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2016年10月25日23:50

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2016年 10月15日(土)新国立劇場 「ワルキューレ」

演出 ゲッツ・フリードリッヒ、美術・衣装 ゴットフリート・ピルツ、照明 キンモ・ルスケラ、指揮 飯森泰次郎。ジークムント ステファン・グールド、フンディング アルベルト・ペーゼンドルファー、ヴォータン グリア・グリムスレイ、ジークリンデ ジョゼフィーネ・ウェーバー、ブリュンヒルデ イレーネ・テオリン、フリッカ エレナ・ツィトコーワ、ゲルヒルデ 佐藤路子、オルトリンデ 増田のり子、ヴァルトラウテ 増田弥生、シュヴェルトラウテ 小野美咲、ヘルムヴィーゲ 日比野幸、ジークルーネ 松浦麗、グリムゲルデ 金子美香、ロスヴァイセ 田村由貴絵、東京フィルハーモニー交響楽団。
14:00開演。席は2階4列22番。
第1幕。幕が開くとフンディングの館。長方形の大広間が左から右に7-8°傾いて作られている。中央には長いダイニング・テーブル。その背後にはトネリコの巨木が少し右に傾いて立っており、ノートゥングの柄がわずかに見えている。稲妻が走り、ジークリンデが背後のドアを開けると外は吹雪いている。そこに毛皮をまとったジークムントが疲れ切って入ってきて倒れこむ。そして水を所望する(Ein Quell!)。水を飲み、甘酒の接待を受けて疲れも和らいだところにフンディングと仲間たちが鉄砲を携え戻ってくる。ジークリンデの願いでジークムントが戦いで武器まで失った顛末を語る。やがてフンディングは「俺は呼ばれて戦の場に駆けつけたが遅かった。夜遅く家に戻ってみればその敵が家にいるとは。今日は家においてやろう。」と言い、翌日血祭りにあげることを示唆する。
フンディングを眠り薬で眠らせジークリンデがジークムントの許に戻って自分の身の上と婚礼の話をする。と、フンディングの家の後ろの壁が取り払われ、黒い背景に白い花だろうかの模様が現れる。ジークムントはダイニング・テーブルの上に乗り、ノートゥングをトネリコの木から引き抜く。ノートゥングを持ったジークムントの手にジークリンデが手を重ね、二人は抱き合うとフンディングの館から脱出する。(幕)やはりジークムントのステファン・グールドが圧倒的な声量で素晴らしい。
第2幕。幕が開くと左手前から中央奥へ2車線の高速道路のような道が遠近法をデフォルメしたような形で続いている。その左路線の中途に出入り口。そこからブリュンヒルデが登場し、ヴォータンと実に仲の良いところを見せつける。やがて婚姻の神フリッカが現れる。彼女はフンディングの訴えを聞きジークムントを罰するようにヴォータンに迫る。
フリッカのエレナ・ツィトコーワの声は聴衆が多いと多少吸収されてしまうのか、ゲネプロの時よりは迫力はなかったように思うが、それでもなかなか良い。自分の過去の行動を持ち出されたじたじとなったヴォータンは彼女にジークムントを助けないことを誓わされる。そしてブリュンヒルデを呼び出し、彼の殺害を命じる。
舞台は回転し、2本の道がかなり横に寝た形になり、右側には遺跡の廃墟のような壁の残骸が見られる。そのあたりからジークムントと疲れ果てたジークリンデが登場。ジークリンデは寝てしまう。そこに白い兜をかぶったジークリンデが現れ、自分と一緒にワルハラに行こうと誘う。しかし彼はジークリンデを一人残して行くことはできないと、ジークリンデとの無理心中を図ろうとする。ブリュンヒルデは彼のジークリンデへの深い愛情を悟り、彼を守ることにする。
舞台は再び転回し、道路が舞台前面から後方に向かう。ジークムントがフンディングと戦い始めるのを黒い兜をかぶったブリュンヒルデが見守る。そこへヴォータンが現れ槍でノートゥングを打ち砕く。フンディングの一突きにジークムントは倒れ、フンディングはとどめを刺す。ヴォータンは放心したように見えるフンディングに「Geh'!」と最初は小声で、そして二度目は大音声で言うと彼は倒れる。ブリュンヒルデはすかさずノートゥングの破片を拾い集め、ジークリンデを抱えて逃げ出す。ヴォータンは彼女の背信に激怒する。(幕)
ブリュンヒルデがジークムントの許に最初に現れた時は白い兜をかぶり、次に現れた際には黒い兜であった。この演出ではどうも白い兜の時は戦士を死に至らしめる際の、そして黒の時はそのような意図がないあるいは味方するときの装束のようである。
第3幕。幕が開くと舞台前面から広く、規則正しくイルミネーとされた黒光のする床が後方に向かってデフォルメされて狭まってゆく。ワルキューレたちが自分の獲物の勇士たちをストレッチャーに乗せて集まってくる。彼女等は死体を舞台前面に並ばせ、白布を剥いで獲物の品定めをしている。舞台はトンネルの様相を鮮明にさせる。ゲッツ・フリードリッヒの面目躍如というところか。ワルキューレたちはゲネプロの時と比べればよくなったが、やはり全体として声量が物足りない。そこにブリュンヒルデがジークリンデを連れてやってきて、彼女たちに助けを求める。しかしヴォータンの怒りを恐れて助けようとしない。ジークリンデはジークムントが斃れたので自暴自棄になっていたが、ブリュンヒルデに彼らの子がお腹の中にいると言われ、急に助けを求める。ブリュンヒルデはジークリンデをヴォータンの嫌う森へと逃がす。この日のジークリンデのジョゼフィーネ・ウェーバーはなかなか良い。席が舞台から離れていることもあって、容姿も気にならない。
ヴォータンがやって来、ブリュンヒルデを出せと命ずるとワルキューレたちは縮みあがる。ブリュンヒルデは意を決して彼の前に出る。ヴォータンはブリュンヒルデ以外のワルキューレたちを立ち去らせる。するとトンネルのイメージは消え、床だけが残って岩山の場面となる。ヴォータンは当初ブリュンヒルデを眠らせ、最初に彼女を見つけた男のものにしようとしたが、しかし彼女の恐れを知らない勇者だけが私を見つけられるようにして下さいとの懇願に折れ、ブリュンヒルデの許に駆け寄り抱擁する。そして「Leb' wohl, du kühnes, herrliches Kind! Du meines Herzens heiligster Stolz! 」と歌い始める。今回のキャスティングでグリア・グリムスレイをヴォータンに起用したのは大成功だった。往年のハンス・ホッターなどのヴォータン歌いとは情感の点で比較にならないが、ここ何年間かで聴いたヴォータンの中では声量一つとっても抜きんでている。「Loge! Loge! Hieher!」と槍を地面(岩山)に三度打ち付けると(本物の)炎が上がり、ブリュンヒルデとヴォータンの回りに炎がめぐり始める。炎はヴォータンが舞台前面に出るのを待ち、ブリュンヒルデの回りを完全に囲んで燃え上がる。さらに緑のレーザー光線が円錐状にブリュンヒルデを取り巻き、煙のような炎のような映像がLEDの炎の上に映される。炎の高さが低いので簡単に超えられそうだが、LEDで非常にきれいな炎を現出させた。秀逸である。
ヴォータンは「Wer meines Speeres Spitze fürchtet, durchschreite das Feuer nie!」と言い、立ち去る。(幕)
ゲネプロの時に比べると多少緊張感の欠如があったのか、私の集中度が落ちてしまった嫌いはあるが、世界に誇れる公演であった。
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