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2017年06月13日11:47

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🟡永い森には抱かれろ

「皆さんはとてもラッキーです」
小雨の中、奥入瀬の渓流に沿って走るシャトルバスのドライバーは観光客の我々にそんなことを言う。

「雨に濡れると新緑がより鮮やかで、綺麗に見えるんですよ」
そうね。濡れれば植物は瑞々しくなるよね。

「そして苔も非常に生き生きとするんです」
そうね、苔はジメジメしたとこが好きだもんね。

だけどドライバーの言う様に、とてもそんなポジティブ・シンキングになんかなれっこない。
もし明日雨があがったら、絶対にその日訪れた客には「皆さんは運がいい。昨日までは雨だったんですよ」なんて言うに決まってる。
ひねくれ者の私はそう思った。

奥入瀬に着いた日は曇天だった。でも予報通り2日目は雨。
二泊三日の旅で2日目が雨だなんて最悪だ。
だからホテルに着いた日は16時を過ぎていたけれど、雨が降る前にと我々は早速渓流沿いを散策した。
溢れるばかりの初々しい初夏の緑は曇天でも私を興奮させる。

こんな緑が見たかったのよ!
だから去年、紅葉のシーズンに訪れていたにもかかわらず、再び私は奥入瀬にやってきたのだ。

海は生物を生み出したと言う。
海という漢字には母と言う字が入っているが、もしかしたら「ウミ」という音も「生み」という言葉と語源に関わりがあったんじゃないかと思う。

そして陸に上がった生物を育んだのは森林ではないだろうか。
360°森の木々に囲まれていると、あらゆる生物がここで進化したんじゃないかと思ってしまう。
何でも木々はフィトンチッドという一部の細菌にとっては害となっても、多くの動物や人間にとってはプラスになると言う物質を発しているのだとか。
なるほど。
人が森林に魅せられるのには理由があるということなのだろう。

でも、2日目は予報どうり早朝からあいにくの雨だったので、ドライバーが冒頭のようなことを言ったわけである。
バスを降りた後、前日よりさらに上流に向かって歩き始めた山道は雨のためひどくぬかるんでいた。
そんな水たまりは避けようにも限界があり、私のスニーカーは何度か泥水につかり、ジーンズは膝から下まで雨と水溜りで ぐしょぐしょに濡れた。

去年も紅葉を見るつもりできた時は雪に祟られ、今度は雨。
渓流が白い水しぶきを上げ、木々の緑が絶好のロケーションを提供してくれる中、幾分天気を恨みながらそれでも私も主人もたっぷり歩いた。奥入瀬は勾配が非常に緩いので歩きやすい山道なのだ。
写真を撮りながらゆっくり歩いていると15時ごろからようやく雨が止み、日が差し始めた。

明るくなると新緑も柔らかく輝く。
清々しい初夏の風に吹かれていると、この爽やかさはやっぱり雨のおかげなのだと思えた。

こんな緑に抱かれたかった。
こんな風に吹かれたかった。
こんな空気に包まれたかったのだ。

雨上がりの新緑はどこまでも瑞々しく、若々しい。
本当だ。
私はドライバーが言ったことを心から信じる気になれた。
「皆さんはとてもラッキーです」
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