皆さんは「○○家之墓」という形式になったのはいつかお分かりだろうか？
正確にいつからと言うのは判らないが、大体言えるのは昭和になってからの事である。つまり、100年も経っていないのだ。
勿論、そうじゃない場合も稀にある。だが大多数は昭和になってからだというのは事実である。
「嘘だ、その前からあるぞ！」「うちは昔から続く旧家だが、ウチの墓は○○家〜形式だぞ！」
まあまあ。仰る事は判ります。でもお墓の棹石のどこかに「昭和○○年竣工」とか書いてありますから。きっと、お父さんか爺さんか、その前に墓の建て直しをしたんです。その時にこの形式になったという事です。
という事で、今回は葬送方法の歴史をお浚いします。
縄文から弥生時代になるにつれて、エポックが一つある。棺が出来た事である。
甕棺というモノが出来て、より埋葬の状況が判り易くなったのだ。
それまでの縄文時代というのは伸葬…寝かせたまま埋葬していた（※地域差は当然ある）。
ところが棺に遺体を入れる事によって屈葬、つまり遺体を折りたたんでしまう事が一般的になったのだ。しまっちゃうおじさんは弥生式という事になる。
しかもどうやら、遺体を縛っていた痕跡もあり、この頃から人間は「生き返る」事を恐れていた様に考えられる。ゾンビやキョンシーみたいになって、そこ等辺をピョンピョンしてもらっては困るんじゃあ〜！…という訳である。
そこから今度は大墳墓時代つまり古墳の時代に入るのだが、こんなのは一部の豪族だけで、大多数の一般人はやはり屈葬のままであった。
だが、この先奇怪な事が起こる。
都市が形成されるに伴い、「死」が雑で汚わいなモノになってしまうのだ。
「葬る」…という漢字がある。これは「死者」の頭と足とを「手（手偏）」で掴んでいる図を顕したものである。そう、「葬る」は「放る」…ただブン投げて捨てていたのだ。
どこに？
道や、街外れである。しかし当たり前の事ながら臭いし、不衛生であり（※事実、疫病が多発している）、野犬の餌にもなっていたようで不穏な事、甚だしいのである。
また、死体をいつまでも捨てず、家の中に留めて置いたという記録も多数残っている。近頃、面倒くさいので死体をいつまでも放置していたというニュースを散見するが、何のことはない。日本人は1200年前から似たような事を繰り返してきただけなのである。
天皇家の葬送方法には殯（モガリ）等もあるので、単純に語る事が出来ないのだが、今回は大宝3年（703年）持統天皇の火葬にだけ触れる事にする。
死体が腐乱するのを恐れた持統天皇は仏式に習い、火葬とし、これ以降一部上流貴族だけで火葬がしきたりとなっていくのだ。
…話がたびたび飛んでしまい申し訳ないが、世界宗教の中で唯一ブッダだけがちゃんと葬式を行っている。だから葬式仏教と揶揄される昨今だが、それは的違いである。「葬式をする事こそが仏教である」と。
それと「仏陀は葬式をしなかった。だから仏教に葬式は不要」という話も良く聞く。いや、なんでも開祖と同じ事しなければいけないのか。ならばキリスト教徒は3日後に復活しなければいけないではないか。それに、ブッダの葬式は当時の仏教教団の総意で行っているのであり、南方仏教でも葬式は行っている。
鎌倉期に入ると、場所にも拠るが岩壁に横穴を彫って、そこに遺体を安置する「風葬」が一世を風靡する。これは沖縄の一部地域にも残っており、また鎌倉や大分県等で今でも遺跡として見学が可能である。
そして、ここまでの間。遺体への敬意や死者への供養という概念は一切出てこない。死んだらハイ、それまでよ。てなもんである。
霊魂（ガイスト）と身体は別物、ナカナカこの考え方は好きであるが、平成の世の中でこんなこと言おうものなら、袋叩きにあってしまう。
この差はどこから来るのか？
恐らくだが、余裕の現われの差だと思う。
しょっちゅうそこ等辺に死体が転がる日常だと、一々関わっていたらキリが無いという感じであろうか。街中に落ちているタバコの吸殻や空き缶、ゴミの一つ一つに思いを馳せる事が無いようなものである。
対して現代は死が余りに非日常である。綺麗にしなければ、臭くなくしなければ…こうして死体は飾られ、デコレーションされたまま火葬されるのである。死を想う事すら出来ない。
だがそれがいけないと言うのではなく、今はそういう時代なんだよという話である。アタイだって酸鼻な時代なんて嫌だ。
戦国時代というのはまた特殊である。
戦国大名というのはカッコ良く見えるが、アレはショバ争いしているヤクザとそうそう変わらない。シマの鎬を削って、欲望丸見えの仁義なき戦い……それが戦国時代である。
だから世の民達もヤクザ大名どもも、どこかに後ろめたい気持ちがあったのだろう。やたら戦没者や殺した者、殺された者の供養を行うようになり、また自身が死んだ後の供養をお願いして回るようになる。
赤松円心、山名宗全、北条早雲、上杉謙信、武田信玄……生前戒名を授かった戦国大名達である（室町初期〜南北朝も含む）。ざっとみただけでこんなにもいるのだ。私利私欲で戦っておきながら自分の追善供養だけは願うという…結構情けなかったりもする。
うう、寒いので今回はここまで。
次回でお墓編終了です。
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