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2015年06月24日01:23

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004 おじや☆ダンス 2/

いつか、雑踏消えて、三人のみ。レーヴェル、不気味に笑う、ククククク…。

ぽんこ おじさん、ひとさらいでしょ。
レーヴェル ドキッ(大当たり)。──いや、いやいやそのね。腹さ減ってんだへ。ちょうどウチの出し物ぁ食い物(モン)だしよ、ちぃと変わった見世物だけん、見ておいきよ。
ぷーこ えー、でもぉ…。
レーヴェル お味と量は保障する。本場ロンドンから呼んできた、ミシュラン☆☆☆☆☆(ふぁいぶすたあ)のシェフじゃけんね。
ぷーこ えーロンドンなの? いいです。怪しいから。
レーヴェル 失敬な。私のどこが怪しい。

すごく怪しい。

ぷーこぽんこ …すっごく怪しい!
レーヴェル 人を見かけで判断するな。これでもわがモリズミ町は桜通り商店街二世会の幹事をつとめるフトン屋の若旦那、綿貫カンタローとはこの俺だ。テキヤのバイトは地域振興のためだ。脱税もしてない。風呂にもいちんちおきに入る。三十五歳、独身。結婚相手、募集中。何か問題ある?
ぷーこぽんこ ない、ない!
ぽんこ ドースル?
ぷーこ どうしようか…。
レーヴェル 思い立ったが吉日とやら、お代は見てのお帰りでい! さあ入ったり入ったりィ!

ト、ジャーンと銅鑼鳴り木戸がゴゴゴゴと開くと、妖怪のように巨大な鳥たち、点呼のごとくズラリと並び、ぷーこぽんこ、吸い込まれるように入ってゆく…。
夜。リーリーリーとコオロギ。塔。さき、窓辺で。

さき すっかり秋。星明かりの下で、風にザザザ…、と揺れる、下界はるかなススキの原が、こう、耳を澄ますと遠くに聞こえてきて、私は今夜も眠れない。ああ、もう忘れたわ。いったいいつからこの塔にいて、どんな約束で解放されることになっていたのだか…。

どこかでコツコツコツ、と小さなノック。

さき お、ティニ・タニ。誰かいるの?
変な声 お姫さん。
さき どこ? どなた?
声 私です。
さき タワシ?
声 (ずっこける音)タワシが人、呼びますか!
さき そうね。タワシでなければ、虫下し?
声 (水洗便所の音)違います。
さき マムシ?
声 (インドの蛇使いの笛)外れです。
さき (のって)もやし!
声 あの、謎々じゃないんです。
さき なんだ、そう。つまんないの。
声 実はですね、私──。…ありゃりゃ?
さき (泣いている)ん?
声 泣かないでください! あなたに泣かれると僕ァ。
さき タワシじゃなくて僕なのね。
声 え? はあ。
さき それは漢字の僕?
声 はい?
さき 片仮名のボクゥは、アタマ悪そうで嫌い。平仮名のぼくぅは、インテリぶっててイケ好かねえ。
声 漢字…だと思います。
さき あら、ステキなのね!
声 そうですか…?
さき ほんとは小林とかいうんでしょ。
声 ドキ(当たり)。違います。用事があるんです。
さき タワシに?
声 (あきらめて話、あわせ)…はい。
さき 申してみよ。
声 その前に、姿、現していいですか。
さき 洗っちゃって洗っちゃって。
声 ジャブジャブザザザ、ドロン!

と、煙幕とともに現れると、かえるである。

さき あー!
かえる (ポーズつけて)どうでせう?
さき 何が。(よく見えない)
かえる 何がって…、今、あーって何かいいかけたじゃないすか。
さき あーで終わりじゃだめ?
かえる だめじゃないすけど、何か淋しいな。余韻がコウもうちょっとあるとなぁ…、
さき 知らないよ、そんな。
かえる だって、かえるですよ?
さき ふーん。(やはり、見えないのである)
かえる びっくりしないの。
さき しました。んでもう、びっくり終わり。あとほかに芸は?
かえる 見世物じゃないです!
さき だって、オトーサマにあれでしょ、遣わされてきたんでしょ。
かえる オトーサマ?
さき 私が笑わないからって、いろんな芸人を送りこんでくんのよ、オトーサマったら。とうとう、娘を笑わせた者には国の半分を与える、なんてバカな約束しちゃって。
かえる (急に欲を出して、ずるがしこく)ハハハ…。
さき それに酔狂よねえ、おまけに私をお妃につけてやるんだって。
かえる (すっかり欲、むきだしに)いや、そうなんです。お父上のご心中、お察しいたします。実は先ほど、お話を伺いまして、夜分に失礼とは存じましたが取るものも取りあえず急ぎ馳せつけた次第。ひひひ、ズズ(よだれ)。
さき ふーん。して。
かえる して?
さき そちは何の芸を。
かえる ハハア、そちは、イヤ、みどもは、その、やつがれは…(困って)えーと、その前に姫。
さき またその前にか。手短かに申すがよい!
かえる ほんとに笑えないんですか?
さき そうなの。
かえる ためしにやってみるってのは?
さき ぎゃははははははは……!

狂ったように笑う(約三分)。

さき (けろりと)これしか、笑えぬのよシクシク。
かえる それは重傷でございますな…。いや、実はタワシ、
さき ぷ。
かえる どうなさいました?
さき (こらえて)いえ、何でも。
かえる この先の沼に棲む、谷蟆と申します。
さき ハイ?
かえる ですから、谷蟆と申すもので。(と、宙に字を書く)
さき 漢字が難しい。かなで申せ。
かえる タニククーです。
さき タニククーさん?
かえる ヒヒーン。左様(さい)です。谷で、ククーと鳴きますゆえに。
さき 何か、悲しいことでもあるの?
谷蟆 いえいえ、ククーと鳴くのはかえるのゴウでございます。
さき ククーと鳴くのはハトかと思ったわ。
谷蟆 ハトはどっちかってえとデデポポーでございましょう。
さき かえるはゲッゲッゲコゲコゲッゲッ(すごく似ている)じゃない?
谷蟆 かえるにも種々(シュシュ)ございます。実は、あなたをお助けにまいりました。
さき 助けてぇー!(叫ぶ)
谷蟆 (コブラツイストかけて)静かにしやがれっこのアマ。
さき ハイ。
谷蟆 実は。
さき 実はが多いのね。
谷蟆 (くじけず)…実は、あなたは閉じこめられている。
さき 知ってるわ。
谷蟆 そうですか。でも何故です?
さき え?
谷蟆 どうしてここにいるの。
さき さあ。
谷蟆 じゃ、いつそれ、忘れたんです。
さき さあ、いつかしら…。

階下からロクの声。「お姫さま! どうかしやしたか、お姫さま?」

谷蟆 (あわてて)いけない。今はいったん帰ります。しかし近いうちに必ず、ここからお連れ出し申します。実は私、王子──、
さき え?
谷蟆 (迷って)──王子の…遣いで参った者で。
さき まあ!
谷蟆 ではいずれまた。ドロン。

と、煙幕張って、窓へ。足すべらせて「あー」と落ちてゆく。

さき 素敵な方…。

そのまま窓辺でウツラウツラ。ロク、武装してやってくる。

ロク 夢を見なすったか。お可哀想に──。

見つめる。暗転。
同じ頃。木陰。たき火でヤカンがチンチンいっている。ぱっこは毛布にくるまっている。

せんせ むかぁし昔のことだった。男の子がおってな、えろう、淋しがり屋だった。あんまり淋しがり屋だったもんで、ある日、その子は旅に出た。友達を探しにの。ところが世界にはもう誰もいなかったので、その子は仕方なくお日さんを追いかけて、西へ西へ、山を越えていったもんだ。でも、追いついてみるとお日さんは、かさかさに乾いた、ヒマワリの花だった。男の子は泣くのを我慢して、今度は月を追いかけて、またぞろ山を越えていった。ところがやっと追いついてみたら月は、がちゃがちゃに毀れた壺だった。男の子はやっと涙をこらえて、今度は空の星に向かってぐんぐん駈けのぼっていった。だけど、ようやくたどりついてみたら、もう星は、腐ったキャベツにたかったあぶらむしだったのよ。男の子はがっかりして地面に降りてきた。そうしたら地球は、がらぁんとした、傾いたビルだった。その子はようやく泣いて泣いて、それからいつまでも、その屋上で、膝をかかえて座ってた。今でもその子は誰もいないビルの上で、本当にヒトリボッチのまま泣いているんだとさ。──

パチパチと、たき火がはぜる。

せんせ ぱっこ。──寝たか。
ぱっこ 起きてるよ。
せんせ そうか。
ぱっこ その話、それで終わり?
せんせ うん? うむ、まぁ、口から出まかせだから。
ぱっこ かあいそうね、その子。
せんせ ま、人並みにはね。
ぱっこ いつ気づいたのかな、世界には誰もいないって。
せんせ さぁてね。もうお寝(やす)みよ。
ぱっこ はぁ、目が冴えちった。芋でも食うか。(と、ヤカンから棒ッ切れでつつき出し)あー、何だかんだいっても、現実はマシね。生きてんもんね。トモダチもいんし。子どももいんし(ト、腹なでなで)。
せんせ 何か月だい。
ぱっこ 六か月かな。
せんせ そうか。どうなっちゃうんだろうな、世界は。
ぱっこ さあてねえ。ともかく産婆が足りないやね。一億総助産婦でも、キャンペーンするしかないっしょ。
せんせ ラジオでいってたが、おろした子も大分いるそうじゃないか。
ぱっこ ウン。親は怒るし、政府もここまでくりゃ、なりふり構ってらんないもんね。
せんせ しかし、どう思う?
ぱっこ え?
せんせ 地球外生命体って。
ぱっこ うーん、勘でいってたってしょうがないしなぁー。でも、あたしはかなり、楽しんでるよ。
せんせ あ、そうなの?
ぱっこ ったり前じゃん! だって秩序、ないんよ? ケーザイもキョーイクも、めちゃくちゃなんよ? これって明るいじゃん。いい時代に生まれたっすホンマ。
せんせ おめえ、いい子だな。
ぱっこ そうかな? どっちゃでもええけんどね。いやぁ、せんせの能力も重宝させてもらってるっすホンマ。

プアー、と、遠いラッパ。ふたり、がばと起き、

二人 ――ぽんこだ!

プアー。

ぱっこ ほおーい! ぽぉーんこぉー!
せんせ バサバサバサバサ。

と、飛んでいき、すぐぽんこをぶら下げて戻ってきた。

ぱっこ いやあ、良かった良かった、すぐ会えて。ぽん──、…あんた、どしたの?!
ぽんこ ほにょー。(くたくた倒れる)
ぱっこ おいおいおい、何だよ一体。
せんせ 押さえてろ。

ふにゃふにゃなぽんこに、ウィスキー含ませる。ぽんこ咳きこむ。

せんせ しっかりしろ。
ぽんこ はやー。(ますますへなへなになる)
ぱっこ 腹、減ってんの? 芋食うか? 食え。(と、芋ねじ込む)
ぽんこ ぶぶ。(モーローと)腹、くちい。ダイジョーブ。うー、てろー。
ぱっこ ひとり? ぷーこは?
ぽんこ あ。ドー。(泣く)
ぱっこ 何だ何だ…。
せんせ ちょっと待て、様子が変だ。ラリってる。おい、ぽん!
ぽんこ らり?
せんせ ほら。
ぽんこ らりらりらー、るれれんらー。(ヨイヨイと踊る)
せんせぱっこ なーで、なーで。(背中さする)
ぽんこ おええー。

げろげろげろげろ。やがて、正気づく。

ぽんこ ハッ。私は何をしていたのだ。
ぱっこ 踊ってたよ。
ぽんこ 踊って? あ、そうだ、大変だ。ドー。(泣く)
せんせ こいつ、正気でも変わらんなぁ…。
ぱっこ 泣くな。どうしたんさ。
ぽんこ 姉ちゃんが、姉ちゃんが、ヒックヒック。
ぱっこ え? ぷーこが?
ぽんこ つかまったぁ…!
ぱっこせんせ ナニ!
ぽんこ ごしゃくえんで食べられるってゆうから、うちら、うちら、らら、らららああってけてけてん、とんてんしゃん(と、演じ始め、柝が入る)

そして回想シーン。見世物小屋の中。妖しい光と音響の中、ドラム缶の大釜をかき回す三人──レーヴェル・ぷっこ・ぽんこ。歌、「ふたりの魔女」。

♪冷たい銃の銃身で
 スープかき混ぜ笑う魔女
 (その夢見たり)
 ただひたぶるに
 美をば求むるその女
 かの名はケイト、

 氷河を破る溶岩の
 あやしき流れ統(す)ぶる魔女
 (その夢見たり)
 ああ ただひたぶるに
 歌に飢えたるその娘
 なれはビヨーク。

あやしい雰囲気に当てられて、ぷっこぽんこ、妙な気分になっている。レーヴェル、大釜からスープを取りわける。

レーヴェル さあ、ドーゾ。
ぷーこぽんこ いったっきゃーす!

ぷーこぽんこ、がっついて食べる。

ぽんこ はふ、はふ。
ぷーこ うーっめぇ! ずずずず。
レーヴェル ほほ、そう慌てないで。まるで犬みたい。(ト、なぜかオネエことば)
ぷーこ はうはう、うがが。
レーヴェル 大丈夫よこーんなにあるんだから。
ぽんこ お代わりしていーい?
レーヴェル みーんな召しあがれ。
ぽんこ ほんと! やったあ。
ぷーこ いやあ、助かりまっす。はふふ。
レーヴェル いつから食べてないの。
ぷーこ んー、昨日は食わんかったなー。忘れた。
ぽんこ あれ、ナンだこれ。(何か、爬虫類の一部)
レーヴェル 気にしない気にしない。
ぽんこ んー、じゅるじゅる。っぱ。イケル!
ぷーこ この混沌としたダシが何ともコウ…。
ぽんこ これは…?(丸ごとのニンジン)
レーヴェル β(ベータ)・カロチン!
ぽんこ なぁる。っぱっぱ、っまっま、ンめえ。
ぷーこ おめェったら、ウサギだねー。
ぽんこ 姉ちゃんこそ、イヌ!
ぷーこ そうか。がうがう、ばふばふ。(食う)
ぽんこ あ。(草履だ)これって…、
レーヴェル オウ、アイム・ゾーリー。
ぽんこ ウホホ。むぐぐ…うめえ。
レーヴェル 食ったの?!
ぽんこ 嘘よーん。もったいない、もらっとこう(しまう)。おーかわーり!
レーヴェル おいきた。
ぷーこ うがっ(「おかわりっ」)。
レーヴェル あいよ。
ぽんこ こんだ、何が入ってンかなぁー。闇鍋、ルルル♪♪

レーヴェルおもむろに、半ば観客に向けて、語る。その間にぷーこぽんこ、勝手によそって食う。ぷーこ、次第にはげしくイヌ化する。

レーヴェル 赤と黒。――好きな夢を見たかったら、方法があるの。はじめは、疲れた時なんかに、ワザと明るいところで寝る。そうすると、マブタを透かして赤い光が網膜に映ったままで眠るから、あなたは赤い夢を見る。つまりはじめからどんな夢を見るか分かってるわけだからあとで思いだすのも無理じゃないわけ、ね? そうやって、思いだし方を覚えたら、こんだは眠りに入っていく時に、その時のことを思いだすようにしてみたらいいわ。あるいはただ単純に、そのことを考えながらフトンに入る。どうせ赤いだけの退屈な夢だものそのうち厭きて寝ちゃうから、こんだあとでそれを、思いだすの。ね、もうホラ、暗い所でも赤い夢でしょ。さぁ、次は、暗い布団で目をつむったら、小さな赤い点を思い浮かべてみてね。小さな明るい赤い点が、まっくらな虚空に浮いている。それが段々、ふくらんで大きくなってくる。そういうイメージ。そりゃ、頭がハッキリしてる時には見えやせんのよ。でもそのうち疲れてボーッとしてくると、いつかふいに、うまくいくから。はじめのうちは、急に火の玉が飛んでくるみたいで、ギューンて渦巻いたり音まで聞こえてびっくりして目が覚めちゃったり。ね、だけどそのうちきっと、スッといつもの夢につながれる時がある。その感覚を覚えておいて、次の時には、こんだワザとそれを試してみるの。そうやって少しずつ、自由の領域を広げていって、いずれはすっかり、好きな夢だけ見られるようになる…。
ぽんこ ぷー姉ちゃん、どひたのん?
ぷーこ (かなりイカレて)がうっ、ぐあぶっ、うぐご、ぐががっ…、
レーヴェル よしよし、おかわりね。
ぽんこ おかわりかなぁ…?
レーヴェル (急にガラリと、講義のごとく)――そもそも夢というのはぁ、脳が、何か映像を見たと誤解する、一種の幻覚であるわけでぇ、あります。むろん夜ならば部屋の明かりは消えとるわ、実際に町や海辺におるわけでもないわ、もちろんマブタというシャッターはガラガラガラ、下ろされて本日の営業は終了しておるわけですが、にもカカワラズ脳は何かを見た…。ミステリーですな。網膜か視神経かは知らんが、どこかで架空の経験が誕生した。しかしです、もし…、
ぷーこ ばうばう、がばばっ。
レーヴェル そこ、うるさい。(チョーク投げる)
ぷーこ (いちおう恐縮して)くぅーん。
ぽんこ 姉ちゃん、お手。
ぷーこ うが。(お手)
ぽんこ オーよひよひ。おかわりあげよ。
レーヴェル (引きつづき)…もしも、本当に誕生したのならば、それはもはや架空とはいえないのであります。もちろん夢のできごとは現実ではない、しかしあの景色は…(遠い目で)…たしかにあった。いや、むしろこういうべきでしょう。まことに、夢の映像こそが、本当の光景なのだと。あのハチャメチャで、乾いた魅力に充ちた夢の風景は、ほんとうはいつも、起きている時にだって続いていて、ただ日なか目覚めている間だけ、まぶたの外の映像があまり強くて目が眩んでいるのだと。本当は夢こそが――!(観客に)白昼、ふと夢が世界を覆う経験、あなた、ありませんか…?
ぽんこ っぱー!
ぷーこ っごー!

ふたり、満腹してひっくり返った。







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