いま現在の須磨海岸にて、映画『平家物語』の一ノ谷の戦いのロケを敢行する日本人監督はいない(インディーズとかでシャレでロケするのではなくて、ちゃんと最低50億円ぐらい使っての話)。
まあ、沖縄戦がそうであったように、上陸戦って攻める側も守る側も悲惨を極めるわけで、あんまり見たいものではない。そういう意味では、比較的少ない死傷者で済んだ撤退劇を派手な戦争映画ではなく、じわじわ来るサスペンスとして描くこととしたノーランの選択は正解だった。2016年のダンケルクの町と海岸を可能な限り1940年に戻し、しかしそれでも写ってしまう現在の町や建物は敢えて消さずに、地元民などエキストラも大量に集めて90日ほどで撮ったという。爆撃されたり大虐殺が行われたりしなかったから出来たわけ。
ドイツ兵は殆ど姿を見せず、イギリスに撤退しようとする数十万の兵士と彼らを救おうとする人間(民間人も)たちの、陸海空、それぞれのストーリーが一つに集約されていく、至ってシンプルなドラマを、ハンス・ジマーによる響き続ける低い奏音が形取っていく。若いキャストたちをマーク・ライランス、ケネス・ブラナーらベテラン俳優がサポートするという構図もいい。
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