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2015年04月05日13:40

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破裂しそうな孤独と緊張。のち破裂 『フォックス・キャッチャー』

全篇に渡り破裂しそうな孤独と緊張が漂う。
本作は世界有数の化学メーカー、
デュポン財閥 *1 の御曹司ジョン・デュポンの物語だ。
レスリング金メダリスト、デイヴ(マーク・ラファロ)を、
デュポンは、なぜ射殺したのか? 動機を観客が理解することはむずかしい。

デュポンは愛国に尊い極端な保守主義で、レスリングを愛し、 *2 マザコンで、 *3
教養があって、支配的な指導者へと憧れた人物だ。
ときには優しくあり、ときには屋内で銃をぶっぱなす。支離滅裂な行動。
バラバラの性格。そのデュポンに入れ込み、
演じ切るスティーヴ・カレルの“好感などまるで感じさせない演技”がすごい。*4

映画は孤独を多重的に描く、入れ子構造だ。
デュポンは優秀な兄に悩む孤独なマーク(チャニング・テイタム)を屋敷に招き、
レスリングの指導を依頼した。
孤独と孤独。2人は同じ境遇を慰撫し、親密な関係をきずく。
デュポンはやがてマークに飽き、デイヴを自宅に呼ぶ。
だがマークとデイヴは兄弟。対立から和解し、デュポンの孤独はより色濃くなる。

印象的な孤独の場面を差し挟み、 *5 不穏の風船を常に膨張させていく監督の手腕。
我々は普通はヒトゆえに思うのだ。「そこはそうすべきじゃ……」
だが、デュポンと周囲は選択をあやまり、不穏な風船はどんどんふくらむ。
どんどん、どんどん。
やがては――。
その緊張は重苦しく、結末には後悔と息苦しさのみがあとを引く。*6


※1 ちなみにライターを販売するデュポンはエス・テー・デュポンであって化学メーカーのデュポンとはまったく関係ない。

※2 デュポンがレスリングへ注ぐ愛は本物で、名誉にたいし不遇のシュルツ兄弟を、援助しようとしたのも本当だという。またアメリカにおいてレスリングの人気は低く、その振興に注力したのはまちがいない。なのになぜだ。

※3 デュポンの母親はレスリングを下品なスポーツだと批判した。その母親にレスリングの価値をしめし納得させることが映画のなかのデュポンの目的の1つだった。ただ、その母親は映画のなかで関係改善することなく……。

※4 本当にすごい。デュポンはわめきちらすような人物ではなく、感情のヤマタニが複雑な人物だ。なにより、終始、一種の不気味さと緊張感をはらむ空気の作り方が抜群だ。

※5 トレーニング途中のマークがたった1人で木に寄り沿い背中だけ見せる場面。豪華な居室の椅子に1人で着席するデュポンの孤独。そんななかでデイヴのみ家族の輪のなかで幸福な様子だ。そのデイヴをデュポンは最期に撃つのだ。

※6 おそらく、もうちょっとだけ歯車が噛み合い、デュポンに寄り添う人物がいれば悲劇は回避できたかもしれない。その後味の悪さと後悔だ。
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