最近、日記書いてないなあ…と思いつつ、リハビリがてら、ちょっと今度の法話の整理も兼ねて、仏教時の密接な関係について考察しようというシリーズをやってみようかと思います。だけど、続かないかも…
樹は太古の昔より宗教的な意味合いが強かった。
「世界樹」と言うように、ゲルマンのユグドラシル、ザクセンのイルミンスール、そしてインドの（樹の主としての）ソーマ、パーリジャータ（デイコ）、そして乳海攪拌でインドラが手に入れたカルパ・タル…中国から日本に伝わったものでは扶桑伝説がある。
かくも国を為す物として樹は人類に精神的な拠り所を提供してきた。
聖書の世界でも「命の樹」と「生命の樹」が出てくるし、ギリシャの神々は勝利の証として月桂樹の冠、即ち月桂冠を被り、ヘラクレスは世界の西の果てにあるヘスペリデスの黄金のリンゴを手に入れる。
今でもブッシュ・ノエル（クリスマス）では冬至のお祭りとしてモミの樹に飾りを飾るし、ドイツでは愛の告白や結婚式はリンデンバウム（ヨーロッパ菩提樹）の元で行った。面白い事にインドでも愛の告白や結婚式はインドボダイジュの元で行うと成立するものらしい。思えば「シンデレラ」も「灰被り姫」の時はハシバミの樹を仲介としてドレスや靴が支給される。
1500年に亘るキリスト教の弾圧にもめげず生き残ったウェールズ王国北部のドルイド僧は、木々の中で瞑想を行い、自然の神秘の力を受け取る事が可能になる。ワーズワースが愛し、ラフカディオ・ハーンが追慕した妖精の国ティルナ・ノーグも木々の存在無しには語る事は出来ない。
翻ってみるに、ヒンズー教でも四住期というものがあり、3番目の期、つまり孫を見た後、森へ入って禁欲的な生活をし、瞑想の日々を送るというものがある。
樹の元で瞑想すると言うのは人間に生きるとは何か、死ぬとは何か、また帰去来全てを整理させてくれる、心の整調作用があるのかもしれない。
さて、いよいよ本題である。
我等がお釈迦様、つまりシッダールタが「悟れる人」、ゴウダマ・シッダールタになるのに欠かせない樹がある。
そう、インドボダイジュだ。先述したとおりヒンズー教では昔から聖なる樹として崇められており、結婚や裁判などの契約時にはこの樹で行うのが慣わしであった。
これはブラフマン・ヴィシュヌ・シヴァがこの樹に棲むから、神前を意味するためだ。
またインドボダイジュは釈迦入滅（インド・ネパールで信じられている10月中旬〜）に葉を落としつつも新芽を出すので、ソレも仏教徒の中で畏敬の対象となっている。
菩提樹はそれこそ釈迦が悟りを開いたためについた名前「ボーディ・ドルマ」が和訳されたものであり、元々の名前は「ピッパラの樹」または「アシュヴァッタ（大地にしっかりと立つ）の樹」という。
7日間の瞑想中、仏陀は何を見たのか。
因縁因果の硬結びを解いていく行程であったのではないだろうか。命あるものが生まれながらにして持ってしまう無知、運命を受容する無明、訳も無く渇望する生存への苦しみ。何度も意識の輪廻転生を行い、解脱にいたる真の悟り＝アノクタラサンミャクサンボダイを得たのである。
インド仏教崩壊後、インドではイスラムとヒンズーのアフォ共が5世紀によってたかってこの木を切り倒してしまい、その苗が二代目として仏教徒に守られ育ち、またその後に、たまたまスリランカに渡っていた子孫の樹がその後植樹され3代目としてブッダガヤに今でも拝む事が出来る。だがトンチキのヒンズー教徒はソレをシヴァの樹だと言い張って譲らないが。
一応、ヒンズー教でもこの木を切ると祟りが降りかかると言われており、何故伐ったのかはよく判っていない。
仏教圏のこの樹には色とりどりの幡やタルチョと呼ばれる小さな旗が紐で綴られたものが沢山かかっており、見ると荘厳に感じられる。一見の価値はあると思う。手軽なのはタイやネパールであろうか。
インドボダイジュは寿命の長い樹である。スリランカのアヌラダプーラには紀元前288年に植えられた樹が現存している。まあ普通に考えると樹齢2300歳以上か。
この木の下に入ると、インド独特のあの茹だる様な暑さが和らぎ、清涼な風が吹く。アタイもバングラデシュにいるときはこの木の下によく避難したものだ。しかしあんまり居ると、ベンガル人が話かけてきて瞑想できないので早々に退散したものだが。
ヒンズー教では他にもこの木に関する色んな神話があり、ラクシュミー（吉祥天）やガネーシャ（歓喜天）が棲む樹だとも伝えられている。それはこの木を傷つけると白い乳液が出る事や富や繁栄をもたらす木の王という観念がガネーシャに結びついたからかもしれない。
さて、「アーユル・ヴェーダ」に於ける薬効成分であるが、有名なのは樹皮。煎じると淋病の薬となる。果実もなりイチジク科なのでイチジクに似ているが、軽めの下剤となる。
その種は各臓器を回復する機能があるといわれる。葉は揉むと皮膚病に効く。やわらかい新しい枝は牛乳で煮て砂糖を加えると清涼飲料となる。
また樹皮の煎じ薬は疥癬にも効くといわれる。その樹皮を擂ってペーストにして塗ると、化膿部の膿を吸い出す。白い乳液は歯痛を止め、歯茎を丈夫にする。またそれはひび割れにも効く。
樹皮を砕き乾燥させて粉状にすると、痔に効く。
根を同じく砕き乾燥、粉状にして蜂蜜と合わせると子供の発疹、腫れ物を抑える軟膏となる。果実を乾燥させて水に溶くと喘息の薬となる。
似た樹でベンガルボダイジュ（優曇華の木）の根っこの皮を煎じると子宮の病気全般に効く。浣腸にも使用され、また口内炎の時にうがい薬としても用いられる。ネパールでは今でも現役の薬として用いられている。
ただ、こんなにも恩恵にあずかっている木なのであるが、残念ながら日本では馴染みが薄い。この木は生命力は強いのだが、寒さには弱く、日本では育たないのだ。
日本の寺院等でよく見る菩提樹はシナノキの菩提樹であり、全然別物である。見た目の葉っぱが似ていること、種が似ている事から代用品として観葉樹として愛でられている。
東ネパールのライ族は、人が死ぬと埋葬地の上にこの木を植える。昨今日本でも認知されつつある樹木葬だ。これからの日本はこうした葬送方法が流行ってくるのではないかと思う。なにより、日本人の感性に合っていると思うのだが。
…とまあ、こんな感じで仏教三大聖樹「菩提樹」「無憂樹」「沙羅双樹」を取り上げてみようかと思ったのですが、思った以上に長くなってしまったので、今日はここでお開きにしようかと思います。
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