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2015年02月15日21:11

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P子ちゃん

仮に「P子ちゃん」にしよう。
地方の大都市出身である。
何度も交通事故にあって頭を打っていた。
いつも純真な笑顔で歩いているので、宗教勧誘が多かった。
「お金払えないですけれど、いいですか?」
と言っても、当時は「オウム」などのカルト宗教ブーム以前、信徒数を増やしたい教団は、「はいはい、どうぞ」である。
「私28宗教あるんですよね。」
と笑っていた。

P子ちゃんは漫画家になりたくなり、上京する。
出版社では、同郷の大御所プロダクション「Aプロ」を紹介する。
大所帯なのだ、プロダクションシステム・ガッチリ組んでいるのだ、消しゴム掛けでも、仕事は出来るだろう、と。
しかし
「友達の結婚式に招かれたんでちょと帰ります。」
でアッサリ首になってしまう。
「ひと旗あげるまで帰らない覚悟じゃないとダメ。あの子はモノにならないわ。」
という厳しいA先生の一声である。

少ない退職金をもらって追い出されたP子ちゃんは、私がチーフアシを勤めるプロダクションに、出版社の手によって回される。
猥言は吐くは、みんなが息を止めて集中している最中に猥歌は歌うは、はきり言って「困ったちゃん」であった。
でも憎めないつぶらな瞳。
ウチだけじゃ家賃が払えないだろうと、出版社は「少女漫画界の仙女・W大先生」のところへP子ちゃんを回す。
実質姉妹ふたりでやっているのだが、
「まあ、P子ちゃん、ようこそ♪」
と優しく迎えてくれ、
「若い子がいるっていわぁ〜♪」
と喜ばれ、帰りぎわには贈答品の多い大御所のお宅、
「これ、今日来たばかりの但馬牛、これ魚沼産コシヒカリ5キロ、まだ担げる?蟹缶もあるのよ、葱と炒めて卵とじにしてね♪」
と、おご馳走をたんともらい、
「但馬牛って、生まれて初めて食べちゃいました〜!」
と、顔の色つやも良く次の月元気に仕事に来るんである。

P子ちゃんは、また、真面目な探訪者でもあった。
彼女の志望は4コマ。
で、私がいしいいひさいちさんの「B型平次捕物帖」を貸したら、なんと
「畳の目」から始まる漫画を60本描いて、担当者をビックリさせた。
「いくらなんでも、そんなには描かなくていよ、P子ちゃん〜!」と。

P子ちゃんは運がヨカッタ、友達の当てたシティ・ホテルのプールご招待である。しかし、そこで滑って転んで「びてい骨・骨折」、ドーナツクッション寝たきり半月である。
報せを受けた面倒見の良いボスが、その場にあった現金まとめて、
「ハイッ!救急部隊出動!」
「住所メモ」片手に差し入れに行った。
なにしろトイレ以外は絶対安静である。(というか、入院費がなかった)

ミネラルウォーターかつげるだけ、家電店で買った電気ポット、カップ麺各種、日持ちのしそうな菓子パン、カップスープ、ビスケット…
とにかく思いつくだけ枕元に並べて、
「いい?なるたけ動いちゃダメよ!」
と言って仕事場に帰った夏の日。

私はP子ちゃんの部屋が意外と広いので、ビクリした。ベランダも広く、窓から見える練馬の大きな青空。ただし木造で、壁は水色のペンキで塗られている、古い、古いアパートだった。
「冬、遅くに帰ってきたら、南国出身のP子ちゃんは寒いだろうなぁ…」
なんて、賑やかな練馬の商店街を、駅に向かって歩く。
急がないと、それでさえ遅れちゃった仕事が待っている。

P子ちゃんは幸せな結婚をした。
ヒットを飛ばした青年漫画家さんに見そめられ、都心に家も建て、子宝も授かり。
スタートが何であれ、人は落ち着くところに落ち着くものかもしれない。

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