第２場 『言葉』でなく『心』で理解できた！
ペッシの朦朧とした頭に、兄貴の声が戻ってくる…。
ペッシ 「うう…う!!」
プロシュート 「（遠い声）ペッシーっ、何してるペッシーっ。列車を止めろーッ!!」
ペッシ 「うっ!? …!? あっ…兄貴!!（兄貴が列車から落ちたらしい事に気づき、慌てる）とっ『止め方』なんてわかんねェ――ッ!! 間に合わねえーッ、兄貴ィイイイイイーッ」（スタンドを投げ、プロシュートを引っかけた）「プロシュート兄貴ィイイ――ッ!! な…なにが起こったのか見てなかったけど…、あ…あぶなかった！ ギリギリだったけど、ひっかけられてよかったぜ…!! それにこの『針』はもう決してはずれない!! で…でも、オレの今のこの姿勢からじゃあ、列車を減速するのも、あの『亀』を捕まえるのも不可能だぜ…兄貴ッ〜ッ。そしてこの『重さ』の手ごたえは『２人分の体重』だ！ ブチャラティ!! あいつもいっしょにしがみついてるなッ！」（間…。大きな衝撃）「!! や…やったぞ！ 兄貴ィ！ 体重がひとり減ったッ！ ブチャラティを突き落としたんだねッ！ やったねッ！ プロシュート兄ィ!! 危機一髪だったけどよォオオオオオ――ッ。よし！ 兄貴ッ！ 今、列車の屋根に乗り移ったようだね!? もう『針』をはずしても大丈夫だね!! ン!?（不穏な気配）…。さっき…、オレの『ビーチ・ボーイ』の針先は、兄貴の『右手』に食い込んだ…はず。ビーチ・ボーイの『針』の『右側』にあった！ で…でも今は!! これは『左手』だ…。小指は今!! 針の『左側』にある！ 針の『右側』にある指は『親指』だ！ …ど、どういう事なんだよ…？ こ…これは…？ さっき兄貴の右手に『針』を食い込ませて引っぱったのにッ！ たしかに『右手』だったッ！ で…でも今！ いつの間にか！ 食い込んでいるこの手は『左手』!!? この『糸』の先によォー、ある『手』はいったいなんなんだ？ なんで兄貴の『右手』が『左手』に入れ変わっているんだよォオオ。そ…そして、思い直してみれば、な…なんか、微妙に兄貴！ 体重が重くなったような…」
乗客 「お…おい、そこのオマエ。列車を止め…させろ。れ…列車中が病気みたいなんだ…。さっきよりはだいぶ…オレ！ 気分は良くなって来たが、歯と髪の毛が抜けちまったんだ!! オマエ!! 聞いてんのか!! 早く運転手に列車を止めさせろッ！」
ペッシ 「こ…こいつ『老化』が…治って…ま…まさか！ まさかッ！ まさかッ！この糸から墜落したひとり分の『体重』っていうのはッ！ うっ、うそだッ！ う…うそだッ!! あ…兄貴がッ！ ま…まさかッ！」
乗客 「聞いてんのか!? ボケ！ そこのおまえだよッ！ オマエに言ったんだよッ！」
ペッシ 「オ…オレのプロシュート兄貴がッ！ う…うそだ！ どうしよう〜どうしよう〜、あ…兄貴が、う…うそだ!! オ…オレ…ど…どうすれば…？ う…ううう…うう〜そんなぁあああああああああ。亀の中のヤツらもでっ出てくる!! ど…どうしよう〜オ…オレ。も…もうダメだあああああ」
乗客 「てめー、なに泣いてんだよォ――!!!! 列車止めさせろって言ってんだぜ!! わかんねーのかボケッ！」
ペッシ 「うるさい！ うるさい！ うるさい！ うるさい！ うるさいんだよオオオーッ」
乗客 「なんだパニクってらあ〜、こいつマンモーニだなあ〜、チェッ！ もう頼まなくてもいいぜ！ ボケッ！ 元気が出て来たから自分で止めに行かぁあ――ッ!!（と、再び急速な老化）え？ マああああああタ、だあああああ」
ペッシ 「!? !?」
乗客 「とあああ頼むゥううううう、やっぱりイイイあああアンタがあああ…れっ車ああああを止めエエエてエエエエ医者ウウウオウオウウウ呼んでえええええええ」
ペッシ 「ろっ、『老化』がまた始まったッ!?」
乗客 「あピィイイイイイイ」（倒れる）
ペッシ 「!? !? ど…どういう事だっ!? オ…オレのビーチ・ボーイの糸にひっかかっているのは、こいつはブチャラティの『左手』だ!! で…でも兄貴は!! 兄貴の能力は消えたわけじゃじゃあねえッ！ 『老化』は止まってねえッ！（窓に駆け寄って、プロシュートのいたはずの辺りを探す！）
ド ドドドド ドドド
プロシュート 「グレイト…フル・デッド…」
ペッシ 「兄貴ィイイイイ、イイイイイイイイ、イイイ。（独白）本当に…兄貴…ううっ、そのとおりだったんだね。『いったん食らいついたら、腕や足の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は…解除しないと』オレに言った事は!! あ…兄貴。ギリギリのところで列車にしがみついている…。あんなグチャグチャの重傷じゃあ、も…もう兄貴は助からないッ！ 息をひきとるのも時間の問題だ。だのに兄貴は、自分の『グレイトフル・デッド』を解除しない…。何があろうともオレたちは『娘(トリッシュ)』を手に入れるんだね…兄貴。オレたちはもう、あとには戻れないんだねッ！ わかったよ、プロシュート兄ィ!! 兄貴の覚悟が！ 『言葉』でなく『心』で理解できた！ ブッ殺すって決めた時は兄貴ッ！」
乗客 「う、あう、ああ」
ペッシ 「すでに行動は終わっているんだね。（倒れている乗客の首を踏んで折る）フゥゥ――…、初めて…人をやっちまったァ…♪ でも想像してたよりなんて事はないな。そしてオレに向かって『マンモーニ(ママッ子)』だなんて言えるヤツは、もう、これで誰ひとりいねーからな…。感じとってやるぜ!! 何をしようとしているのか…ブチャラティ。全て、動きは読んでやる！ そして兄貴が死ぬ前に（グレイトフル・デッドの能力が消える前に）!! おまえとのカタはつけてやるッ！ おまえさえ倒せば娘が手に入る状況にかわりはねえ！ 『針』は左手甲部から体の中へ侵入し手首を通過した…。『前腕部突入！』肘までの距離あと11センチ…10センチ！ また『針』が外に出た…!! 『ジッパー』で切開したな！ 前腕部内側から再突入！ 肘までの距離あと４センチ!! ３センチ!! 『針』を瞬間、腕の外に取り出したところで、絶対におまえの体を見失うものか…ブチャラティ！ ビーチ・ボーイの『針』は腕を登っていき、心臓に食らいつくだけだ！ そして『娘(トリッシュ)』をゲットしてプロシュート兄ィの意志はオイラがとげるッ！ 肘まで２センチ！ １センチ！ 肘(チュウ)部通過ッ！ 『針』がおまえの心臓に食い込むのを待つ前に…もうひとつおまえを始末するやり方があったよ…！ 兄貴と同じ苦しみを味わうんだなあ――ッ。（力まかせに振りまわす）オオ!? 屋根の何かにつかまったな…そうか…ブチャラティめ『力』をこめて、必至に下に落ちないようにつかまっているってわけだな…。それじゃあ『上』へ行くんだなあ――ッ。ブッた切られろ！ ム！ …。衝撃はあった！ …だが電線にブッた切られたわけではない…かといって落ちたわけでもない…。『糸』に脈拍を感じる！ まだ無事だ…ブチャラティは…。ヤツのいる場所は…『入った』な…。何をやったのかはわからんが…さすが兄貴を突き落としただけの事はある。列車内部に入り込んだな！ 地面にたたきつけて兄貴と同じ苦しみは味わわせる事はできなくなったが…『針』は今、上腕骨関節下部を通過し胴体突入！ 心臓までの距離あと13センチ!! 12センチ。11センチ。また切開したな。何度『針』を取り出そうとしても、無駄だって事がまだわか…、ム!? !? !?（不穏な気配）せ…切断して『針』をまた外に出したのは、たしかだ。だ…だが…し…心臓の位置が…!?!? な…なにをしたんだ!? どこだ？ ヤツの心臓は…!? い…いや…見失うはずがないっ！ …ブ、ブチャラティの『体』を見失うはずがないッ！ なんで『脈の動き』がいきなり消えたんだ…『呼吸の振動』をなんで感じねえんだよォ…？ ちくしょう！ なんでヤツの気配を見失ったんだ…!? ブチャラティは『ジッパー』で壁や床を開ければどこへでもいける！ ひょっとして、ど…どっかからここに向かって来ているのか？ いや…待て…落ちつけ…。ヤツが一瞬のうちに、そんな素早い事をできるはずがねえ！ 落ちつくんだ！ 疑心暗鬼は心の弱さだ！プロシュート兄貴ならきっとそう言ってくれる！ 『自信を持て！ペッシ、おまえなら、動く列車内だろうと絶対にヤツの心臓の鼓動を感じて探し出せるはずだ』ってな！ ブチャラティ！ 何をやったのかはわからねーが…、絶対まだ『針』の近くにいるはずなんだあ――ッ。…『心臓の鼓動』だ、脈の流れ…。だがこいつはブチャラティではない…『体重』がさっきと違う。乗客か…。ムッ！ く…くそっ！ な…ないぞッ！ この部屋にはもう『動くものは』何も感じないぞッ！ や…やっぱりヤツは『ジッパー』でどこかへ移動しちまったのかッ！ 何をやったんだァ――ッ!? ヤツはいったいどこだァアァアアアアアアア――ッ!! はッ!! ま、まさか！ ブチャラティの野郎…!? 外の『プロシュート兄ィ』の命のトドメを完全に刺そうとして、兄貴の所に向かっているんじゃあ…!?!? あ…兄貴の『老化』の能力を止めれば、亀の中の仲間が復活して出てくる…。ちくしょお〜、ちくしょおお〜。そおおおはさせるものかァアアアアアァッ。兄貴のところに行かせたりするものかッ!! きさまなんかに兄貴の命のトドメを!! 刺させたりするものかァ――ッ。このクソ列車！ 止まれェ――ッ」（列車を止め、下車して駆け寄る）兄貴イイイイイイイイ。はっ!! …」
ブチャラティ （列車の壁のジッパーから車外に出てくる）「何よりも『困難』で…『運』なくしては近づけない道のりだった…おまえに近づくという道のりがな…。ムッ！ …」
ペッシ 「…」（見えないほど素速い攻撃）
�癸� 「ド…ドウカシタノカ!? 今ノハ!?」
ペッシ 「なぜ、さっきおまえの心臓の動きを見失ったのか…わからねーが…、全ては、オレがオメーに兄貴への償いをさせる事で、オレたちの任務は終了するッ！ 『スティッキィ・フィンガーズ』。老化しているわりにはさすが接近戦はお得意の『スタンド』。今の攻撃、よく見切れたな…」
プロシュート 「栄光は…おまえに…ある…ぞ…」
�癸� 「!!」
プロシュート 「やれ…やるんだ…ペッシ。オレは…おまえを、見守って…いるぜ…」
�癸� 「い…『意識』ヲ取リ戻シテイル…。有利と言ッタケド！ ヤッ、ヤバインジャネーカッ！ …コイツ死ぬ前ニ『老化の力』ヲふりしぼるゾッ！ ソシテ、アノ『釣リ竿』のスピード…。ブチャラティ、ふ…不利かもッ！」
ペッシ 「兄貴が逝っちまう前に兄貴の目の前でよオオオオ――、償いは、させるぜェェェェ――ッ」
�癸� 「見切ッテくれェ――ブチャラティイイイイイイイイイイ。（だがブチャラティは正面から突っ込んで行った！）ナニィ〜!! カワサないデ針ニ突ッ込ンダッ！」
ペッシ 「…!! 思ってたぜ…突っ込んで来るってな…」
�癸� 「ナンダッテェェエエエエエエエ――ッ」
ペッシ 「腕を登って心臓まで行くなんて『やり方』は…『はずすかも』って、今まで自信がなかった時だけやってた安全策だ！ 必ずやるって決めた時は『直線』だッ！ 今のオレは、何が何でも『直線』で突っ切るのよッ！ 心臓に食らいついたッ！」
×
ストップ・モーション――。回想のように――、
ブチャラティ 「こいつのこの『面がまえ』…。さっき、運転室で見た時、こんな『目』をしている男ではなかった…。まるで『10年』も修羅場をくぐり抜けて来たような…スゴ味と…冷静さを…感じる目だ…。たったの数分で、こんなにも変わるものか…。こいつには小細工は通用しねェ」
さらに遠く――、
プロシュート 「『成長』しろ！ ペッシ。『成長』しなきゃあオレたちは『栄光』をつかめねえ。『自信を持て』…。おまえの『ビーチ・ボーイ』はその気になりゃあ、何者にも負けねー能力じゃあねーか？」
To be continued
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