mixiユーザー(id:63544184)

2015年06月03日14:27

582 view

未稿 眠いほうのスハナ 全

眠いほうのスハナ





時 約300年後
場 北緯42度20分東経60度7分、キプチャク
人 ハイレ(アムハラ)
  ドッカー(ロバ)
  スハナ(カレイツ)
  アリー(コラズム)





第一場 ひとり

まだ昏い、早朝――。沙漠に向けて開いた平屋のテラス…。
ひとりの老いた黒人が、ロバを曳いている…。

黒人 ――ジャラン、ジャラント鐘ガ鳴ル、旅券ハスデニ買ウテアル…。デハ、ロソロ行キマス。ココハ、大切ナ泉デシタ。サヨウナラ。イツカえてぃおぴあニモ、イラシテクダサイ。アナタニゴ加護ノアリマスヨウ。マタキマス。サヨウナラ。

去る…。
おそろしくゆっくりとテラスに出てくるスハナ。ランプに火を入れる。

スハナ ニガヨモギの種を背負った一頭のロバが、みつき歩いてモーセの地峡を越えて…ようやっと、ツェツェ蝿の被害から、アフリカを守るわけなの…。三千年近くかかった眠り病とのたたかい…はあ、こんどこそ、うまくいくといいなあ。あたしはやれるだけのことはやった。こんなあたしだけど、なけなしの技術と、わずかな電気と、過去からの…たくさんの蓄積と、生き残った人たちの愛とに支えられて…。あとは、サヘル育ちのあのドッカーの足と、ハイレさん、あなたの強い穏やかさとを信じて、頼るだけです。どうぞよろしくお願いしますね…。人類ののこされた時間のために…。
――ああ、退いて、退いて、ひとは…もう退けないところまで退いたつもりでいるよ…。ひとは世界に今、どれだけいるのかなあ。町なんてものがあったころは数えもできたろうけれど…ぜんぶで、200万か…250万…?(あかるく)今日もきれいに晴れてたなあ…。硬い冷たい板みたいな一枚の青空…。雨は降らない。相変わらず降らない。どうだろう、300年前の人たちは、ひとが滅んだらたちまち草が生い茂って、沙漠は縮むだろうって考えたかな。考えたかもしれない。でもね、ううん、どっこい沙漠は生きてたんだったよ、縮んでなくなったりはしないんだったよ…。アリー、ね、むかし、農業っていうことがひとを生かしていた時代があったんだってさ? ね、アリー、子どもたち、よくお聞き? そこではね、今みたいに、たいへんな思いをしてわずかな草を探すための旅をしなくても、食べられる草や木の実がそこらじゅうにどんどんできて、たれもが砂に杭を打って家を建てれば、長ければ一生とか何世代も、住み続けることもできたんだって。この近所でもね、アムーの流れをせき止めて、何万人ものひとが町をつくっていたことがあったんだって。え? そうそう、すぐそこだよ、あの運河っていう涸れた窪みを南に下っていくでしょう、そうすると遺跡があるよ。もう水が行かないから風に崩れるばかりだけど、あれが町っていうものの名残り…。

(老婆のようになり)むかあし昔のそのむかし、ソビエトっていう夢のような国があってね、この地面をつくりかえて、たれもが飢えずに住まっていけるところをつくろうとしたんだって。そのころ町は大きくなりすぎて、ミルクもパンもいきわたらないくらい人が増えて、どうにもならなくなってたから、だあれもいない沙漠の川のほとりにあたらしく移り住んで、広い畑と豊富な水とでおおきな村みたいな町をつくろうと思ったんだって。とてもいい考えだと、疲れた町の人たちは思ったの。でも、だあれもいないと思っていた沙漠にはほんとうはあたしたち、遊牧の人々がもういて、水はほんとうはかれらを生かすのにギリギリのくらいしかなかったんだって。アムーの流れは黒い海にそそいでいた。アリー、子どもたち、そう、あの海だよ。こないだ遠足で行ったあそこね。少しの魚と、たくさんの井戸と、もっとたくさんの草の生い茂るあの海…。アムーとアラルとは、千人の羊飼いと五万頭の羊を養うだけで精一杯だった、のに、移り住んできたひとたちはその何十倍もいたんだって。汽車…っていうものが、遺跡に行くとのこってるよ。もう朽ちはてて鉄の塊でしかないけど、陸(おか)を行く船みたいなもので、ひとときに千人ものひとたちを運んで遠い北の町からやってきた…。沙漠には沙漠の生き方があるっていうことを、ソビエトは分かってくれなかった。あたしたちはこの乏しい草はらでなぜ、食べられもしない亜麻布を作るのか、農業の人たちの考え方がわからなかった。それを何か食べものと取っ換えるんでしょう? でも取っ換える人はこのあたりにはいないんだよ。汽車で…首都まで運んで、首都から小麦やトウモロコシや蔬菜を折り返し運んでくるんだよ。おかしいなあ、なぜここで小麦を作らないのか。生きるために麦を作るのには反対しないよ。あたしたちだって少しは稗とソバを作ってる。でも麻とか綿とかいう食べられないものを無理してつくって都会で売るなんていうことには納得できなかったよ。だってここには羊もいるんだよ。むりやり川の流れまで変えて麻をつくらずとも、綿羊ならあたしたちが飼うよ、来た人らにもどうやればいいのか教えるよ。いちおう…あたしたちの首長はそのことを中央の政府に進言したらしい。らしいっていうのは、かれは二度と戻ってこなかったから。噂ではかれオリムジオンは極東の、沿海州という僻地に流されて一生を終えたというのね…。

(もとの若さに戻り)東の東の東の果ての――高原と海岸のはざまの地方に、たぶん、あたしのふるさとはあるのかなあ。この土地の多くのオズよりももっと東にね…。なんか、おじいちゃんがよく謳ってた節は、このあたりのオズたちの節とはだいぶ違うんだ…。
 うみだべかど おらおもたれば
 やっぱりひかるやまだたぢゃい
 ホウ
 かみけかぜふげば しっしおどりだぢゃい
そんなお祭りはもうない、シカもカモシカも。そんな生き物はもういないし、シカを飼ってひとが旅をできるものでもない…。この歌はね、たぶん、遊牧よりも前の人たちの歌なんだ。ひとがもっとも弱くて、もっとも猿に近かったころの歌…。ここウルスは――、スキタイの勇者の裔(すえ)の土地だから、あたしたち日かげの民は、ただしずかに控え目に、どうしてひとびとのしあわせがありうるのか、を、考えるしかない。でも、なんていっても今のここは佳い時代だよ。あたしたちも、自分たちだけでなく、みんなのことを考えてもいいように、やっとなってきたんだから…。アリー、あなたは勇者の孫の孫。あたしとどうやって生きていく? どうたのしくどう生きていく…? ねえ、アリー…?














編集する 2010年08月20日17:03



「地熱発電推奨映画」。

地下と月面のウランを使い果たしてしまった近未来。

度重なる原発事故と戦時における対原発ミサイル攻撃により世界はいつも曇天だ。

わずかな植物を有効に利用して生き残れる人類の生活形態は「遊牧」だけだった。

南米で、中央アジアで、アフリカで…一握りのディアスポラの民らが放浪を続ける。

彼らはあたかも古代人の生活に戻ってしまったかのようだが、そうではなかった。

彼らには、人類400万年が蓄積してきた「叡智」が遺されていたのだ。

世界の3ヶ所に、人類回復のための「研究所」がつくられた。

文明を再生しつつ、かつ文明の暴走という二の轍を踏まぬための「モラル」とは?

自分だけが巨大になろうとすると滅びを早めることを預言する新しい「聖書」とは?

研究は進められた。ここ、中央アジア回復会議の研究施設「キプチャク」でも。

まるで子どものように愛らしい女性研究員(ジブリなのでw)スハナは思う。

「アリーはどこに行ったのだろう。私の仕事が気に入らないのかしら」

仕事とは、地熱発電所の開発と運転である。人類にはまだ電気が必要だったのだ。

アリーは…古代回帰派だった。

新時代の人類に例えば国家のごとき「センター」は不要!とする遊牧者の一派。

スハナは幾度もアリーを説得したが、聞き入れられなかった。

おそらくアリーは恋人の才能をやっかんでいたのかも知れない。まだ子どもなのだ。

そして、「センター」に連座することで特権階級になることを恐れてもいた。

敬虔に、謙虚に生きることを貫きたいという、青年らしい潔癖。

スハナ「私が汚れているっていうの?」
アリー「スハナは真剣さ。でも、そのミルク…それはスハナが自分で搾ったんじゃない!いいかい?まだ温かい乳を飲めなくなったらそんな生活はほころびる。そうイシャーンが言ったろう?帰ってくるんだ、スハナ!」
スハナ「帰れない…!アリー、あなたが元気そうでなによりだった。私の仕事はね、あなたのような人たちがいつも元気でいられるためにあるの」
アリー「そんならスハナは今日から敵だ!」
スハナ「わからず屋!」







top→ http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=63544184&id=1940803010
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する