引き上げ立ち上がる。
その冒頭から、1989年11月、東西の壁が崩壊したベルリンでの任務を振り返る。
以後、全編に渡りロレーン(シャーリーズ・セロン)は満身創痍。
プロレスの「シュート/セメント *1 」もかくや。
相手を殴って蹴って、壁に打ち付け生き残る。
凄絶なシャーリーズ・セロンは抜群にかこっいい。一見の価値あり。
だが映画はそれだけだ。
踊り場を挟む階段を上下に、5分以上の長回しで見せる殺陣。
チャド・スタエルスキと共同で、
『ジョン・ウィック』を制作した監督らしい手法である。
アクションはたしかに評価できるだろう。
ただ物語のスジはゴチャゴチャしすぎてどうにもつたない。
歴史的転換点――ベルリンの壁が崩壊した背後に東西スパイたちの暗躍があった。
アクションとサスペンスの両方を取り込み、
そして間諜(かんちょう)ものだ。
「どんでんがえし」なんかもほしい。よくばりすぎだ。
結果、物語は複雑になって整理できていない。
ローレンの正体があかされてもストンとオチず、*2
任務は「全部計画であった」 ずいぶん行き当りばったりな作戦もあったもんだ。
敵国側のスパイ、デルフィーヌとの薄く浅い同性愛的関係。*3
パーシヴァルを自由にさせすぎるなど――。
その物語の曖昧さが国内でも国外でも微妙な評価を得て、
主演女優だけが絶賛される理由なのかもしれない。
※1 つまりは演技ではなく真剣勝負。
※2 本作最大のどんでんがえしは「“謎”の人物“サッチャル”とはだれか?」なのだが、そのしかけの土台と積み上げ方が悪い、あるいは、しかけを展開する時間が遅すぎ/鈍(のろ)すぎ印象にのこらないことだ。……というか、そもそもしかけとして機能しているかもあやしい。
※3 監督は「スパイならばなんでもする」と同性愛的関係をいれたという。ローレンは彼女に任務以上の愛情を感覚するわけだが、ならセックスより平時で感情をかわす場面が必要だ。どうにも監督の描写は内面的ではなく表面的。個人の印象としては「自身の能力以上の物語をやりたがる」といった感想を抱く。
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