人は誰しもコンプレックスの１つや２つはある。
３つも４つもある私は、だからコンプレックスのある人間の方に親近感を覚える。
そして私が好きなのは、そのコンプレックスを克服して乗り越えた人間だ。
そういう人間はコンプレックスのない人間より、思いやりとか忍耐力があると思う。
結婚したばかりの頃、主人と私は身長も体重も靴の大きさもあまり変わらなかった。ハイヒールを履くと私の方が高くなった。
当時、私は女としては幾分背が高い方だったが、主人は男としては低かった。
多分思春期の頃はそれなりに悩んだだろう。
彼にとって幸いなことは、私があまり身長にこだわらない女だったことである。
エッヘン。
「皇太子カップルと言ってちょうだい」
当時、やはり私と同じようにハイヒールを履くと皇太子より美智子妃の方が
わずかに高かったものだから、私はおふたりになぞらえて畏れ多くも友人たちにそんなことを言ってのけたものだ。
主人にとって幸いなことは、私がそんな神をも恐れぬ大胆な女だったことである。
オッホン。
あれからン十年。
私は4〜5�堊蕕察⊆膺佑蓮��埖世辰拭�
そして私が小顔に見えるほど主人は顔も膨らんだ。
ツーショットの写真でそれに気づいた私は思わず叫んだ。
「あなたの顔、デカ！」
「まあな」
主人は平然と言ってのけた。
「俺も顔が広くなったからな」
「あら」
私も何食わぬ顔で呟いた。
「態度がそんなにでかいのに、なんで体は大きくならなかったのかしら」
「そりゃ当たり前だろ」
主人は又しても平然と言ってのけた。
「お前の前ではいつも俺、小さくなってたからな」
主人はことほど左様に実は大きな人間なのである。
包容力があり、許容力があり、寛大だ。
ウッフン。
だけど太った主人と痩せた私の、この体重格差はどちらが、より幸せかのバロメーターのひとつ。
幸せの詰まった主人のお腹を見ながら言ってみたい。
「あなたの方が幸せよ」と。
でも言えない。
そして「私のおかげよ」と続けたい。
でも言えない。
主人にとって幸いなことは私が思いやりに長けた女だということである。
そして言えない理由はもう１つ。
寛大な主人はきっとこう返すに違いないからだ。
「俺も、太っ腹になったからな」
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