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2015年06月22日13:16
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016 かってにしやがれ 2/
ウィル 何だその変なお面。
かやほ 失敬な、お面じゃなくて覆面といってくれ。
ウィル 何でもいいけど何者だ。
かやほ アホだな君は。
ウィル 何をっ。
かやほ 何者か分かるくらいなら覆面はしない。正体をかくすためにしてるんだ。
ウィル そりゃそだね。
かやほ では名乗ろう。
ウィル （ずっこけて）名乗んのかよ。
かやほ ある時は覆面のカエル、ある時は覆面してないカエル。ある時はどっちでもなくてのんびり昼寝してるカエルだ。
ウィル 分かるようで分からないな。
かやほ しかしてその通称は、白浪二十面相っ（ポーズ）
シーン。――
ウィル …はあ。――それで？
たでほ （くじけず、助けに入って）少〜ぉ年、君ィ、何か悩んでるねぇ〜？
ウィル （ドキ）ドキ。
たでほ それはドジョウの悩みだね。
ウィル は？
かやほ いや、メダカの悩みだろう。
ウィル え？
たでほ いやいやウナギの悩みじゃない？
ウィル ちょっと…
かやほ いやいやフナの悩みだろう。
ウィル あのね…
たでほ いやいやザリガニの悩みじゃん？
ウィル （割りこんで）コイの悩みです！
かやたで やっぱり恋かっ。
ウィル うわ、恥ずかしっ。
かやほ で？ 誰に惚れてるんだね？ ああん？（尋問）
ウィル それがその、「か」のつく人でして。
かやほ カメヤマか。
カメヤマ え、あたし？（と、どこかから出てきてすぐ誰かに連れさられる）
ウィル 違います。「や」もつくんです。
かやほ （考えるが、やっぱり）…カメヤマ。
カメヤマ だからあたしかっつーんだよ…っとオイオイ…（また連れさられる）
ウィル 違うんです。「ほ」もつくんです。
かやほ 「か」と「や」と「ほ」（考える）――あたしだよオイ（慌てて）ちょっ、ちょっとタンマ（たでほ連れて隅へ行く）…ね、あたしだって！
たでほ 分かってるよ。
かやほ 分かってないよお。
たでほ （驚いて）えっ、分かってなかったの?!
かやほ ああ、ビックリしたぁ…（胸バクバク）
たでほ （あきれて）ニブイやっちゃなぁ〜！
かやほ どうしようたでちゃん。
たでほ どうもこうも、コクっちまえ。
かやほ （わりにサッパリと）ウン分かった（さっさと行こうと…）
たでほ ちょい待ち。いいこと考えた（ヒソヒソヒソ）…ね？
かやほ （ハタとひざ打ち）おお、ナイスアイディーア！（ウィルのところに戻って）おい少年、こら少年。おいっ。
ウィル かやほかやほかやほかやほかやほ…（とかいっていたが）はあ。
かやほ 君、恋なんてつまらんことは、やめといたがいいぞ。
ウィル そうでしょうか。でも、ここらへん（胸のへん）が、苦しいんです。
かやほ 胸やけだろ。寝てりゃ治るさ。
ウィル この病だけは、治りそうもない。
かやほ しょうがねえなあ、どれ、熱を診せてごらん…ひざに寝て。ホラここ（ひとり）きゃ、さわっちゃった。
たでほ （ずっこける）
ウィル はい？
かやほ （ごまかして）ウォホン、何でもない。なるほど大分ノボセてるね。
たでほ （あきれて）どっちがだよ。
かやほ ま、寝て治しちまうんだね。
ウィル 無理ですよお。
かやほ ただのハシカだよ。
ウィル じゃなくて、好きな人がいるんだ。
かやほ だからそれがハシカだって。あしたになったら忘れてらあ。
ウィル んなこたぁない。苦しくて死にそうだもん。
かやほ ハシカの人は、みんなそういう。んで、次の日にゃケロッとしてんだ。
ウィル 僕は違う。本気だもん。
かやほ どうだか。
ウィル ほんとです！ てか、何でそうからむんです。てか、あんた誰？
かやほ シラナミ…
ウィル 二十面相。それは聞きました。
かやほ （ちょっとかっこよく）羊飼いだよ。
ウィル 羊飼い…！
かやほ そう。
ウィル カエルなのに？
かやほ そう。
ウィル だって、ヒツジがいないじゃん。
かやほ 見えないかい？ ほら、あそこ（と、空を指す）
ウィル （驚いて）――ひつじぐも…！
高みに、いつの間にか手下がいて語る。
手下 それがあっしらの仕事なんでやんす。いつの頃からか…ずっと前から、雲の手綱を取っては、あっちの空からこっちの空へ、送ってやったり、引きもどしたり。そうしてひろ野に雨を降らせたり、林にしぐれを通らせたり。ケロケロ、ケロケロ、あっしらの歌は、雲のヒツジの子守唄なんでやんす。――
地べたでは、まだ、ひざ枕。
かやほ そんな俺たちに惚れたって無理ってもんさ、なぁ人間の君。
ウィル だって、好きなものは好きなんだ。――ねえ、君は不思議な人だね。
かやほ （あまりにもドキドキして、ウィルをひざから放りだす）何いってんだ。じゃあ、こうしよう。君、ぼくをそのプヤホだかペヤホだかのつもりで、
ウィル か・や・ほ。
かやほ 口説きたまえ。
ウィル え！
かやほ できねーの？ なぁんだ、不実な野郎だなぁ。
ウィル だって、あんたじゃ代わりにならないよ。
かやほ （ちょっとムッとして）練習くらい、いいだろ？
ウィル ええー…恥ずかしいよ、やっぱ。
かやほ 振られるな（ボソリ）
ウィル え。
かやほ （たでほに）な。
たでほ うん（コックリ）
ウィル （不安になって）振られるかな…？
かやほ 間違いない。な。
たでほ うん（コックリ。以下同じ）
ウィル どどどうすれば。
かやほ 知ったこっちゃねえよ。な。
たでほ うん。
かやほ もーう、帰ろうか。
たでほ うん。
かやほ （ウィルに）じゃ、まあしっかり振られたまえ。失敬。
たでほ うん。
ウィル （激しく不安になって）ちょっと待った。やるやる（すがる）
かやほ （振りはらいつつ）何をだよお、いいよお。
たでほ うん。
ウィル やります。
かやほ もう、いいもーん。
たでほ うん。
ウィル やらせてください。
かやほ 力になれなくて済みませんでしたぁ〜（ふてくされて、素早く行っちゃう）
ウィル あーあ、ひねちゃった…。
たでほ うん。
ウィル うんうんいってないで、あんたも何とかいってよ。
たでほ うん？…そうだね、つまり…もう、始まってんだ。
ウィル え？
たでほ ほんとの彼女は、あれよりもっとつれないかもしれないよ？
ウィル （ハッとし）あ、そうか…そうだよねぇ（決意し）ようし、練習だ。口説きゃいいんだろ。ちょいと、かやほさん、ニセのかやちゃ〜ん…！
と追いかけようとすると、下りてきていた手下にぶっつかる。この手下がなぜかまた、覆面を被っていた。
ウィル （疑わしく）――かやちゃん…？？
手下 （ブキミなつくろい声で）な〜あに、ウィルヘルム？ んまあ、会えてうれしいわ、オーッホッホッホ。ねーえ、あっちで、二人っきりで、デートしましょ、早く早くう。オーッホッホッホ。
ウィル …なんか、ヘンくないか、これぇ？（引っぱられていく）
たでほ （ひとり）やれやれ。さてこの先、どうなりますか。お楽しみに。
全員、去る。
間狂言 ローゼンクランツとギルデンスターンは…
舞台真ん中に帽子がひとつ落ちている。両側からひとりずつ、帽子かぶった仮面ガエルがのろのろ後ずさりしてきて、真ん中でお尻がぶっつかる。
ふたり （すっ飛んで）うひゃあ！ だだだ誰だ。
Ａ …あ！
Ｂ 何だよ。
Ａ 変な顔（断定）
Ｂ そっちこそ。誰だお前。
Ａ お前こそ誰だ。
Ｂ 俺が訊いてんだよ。
Ａ 俺だって訊いてるさ。
Ｂ 何だコンニャロ。
Ａ コンニャロって何だコンニャク。
Ｂ コンニャク?! 生意気な奴だな。
Ａ そっちこそ生意気だい。
Ｂ ムーーッッ。
Ａ ヌーーッッ。（にらめっこ）
Ｂ やめよう。顔が見えないや。
Ａ んだね。お前はあれか、もしかして★◎＊▲×○◆※▽か？
Ｂ なに？
Ａ だからぁ、★◎＊▲×○◆※▽かって。
Ｂ たぶん違うね。だって俺は仝ЩゑΔ�鵝堯�穎％♪なんだから。
Ａ なに？
Ｂ だからぁ、仝ЩゑΔ�鵝堯�穎％♪だってば。
Ａ わっかんねえなあ。
Ｂ お互いさまだね。でも、確かなことがひとつある。
Ａ そりゃ何だい。
Ｂ その帽子、なかなか似合ってるよ。
Ａ そう？ えへへ。君こそよく似合ってるよ。
Ｂ そうかな。へへへ。じゃ、くれ。
Ａ くれ？
Ｂ その帽子くれ。
Ａ （いやがって）いま、似合うっていったばっか！
Ｂ だが俺にはもっとよく似合う。だからちょうだい。
Ａ べー。やなこった。
Ｂ じゃ、いやでももらうもんね。
Ａ 暴力反対。あ。
Ｂ どうした？
Ａ 帽子が落ちてる。
Ｂ ほんとだ。
Ａ （拾って）こりゃ、なかなかいいね。（と自分の帽子を脱いで落ちてた帽子をかぶり、自分のをＢに差しだす）ほら。
Ｂ え？
Ａ ちょっと持ってて。
ＢはＡの帽子を受けとる。Ａは落ちてた帽子をうまくかぶってみる。Ｂは自分の帽子のかわりにＡの帽子をかぶり、自分のをＡに差しだす。Ａはそれを受けとる。ＢはＡの帽子をうまくかぶってみる。Ａは落ちてた帽子のかわりにＢのをかぶり、落ちてたのをＢに差しだす。Ｂ、その帽子を受けとる。Ａ、Ｂの帽子をうまくかぶってみる。Ｂ、Ａの帽子のかわりに落ちてたのをかぶり、ＡのをＡに差しだす。Ａ、自分の帽子を受けとる。Ｂ、落ちてた帽子をうまくかぶってみる。Ａ、Ｂの帽子のかわりに自分のをかぶり、ＢのをＢに差しだす。Ｂ、自分の帽子を受けとる。Ａ、自分の帽子をうまくかぶってみる。Ｂ、落ちてた帽子のかわりに自分のをかぶり、落ちてたのをＡに差しだす。Ａ、落ちてた帽子を受けとる。Ｂ、自分の帽子をうまくかぶってみる。Ａ、自分の帽子のかわりに落ちてたのをかぶり、自分のをＢに差しだす。Ｂ、Ａの帽子を受けとる。Ａ、落ちてた帽子をうまくかぶってみる。Ｂ、Ａの帽子をＡに差しだし、Ａ、それを受けとってすぐＢに差しだし、Ｂ、それを受けとってすぐＡに差しだし、Ａ、それを受けとって投げ捨てる。
Ｂ （ゼエゼエ）もうやめよう。
Ａ （ゼエゼエ）賛成。
Ｂ サンセイのハンタイ。
Ａ ねえ、俺たち、似てるねえ。
Ｂ そうだね。どこで会ったろう。
Ａ どこだろうねえ、思いだせないなあ。
Ｂ 忘れようとしても思いだせない。
Ａ あっそうだ、「山」。
Ｂ ム、合い言葉か、んじゃ――「川」…いや…「カワハギ」。
Ａ 違うっ、そんなんじゃない。
Ｂ じゃ、ウマヅラハギ。
Ａ もっと違う。
Ｂ 分かった。じゃあ、こういうのはどうだ？「生きるべきか、死ぬべきか」。
Ａ 「それが問題だ」――やっぱりお前か。
Ｂ ローゼンクランツ兄さん！（抱きあった）
ローゼン （固く握手して）ギルデンスターン。暫くだった。
ギルデン 兄さんこそ。
ローゼン いりオヤビンの様子はどうだい。
ギルデン 相変わらずのきまぐれさ。そっちは。
ローゼン 毎日カレーばっかりさ。うぷ（思いだしゲップ）
ギルデン そうだ兄さん、手紙があるんだ。
ローゼン オヤビンから？
ギルデン うん。必ず書いてあるとおりにしろって。（渡す）
ローゼン どれどれ。（読む。突然――）バキイッ（ぶっ飛ばす）
ギルデン ブシイッ（殴られる音）いでで、何すんだ兄さんっ。
ローゼン だって書いてあるんだもん。「この手紙を持ってきた者をぶっ飛ばせ」。
ギルデン ひでえやオヤビン。
ローゼン そういや、俺も手紙を持ってるんだ（出す）
ギルデン へっへっへ。ハアーッ（もうぶっ飛ばすつもり）
ローゼン よせ。そういう用件じゃない。
ギルデン 分かるもんか、どれ（読む。驚いて）――うおっ。こりゃ…帰って早く知らせなきゃ。
ローゼン まあ、いりオヤビンだってもう、分かってるとは思うが、一応ね。
ギルデン そうかな。
ローゼン そうさ。だって、んじゃなきゃお前、何でわざわざ覆面してんだよ。
ギルデン そうか。
ローゼン そうさ。
ギルデン 面白くなるね。
ローゼン そうさ！ じゃあ、また。
ギルデン また会おう兄さん、チャーオ！
ローゼン アイラーヴュー！
ギルデン （ずっこける）
ふたり、別れて退場。
第二場 すっ飛んでカエル
口説き稽古中のふたり。覆面の方はもはや誰だか分からない。誰だ？
ウィル ね、かやちゃん。あの雲をごらん。
覆面 （やる気なく）雲ねえ、はいはい。
ウィル まるでラクダみたいじゃない？
覆面 そうね、はいはい。
ウィル ていうか、イタチみたいかな。
覆面 イタチかもね。
ウィル ていうかていうか、クジラみたいな形だぞお？（と、一生懸命）
覆面 ふぁ〜ぁ（アクビ）
ウィル かやちゃん？
覆面 あ？ ごーめんごめん。
ウィル なんか、やる気ないねえ。
覆面 んなことないよ。やる気ないのは、あ・ん・た。
ウィル 僕？ そんなことないしょ。
覆面 だって、なーんか退屈なんだよねー。それで口説いてるつもりなの？
ウィル はい、精一杯やっております（と、まじめ）
覆面 分かってないなあ。精一杯なんてやんなくていいよ。
ウィル え？
覆面 普通にしてればいいの。
ウィル そうなの？
覆面 だってさ、「ありのままのあなた」と「嘘ばっかりついてるあなた」――どっちが好かれると思う？
ウィル そうか…（が、思いなおし）でも「精一杯」は「嘘」とは違うぞ。
覆面 おんなじよお。頑張りすぎは体に毒だよ。
ウィル そうかなぁ。
覆面 雲なら雲だっていいけどさ。でもあんた雲のことなんて知ってんの？
ウィル いや別段。
覆面 ほーら嘘じゃん。あたしなんかね、朝から晩まで空眺めてることもある。だからたいがい知ってるんだ、雲がどんな風にわいてきて、どんな風にふくらんで、どんな風にくずれて、風にちぎれて消えてくか。雲は空のヒツジだからさ、よーく眺めて気持ちまで分かって、そいでつきあっていくもんなんだ。
ウィル そうか…（ちょっと感心して）分かったよ、僕、頑張る。
覆面 （笑って）だぁから、頑張るなってば。
ウィル あ、そうか。…僕ってダメだなぁ。
覆面 自信持たなきゃ。楽〜にね、楽〜に。
ウィル うん。
ウィル、しばらく雲を見ている。その間に覆面、別の覆面と交替する。誰だ？？
ウィル ダメだ、どうしても頑張っちゃうよお…（悩む）
覆面 （突然）頑張れ！
ウィル うわっ（顔、見て）…あれ？
覆面 どうしたい。
ウィル いや、さっきといってることが…てか、えーと、どなたでしたっけ…？
覆面 わしゃあ、かやほじゃい（と広島弁）
ウィル かやほ！ なんか違くない？
覆面 さっきからここにおるじゃろがっ。
ウィル じゃろがって、そんなかやほがおるかいな。
覆面 ここにおるわあっ（何か怒ってる）
ウィル ガラッパチかやほだ…。
覆面 ブツクサぬかしとらんと兄ちゃん。
ウィル 兄ちゃん?!
覆面 早いとこちゃっちゃっと口説いてくれや。
ウィル 口説く！
覆面 んじゃその顔ァ、口説く稽古ちゃうんか。
ウィル そうですけど…。
覆面 じゃ、頑張れよ。
ウィル 頑張るの?! あれあれれ…？（分からなくなる）
覆面 早よせんかい、わしゃあ気が短いんじゃっ。
ウィル ワシャアって、ちょっと待ってよ。
覆面 惚れとったんじゃないんかワレっ（おどす）
ウィル 惚れてます、惚れてますから、元に戻って。
覆面 何ぃ？（静かに怒って）――おい兄ちゃん。ここに座れ。さっさと座らんかいっ（ばしばし）
ウィル ハイ、ハイ。
覆面 元に戻れいうたな。おんし、いっていいことと悪いことがあんで？ きさん、恋人を自分の思い通りに変えようちゅうんか。ありのままのわしに惚れとるんちゃうんか。恋人が思いのまんまになるんなら、相手なんか誰だってかめへんことになんで。どうなんじゃいオラっ。
ウィル いや、でも違いすぎるし…。
覆面 んだとコラあっ。
ウィル ごめんなさいっ（あたま抱える。そのまま、ひとりごと）ありのまま好きになる…相手を変えようとしちゃダメ…そりゃそうだよ…そりゃそうだけど…できるのかなあ…でも、大切なことだ…よし。ありのままの、君が好きです。
覆面 （いて）うれしい。
ウィル （驚いて）おわあっ。
また覆面、交替しているのである。だから誰なんだ？？？
覆面 どうしたのウィル。
ウィル いや…何でもない、何でもない。――「何いっとるんじゃワレぇ！」（と、やってみる。首ひねる）？？？？？？
覆面 え？（と、カワイク小首かしげる）何してんの。
ウィル いや何でも。――コホン、ありのままの君が、好きです。
覆面 ありがと。でも、よした方がいいよ。
ウィル どうして？
覆面 あたし、嘘つきだから。ほんとは不良だし。ありのままなんつって、裏で何やってるか分かんないよ？
ウィル そんなことないでしょ。
覆面 （突然凶暴に）あがり組のウラ番。
ウィル え。
覆面 （コケットに）ジャックナイフのかやほ。
ウィル えっ。
覆面 （凶暴）目にもとまらぬ往復ビンタ。
ウィル ええっ。
覆面 （コケット）背中には三〇センチの切り傷があっ。
ウィル えええっ。
覆面 ビビった？
ウィル かなり…。
覆面 嘘よ。
ウィル ウソ？（ホッとして）なぁんだモウ。ビックリさせるなあ。
覆面 それも嘘。
ウィル え。ナンダッテ？
覆面 どっちも嘘。
ウィル どっちも？（混乱して）…何か、分かんなくなってきた。
覆面 本当はね、悪い魔物につかまって、山奥のお城に閉じこめられてるの。そうして王子様が助けにきてくれるんだ。でもあたし、言葉がしゃべれないの。
ウィル しゃべれてんじゃん。
覆面 （聞いてない）魔王と王子様の戦いは、そりゃすごいもんだったわ。で、結局お父様が国の半分ずつあげることになって、ようやく喧嘩は終わったの。ふたりは幸せに暮らしましたとさ。
ウィル わけ分かんねー。
覆面 というわけで、じゃ、もう一度いって。
ウィル え。
覆面 ありのままの君が、好きですって（どことなくブキミである）
ウィル ああ。ありのままの君が――（悩んで）ちょっと、タンマ。
覆面 どしたの。
ウィル いやその、ありのままはちょっと…
覆面 （怒って）何よ…嘘つき！ もういいっ、わあーん。
泣きながら、駆けさる。
ウィル あっちょっと、かやちゃん、待ってーっ。
覆面 （いて）待ちましょう。
ウィル うわあっ。
また別のがいるのである。サトイモの雨傘さしている。だから誰（以下略）。
覆面 いかがなさいました？
ウィル 今度は何だ。
覆面 何だとは心外な。かやほでございます。
ウィル あきらかに違うだろ。
覆面 これはしたり。夏の川原にゆらゆら揺れるチガヤの穂、その優しい姿から名前をちょうだいいたしました。穂の先に眠っておられたカエルの長老ル・ボウ師がある時フト目を醒ましますと、空にひとかけのはぐれ雲が、夕暮れの日にきらりと光り、ボウ師、いたく感じいりまして、この世に生きるわが身の幸せをかみしめたと申します。そこで座しておりましたカヤの穂に感謝の祈りを捧げたところ、穂の先から小さな小さなカエルの子が一匹、ツイと現れたというのです。それが、わたくしの誕生でした。
ウィル ははあ、そうだったんですか。
別の覆面 （いて）そうなんです。
ウィル だあ！（驚く）
ふたりの覆面 それが私なのです。
ウィル 私っ、ふたりいんじゃん！
ふたりの覆面 私はふたりいるのです（と、平然という）
ウィル そんなはずあるかっ。
はじめの覆面 ていうか、
次の覆面 私は、
ふたり どこにでもいるのです。
はじめの覆面 なぜなら、
次の覆面 私は、
ふたり 白浪二十面相だから。
ウィル あ…（ひとり）そうだった、かやちゃんのフリだったっけ。――二十面相君、本当は君は、誰なんだ？
あとの方の覆面 よくぞ訊いてくれました。
と、白浪二十面相、覆面を取る。するとそれは――
3/→ http://
かやほ 失敬な、お面じゃなくて覆面といってくれ。
ウィル 何でもいいけど何者だ。
かやほ アホだな君は。
ウィル 何をっ。
かやほ 何者か分かるくらいなら覆面はしない。正体をかくすためにしてるんだ。
ウィル そりゃそだね。
かやほ では名乗ろう。
ウィル （ずっこけて）名乗んのかよ。
かやほ ある時は覆面のカエル、ある時は覆面してないカエル。ある時はどっちでもなくてのんびり昼寝してるカエルだ。
ウィル 分かるようで分からないな。
かやほ しかしてその通称は、白浪二十面相っ（ポーズ）
シーン。――
ウィル …はあ。――それで？
たでほ （くじけず、助けに入って）少〜ぉ年、君ィ、何か悩んでるねぇ〜？
ウィル （ドキ）ドキ。
たでほ それはドジョウの悩みだね。
ウィル は？
かやほ いや、メダカの悩みだろう。
ウィル え？
たでほ いやいやウナギの悩みじゃない？
ウィル ちょっと…
かやほ いやいやフナの悩みだろう。
ウィル あのね…
たでほ いやいやザリガニの悩みじゃん？
ウィル （割りこんで）コイの悩みです！
かやたで やっぱり恋かっ。
ウィル うわ、恥ずかしっ。
かやほ で？ 誰に惚れてるんだね？ ああん？（尋問）
ウィル それがその、「か」のつく人でして。
かやほ カメヤマか。
カメヤマ え、あたし？（と、どこかから出てきてすぐ誰かに連れさられる）
ウィル 違います。「や」もつくんです。
かやほ （考えるが、やっぱり）…カメヤマ。
カメヤマ だからあたしかっつーんだよ…っとオイオイ…（また連れさられる）
ウィル 違うんです。「ほ」もつくんです。
かやほ 「か」と「や」と「ほ」（考える）――あたしだよオイ（慌てて）ちょっ、ちょっとタンマ（たでほ連れて隅へ行く）…ね、あたしだって！
たでほ 分かってるよ。
かやほ 分かってないよお。
たでほ （驚いて）えっ、分かってなかったの?!
かやほ ああ、ビックリしたぁ…（胸バクバク）
たでほ （あきれて）ニブイやっちゃなぁ〜！
かやほ どうしようたでちゃん。
たでほ どうもこうも、コクっちまえ。
かやほ （わりにサッパリと）ウン分かった（さっさと行こうと…）
たでほ ちょい待ち。いいこと考えた（ヒソヒソヒソ）…ね？
かやほ （ハタとひざ打ち）おお、ナイスアイディーア！（ウィルのところに戻って）おい少年、こら少年。おいっ。
ウィル かやほかやほかやほかやほかやほ…（とかいっていたが）はあ。
かやほ 君、恋なんてつまらんことは、やめといたがいいぞ。
ウィル そうでしょうか。でも、ここらへん（胸のへん）が、苦しいんです。
かやほ 胸やけだろ。寝てりゃ治るさ。
ウィル この病だけは、治りそうもない。
かやほ しょうがねえなあ、どれ、熱を診せてごらん…ひざに寝て。ホラここ（ひとり）きゃ、さわっちゃった。
たでほ （ずっこける）
ウィル はい？
かやほ （ごまかして）ウォホン、何でもない。なるほど大分ノボセてるね。
たでほ （あきれて）どっちがだよ。
かやほ ま、寝て治しちまうんだね。
ウィル 無理ですよお。
かやほ ただのハシカだよ。
ウィル じゃなくて、好きな人がいるんだ。
かやほ だからそれがハシカだって。あしたになったら忘れてらあ。
ウィル んなこたぁない。苦しくて死にそうだもん。
かやほ ハシカの人は、みんなそういう。んで、次の日にゃケロッとしてんだ。
ウィル 僕は違う。本気だもん。
かやほ どうだか。
ウィル ほんとです！ てか、何でそうからむんです。てか、あんた誰？
かやほ シラナミ…
ウィル 二十面相。それは聞きました。
かやほ （ちょっとかっこよく）羊飼いだよ。
ウィル 羊飼い…！
かやほ そう。
ウィル カエルなのに？
かやほ そう。
ウィル だって、ヒツジがいないじゃん。
かやほ 見えないかい？ ほら、あそこ（と、空を指す）
ウィル （驚いて）――ひつじぐも…！
高みに、いつの間にか手下がいて語る。
手下 それがあっしらの仕事なんでやんす。いつの頃からか…ずっと前から、雲の手綱を取っては、あっちの空からこっちの空へ、送ってやったり、引きもどしたり。そうしてひろ野に雨を降らせたり、林にしぐれを通らせたり。ケロケロ、ケロケロ、あっしらの歌は、雲のヒツジの子守唄なんでやんす。――
地べたでは、まだ、ひざ枕。
かやほ そんな俺たちに惚れたって無理ってもんさ、なぁ人間の君。
ウィル だって、好きなものは好きなんだ。――ねえ、君は不思議な人だね。
かやほ （あまりにもドキドキして、ウィルをひざから放りだす）何いってんだ。じゃあ、こうしよう。君、ぼくをそのプヤホだかペヤホだかのつもりで、
ウィル か・や・ほ。
かやほ 口説きたまえ。
ウィル え！
かやほ できねーの？ なぁんだ、不実な野郎だなぁ。
ウィル だって、あんたじゃ代わりにならないよ。
かやほ （ちょっとムッとして）練習くらい、いいだろ？
ウィル ええー…恥ずかしいよ、やっぱ。
かやほ 振られるな（ボソリ）
ウィル え。
かやほ （たでほに）な。
たでほ うん（コックリ）
ウィル （不安になって）振られるかな…？
かやほ 間違いない。な。
たでほ うん（コックリ。以下同じ）
ウィル どどどうすれば。
かやほ 知ったこっちゃねえよ。な。
たでほ うん。
かやほ もーう、帰ろうか。
たでほ うん。
かやほ （ウィルに）じゃ、まあしっかり振られたまえ。失敬。
たでほ うん。
ウィル （激しく不安になって）ちょっと待った。やるやる（すがる）
かやほ （振りはらいつつ）何をだよお、いいよお。
たでほ うん。
ウィル やります。
かやほ もう、いいもーん。
たでほ うん。
ウィル やらせてください。
かやほ 力になれなくて済みませんでしたぁ〜（ふてくされて、素早く行っちゃう）
ウィル あーあ、ひねちゃった…。
たでほ うん。
ウィル うんうんいってないで、あんたも何とかいってよ。
たでほ うん？…そうだね、つまり…もう、始まってんだ。
ウィル え？
たでほ ほんとの彼女は、あれよりもっとつれないかもしれないよ？
ウィル （ハッとし）あ、そうか…そうだよねぇ（決意し）ようし、練習だ。口説きゃいいんだろ。ちょいと、かやほさん、ニセのかやちゃ〜ん…！
と追いかけようとすると、下りてきていた手下にぶっつかる。この手下がなぜかまた、覆面を被っていた。
ウィル （疑わしく）――かやちゃん…？？
手下 （ブキミなつくろい声で）な〜あに、ウィルヘルム？ んまあ、会えてうれしいわ、オーッホッホッホ。ねーえ、あっちで、二人っきりで、デートしましょ、早く早くう。オーッホッホッホ。
ウィル …なんか、ヘンくないか、これぇ？（引っぱられていく）
たでほ （ひとり）やれやれ。さてこの先、どうなりますか。お楽しみに。
全員、去る。
間狂言 ローゼンクランツとギルデンスターンは…
舞台真ん中に帽子がひとつ落ちている。両側からひとりずつ、帽子かぶった仮面ガエルがのろのろ後ずさりしてきて、真ん中でお尻がぶっつかる。
ふたり （すっ飛んで）うひゃあ！ だだだ誰だ。
Ａ …あ！
Ｂ 何だよ。
Ａ 変な顔（断定）
Ｂ そっちこそ。誰だお前。
Ａ お前こそ誰だ。
Ｂ 俺が訊いてんだよ。
Ａ 俺だって訊いてるさ。
Ｂ 何だコンニャロ。
Ａ コンニャロって何だコンニャク。
Ｂ コンニャク?! 生意気な奴だな。
Ａ そっちこそ生意気だい。
Ｂ ムーーッッ。
Ａ ヌーーッッ。（にらめっこ）
Ｂ やめよう。顔が見えないや。
Ａ んだね。お前はあれか、もしかして★◎＊▲×○◆※▽か？
Ｂ なに？
Ａ だからぁ、★◎＊▲×○◆※▽かって。
Ｂ たぶん違うね。だって俺は仝ЩゑΔ�鵝堯�穎％♪なんだから。
Ａ なに？
Ｂ だからぁ、仝ЩゑΔ�鵝堯�穎％♪だってば。
Ａ わっかんねえなあ。
Ｂ お互いさまだね。でも、確かなことがひとつある。
Ａ そりゃ何だい。
Ｂ その帽子、なかなか似合ってるよ。
Ａ そう？ えへへ。君こそよく似合ってるよ。
Ｂ そうかな。へへへ。じゃ、くれ。
Ａ くれ？
Ｂ その帽子くれ。
Ａ （いやがって）いま、似合うっていったばっか！
Ｂ だが俺にはもっとよく似合う。だからちょうだい。
Ａ べー。やなこった。
Ｂ じゃ、いやでももらうもんね。
Ａ 暴力反対。あ。
Ｂ どうした？
Ａ 帽子が落ちてる。
Ｂ ほんとだ。
Ａ （拾って）こりゃ、なかなかいいね。（と自分の帽子を脱いで落ちてた帽子をかぶり、自分のをＢに差しだす）ほら。
Ｂ え？
Ａ ちょっと持ってて。
ＢはＡの帽子を受けとる。Ａは落ちてた帽子をうまくかぶってみる。Ｂは自分の帽子のかわりにＡの帽子をかぶり、自分のをＡに差しだす。Ａはそれを受けとる。ＢはＡの帽子をうまくかぶってみる。Ａは落ちてた帽子のかわりにＢのをかぶり、落ちてたのをＢに差しだす。Ｂ、その帽子を受けとる。Ａ、Ｂの帽子をうまくかぶってみる。Ｂ、Ａの帽子のかわりに落ちてたのをかぶり、ＡのをＡに差しだす。Ａ、自分の帽子を受けとる。Ｂ、落ちてた帽子をうまくかぶってみる。Ａ、Ｂの帽子のかわりに自分のをかぶり、ＢのをＢに差しだす。Ｂ、自分の帽子を受けとる。Ａ、自分の帽子をうまくかぶってみる。Ｂ、落ちてた帽子のかわりに自分のをかぶり、落ちてたのをＡに差しだす。Ａ、落ちてた帽子を受けとる。Ｂ、自分の帽子をうまくかぶってみる。Ａ、自分の帽子のかわりに落ちてたのをかぶり、自分のをＢに差しだす。Ｂ、Ａの帽子を受けとる。Ａ、落ちてた帽子をうまくかぶってみる。Ｂ、Ａの帽子をＡに差しだし、Ａ、それを受けとってすぐＢに差しだし、Ｂ、それを受けとってすぐＡに差しだし、Ａ、それを受けとって投げ捨てる。
Ｂ （ゼエゼエ）もうやめよう。
Ａ （ゼエゼエ）賛成。
Ｂ サンセイのハンタイ。
Ａ ねえ、俺たち、似てるねえ。
Ｂ そうだね。どこで会ったろう。
Ａ どこだろうねえ、思いだせないなあ。
Ｂ 忘れようとしても思いだせない。
Ａ あっそうだ、「山」。
Ｂ ム、合い言葉か、んじゃ――「川」…いや…「カワハギ」。
Ａ 違うっ、そんなんじゃない。
Ｂ じゃ、ウマヅラハギ。
Ａ もっと違う。
Ｂ 分かった。じゃあ、こういうのはどうだ？「生きるべきか、死ぬべきか」。
Ａ 「それが問題だ」――やっぱりお前か。
Ｂ ローゼンクランツ兄さん！（抱きあった）
ローゼン （固く握手して）ギルデンスターン。暫くだった。
ギルデン 兄さんこそ。
ローゼン いりオヤビンの様子はどうだい。
ギルデン 相変わらずのきまぐれさ。そっちは。
ローゼン 毎日カレーばっかりさ。うぷ（思いだしゲップ）
ギルデン そうだ兄さん、手紙があるんだ。
ローゼン オヤビンから？
ギルデン うん。必ず書いてあるとおりにしろって。（渡す）
ローゼン どれどれ。（読む。突然――）バキイッ（ぶっ飛ばす）
ギルデン ブシイッ（殴られる音）いでで、何すんだ兄さんっ。
ローゼン だって書いてあるんだもん。「この手紙を持ってきた者をぶっ飛ばせ」。
ギルデン ひでえやオヤビン。
ローゼン そういや、俺も手紙を持ってるんだ（出す）
ギルデン へっへっへ。ハアーッ（もうぶっ飛ばすつもり）
ローゼン よせ。そういう用件じゃない。
ギルデン 分かるもんか、どれ（読む。驚いて）――うおっ。こりゃ…帰って早く知らせなきゃ。
ローゼン まあ、いりオヤビンだってもう、分かってるとは思うが、一応ね。
ギルデン そうかな。
ローゼン そうさ。だって、んじゃなきゃお前、何でわざわざ覆面してんだよ。
ギルデン そうか。
ローゼン そうさ。
ギルデン 面白くなるね。
ローゼン そうさ！ じゃあ、また。
ギルデン また会おう兄さん、チャーオ！
ローゼン アイラーヴュー！
ギルデン （ずっこける）
ふたり、別れて退場。
第二場 すっ飛んでカエル
口説き稽古中のふたり。覆面の方はもはや誰だか分からない。誰だ？
ウィル ね、かやちゃん。あの雲をごらん。
覆面 （やる気なく）雲ねえ、はいはい。
ウィル まるでラクダみたいじゃない？
覆面 そうね、はいはい。
ウィル ていうか、イタチみたいかな。
覆面 イタチかもね。
ウィル ていうかていうか、クジラみたいな形だぞお？（と、一生懸命）
覆面 ふぁ〜ぁ（アクビ）
ウィル かやちゃん？
覆面 あ？ ごーめんごめん。
ウィル なんか、やる気ないねえ。
覆面 んなことないよ。やる気ないのは、あ・ん・た。
ウィル 僕？ そんなことないしょ。
覆面 だって、なーんか退屈なんだよねー。それで口説いてるつもりなの？
ウィル はい、精一杯やっております（と、まじめ）
覆面 分かってないなあ。精一杯なんてやんなくていいよ。
ウィル え？
覆面 普通にしてればいいの。
ウィル そうなの？
覆面 だってさ、「ありのままのあなた」と「嘘ばっかりついてるあなた」――どっちが好かれると思う？
ウィル そうか…（が、思いなおし）でも「精一杯」は「嘘」とは違うぞ。
覆面 おんなじよお。頑張りすぎは体に毒だよ。
ウィル そうかなぁ。
覆面 雲なら雲だっていいけどさ。でもあんた雲のことなんて知ってんの？
ウィル いや別段。
覆面 ほーら嘘じゃん。あたしなんかね、朝から晩まで空眺めてることもある。だからたいがい知ってるんだ、雲がどんな風にわいてきて、どんな風にふくらんで、どんな風にくずれて、風にちぎれて消えてくか。雲は空のヒツジだからさ、よーく眺めて気持ちまで分かって、そいでつきあっていくもんなんだ。
ウィル そうか…（ちょっと感心して）分かったよ、僕、頑張る。
覆面 （笑って）だぁから、頑張るなってば。
ウィル あ、そうか。…僕ってダメだなぁ。
覆面 自信持たなきゃ。楽〜にね、楽〜に。
ウィル うん。
ウィル、しばらく雲を見ている。その間に覆面、別の覆面と交替する。誰だ？？
ウィル ダメだ、どうしても頑張っちゃうよお…（悩む）
覆面 （突然）頑張れ！
ウィル うわっ（顔、見て）…あれ？
覆面 どうしたい。
ウィル いや、さっきといってることが…てか、えーと、どなたでしたっけ…？
覆面 わしゃあ、かやほじゃい（と広島弁）
ウィル かやほ！ なんか違くない？
覆面 さっきからここにおるじゃろがっ。
ウィル じゃろがって、そんなかやほがおるかいな。
覆面 ここにおるわあっ（何か怒ってる）
ウィル ガラッパチかやほだ…。
覆面 ブツクサぬかしとらんと兄ちゃん。
ウィル 兄ちゃん?!
覆面 早いとこちゃっちゃっと口説いてくれや。
ウィル 口説く！
覆面 んじゃその顔ァ、口説く稽古ちゃうんか。
ウィル そうですけど…。
覆面 じゃ、頑張れよ。
ウィル 頑張るの?! あれあれれ…？（分からなくなる）
覆面 早よせんかい、わしゃあ気が短いんじゃっ。
ウィル ワシャアって、ちょっと待ってよ。
覆面 惚れとったんじゃないんかワレっ（おどす）
ウィル 惚れてます、惚れてますから、元に戻って。
覆面 何ぃ？（静かに怒って）――おい兄ちゃん。ここに座れ。さっさと座らんかいっ（ばしばし）
ウィル ハイ、ハイ。
覆面 元に戻れいうたな。おんし、いっていいことと悪いことがあんで？ きさん、恋人を自分の思い通りに変えようちゅうんか。ありのままのわしに惚れとるんちゃうんか。恋人が思いのまんまになるんなら、相手なんか誰だってかめへんことになんで。どうなんじゃいオラっ。
ウィル いや、でも違いすぎるし…。
覆面 んだとコラあっ。
ウィル ごめんなさいっ（あたま抱える。そのまま、ひとりごと）ありのまま好きになる…相手を変えようとしちゃダメ…そりゃそうだよ…そりゃそうだけど…できるのかなあ…でも、大切なことだ…よし。ありのままの、君が好きです。
覆面 （いて）うれしい。
ウィル （驚いて）おわあっ。
また覆面、交替しているのである。だから誰なんだ？？？
覆面 どうしたのウィル。
ウィル いや…何でもない、何でもない。――「何いっとるんじゃワレぇ！」（と、やってみる。首ひねる）？？？？？？
覆面 え？（と、カワイク小首かしげる）何してんの。
ウィル いや何でも。――コホン、ありのままの君が、好きです。
覆面 ありがと。でも、よした方がいいよ。
ウィル どうして？
覆面 あたし、嘘つきだから。ほんとは不良だし。ありのままなんつって、裏で何やってるか分かんないよ？
ウィル そんなことないでしょ。
覆面 （突然凶暴に）あがり組のウラ番。
ウィル え。
覆面 （コケットに）ジャックナイフのかやほ。
ウィル えっ。
覆面 （凶暴）目にもとまらぬ往復ビンタ。
ウィル ええっ。
覆面 （コケット）背中には三〇センチの切り傷があっ。
ウィル えええっ。
覆面 ビビった？
ウィル かなり…。
覆面 嘘よ。
ウィル ウソ？（ホッとして）なぁんだモウ。ビックリさせるなあ。
覆面 それも嘘。
ウィル え。ナンダッテ？
覆面 どっちも嘘。
ウィル どっちも？（混乱して）…何か、分かんなくなってきた。
覆面 本当はね、悪い魔物につかまって、山奥のお城に閉じこめられてるの。そうして王子様が助けにきてくれるんだ。でもあたし、言葉がしゃべれないの。
ウィル しゃべれてんじゃん。
覆面 （聞いてない）魔王と王子様の戦いは、そりゃすごいもんだったわ。で、結局お父様が国の半分ずつあげることになって、ようやく喧嘩は終わったの。ふたりは幸せに暮らしましたとさ。
ウィル わけ分かんねー。
覆面 というわけで、じゃ、もう一度いって。
ウィル え。
覆面 ありのままの君が、好きですって（どことなくブキミである）
ウィル ああ。ありのままの君が――（悩んで）ちょっと、タンマ。
覆面 どしたの。
ウィル いやその、ありのままはちょっと…
覆面 （怒って）何よ…嘘つき！ もういいっ、わあーん。
泣きながら、駆けさる。
ウィル あっちょっと、かやちゃん、待ってーっ。
覆面 （いて）待ちましょう。
ウィル うわあっ。
また別のがいるのである。サトイモの雨傘さしている。だから誰（以下略）。
覆面 いかがなさいました？
ウィル 今度は何だ。
覆面 何だとは心外な。かやほでございます。
ウィル あきらかに違うだろ。
覆面 これはしたり。夏の川原にゆらゆら揺れるチガヤの穂、その優しい姿から名前をちょうだいいたしました。穂の先に眠っておられたカエルの長老ル・ボウ師がある時フト目を醒ましますと、空にひとかけのはぐれ雲が、夕暮れの日にきらりと光り、ボウ師、いたく感じいりまして、この世に生きるわが身の幸せをかみしめたと申します。そこで座しておりましたカヤの穂に感謝の祈りを捧げたところ、穂の先から小さな小さなカエルの子が一匹、ツイと現れたというのです。それが、わたくしの誕生でした。
ウィル ははあ、そうだったんですか。
別の覆面 （いて）そうなんです。
ウィル だあ！（驚く）
ふたりの覆面 それが私なのです。
ウィル 私っ、ふたりいんじゃん！
ふたりの覆面 私はふたりいるのです（と、平然という）
ウィル そんなはずあるかっ。
はじめの覆面 ていうか、
次の覆面 私は、
ふたり どこにでもいるのです。
はじめの覆面 なぜなら、
次の覆面 私は、
ふたり 白浪二十面相だから。
ウィル あ…（ひとり）そうだった、かやちゃんのフリだったっけ。――二十面相君、本当は君は、誰なんだ？
あとの方の覆面 よくぞ訊いてくれました。
と、白浪二十面相、覆面を取る。するとそれは――
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