その一報は人心を惑わせた。
何より、人の本性を曝け出すこととなる。
「上様、本能寺にて討ち死に！！」
その一報が入ったのは、乱の後、わずか1日後。
京都本能寺にて、上様こと織田信長、ならびに後継者の織田信忠が二条城で討ち取られたとの事が近江は安土に走った。
泣き叫ぶ、大奥、女郎衆。……いや、事態はそれで済む筈がない。
この時、上様である信長の母・土田の御前を始め斉藤道三の娘で正室のお濃の方、側室は皆、安土城に起居を共にしていた。何故なら謀反など起ころう筈も無かったから。
ここが天下布武の拠点であろうと、誰も疑わなかったからである。
手勢は無きに等しい…しかも、安土城はあろう事か天朝様を迎え入れるため、大手門は真っ直ぐに造成されていたのだ。これでは謀反軍の寄せ手が攻め入られても、半時と持たない……
この時、安土城の総責任者は上様の次男・信雄であった。……が、その信雄は見当たらない。
なんと信じられない事に、当日のうちに退城、自領に篭ってしまったのだ。
この時、もう一人留守居役がいた。近領蒲生の領主、蒲生賢秀である。
誰も彼も己の保身、生き残りに徹する中、賢秀は上様である信長の言を思い出す。
その賢秀の細い目、禿げ上がった額を見て、「そちは、わしと同い年であるか」と言った。「我が臣従に我と同年はいない。なればそちは我が分身となりて、我が意に応えよ！」
甲高い声であったが、温かい声が賢秀の耳朶を貫く。誰にも言わなかった信長の本音がその時、吐露した。「家族が死ぬのはもう、見たく無いものじゃの……」
そう言った。
慟哭の兄弟殺し、一族抹殺を経て弾正忠織田家は尾張を手にする。林大善や甕割柴田もかつては上様の弟君、信友様を冠して裏切った事もある。
実は上様は、無二の友を欲していたのだ。謀略と権勢と下克上と。
上様が一番、行っている中で一番手に入れる事の出来なかったのが友情……そう思うと、賢秀は涙が自然に落ちた。
「ようございましょう、上様。上様が守れなかった部分、不肖、この蒲生めがお守り申し上げます！」
……だが、大奥は未だ整備もつかず、御方様とお濃様の方針が違う。更に賢秀の父・定秀がかつて殺した小倉家の嫁が、上様の「おなへの方」としてなっており、それはそれは悪感情の拒否。
それでも次々に告げられる本能寺の変や首謀者・明智十兵衛。
迫り来る明智家の軍勢、どんどん逃げる味方、そのなかでどっちに付く事を強いられるのか……その時、戦国一ん頑愚殿と言われた蒲生賢秀はどうするのか？？
…こんな短編を書きたいと思います。
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