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2010年03月29日01:46

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「ハバネロ」 の語源。

  



クローバー だいぶ前に、「マジパン」 で、ヘンなコトバ・シリーズを始めようと思ったのだけど、ショッパナでコケちゃった。

クローバー 「マジパン」 の語源には、イタリア語とフランス語が深くかかわっているのだけど、

   両言語圏で言われている由来が、全然、かみ合わない

のね。どっちを採っても、まるでスッキリしないのでコケちゃった。

   …………………………

クローバー 今回は、単純に、

   「ハバネロ」

行ってみましょう。

クローバー これはね、

   habanero, habanera [ アバ ' ネーロ、〜 ' ネーラ ]
       「(キューバの首都) ハバナの」

という意味の形容詞です。名詞化して、「ハバナっ子」 の意味にもなります。「ハバナ出身の男性」 は “アバネーロ” で、「女性」 は “アバネーラ” です。スペイン語は、語頭の h- が発音されないんですね。

   -ero, -era

というのは、「〜に関連するもの」 をあらわす形容詞をつくります。もとは、ラテン語の、

   -ārius, -āria, -ārium [ 〜' アーリウス、〜' アーリア、〜'アーリウム ]

という形容詞語尾です。

クローバー 英語の January, February はたまた dictionary などの -ry は、この -ārius の変化語尾が落ちたものです。

クローバー 近代になってラテン語から造語された語では、

   aquarium 「アクアリウム (水槽、水族館)」

のように、ラテン語の語形がそのまま現れます。無生物を意味する中性形の -ārium は、「道具・場所」 を指すために使われます。

   …………………………

クローバー そういうワケで、

   habanero 「ハバネロ」 は 「ハバナの」 (男性形)
   habanera 「ハバネラ」 は 「ハバナの」 (女性形)

となります。なぜに、男性形・女性形を取るのか、といえば、それは略された名詞が何なのか、によるのです。

   chile habanero [ ' チーれ アバ ' ネーロ ] ハバナのチリ唐辛子
   contradanza habanera [ コントラ ' ダンさ アバ ' ネーラ ] ハバナ風コントルダンス

クローバー  chile は国名の Chile と同音・同綴ですが、関係がありません。ナワトル語 (アステカ王国の言語) で 「唐辛子」 を指す chilli 「チッリ」 をスペイン人が採り入れたものです。 -e で終わりますが男性名詞です。

クローバー  contradanza というのは、フランス語の contredanse の意訳・音訳語で、17世紀から18世紀にフランスの宮廷で流行った、英国の田舎風のダンスを言うんだそうですが、アッシにはナンのことやらサッパリ。英語の country dance の訛りがフランス語の contredanse 「コントルダンス」 で、それを音と字面と表面上の意味を合わせて訳したのが、スペイン語の contradanza です。

   …………………………

クローバー つまり、「ハバネロ」 っていうのは、

   「ハバナの唐辛子」

って意味なんすね。フルネームは、「チーレ・アバネーロ」 ということです。

クローバー 英語のフルネームは、

   habanero chili

です。

クローバー このチリ唐辛子は、もとは、ユカタン半島の海岸部で栽培されていたものですが、スペイン人に発見されるや、世界中に広まりました。地図を見ればわかりますが、ユカタン半島からいちばん近い都市は、キューバのハバナなんですね。そのため、

   ハバネロの取引の中心はハバナだった

わけです。それで、「ハバナの唐辛子」 となるわけです。別にハバナで採れたわけじゃなかった。

   …………………………

クローバー ところでね、この 「ハバナ」 というコトバ、意外なところに語源があります。

クローバー 「ハバナ」 は英語では Havana ですが、スペイン語では、

   La Habana 「ラ・アバーナ」

と言います。定冠詞が付いてます。地名で定冠詞が付くのは、

   普通名詞を地名に転用している場合

ですね。たとえば、

   Le Havre 「ル・アーヴル」 フランス 「港」
   Den Haag 「デン・ハーグ」 オランダ 「生け垣」

などがあります。後者は、本来なら、De Haag となるハズなんですが、古来、

   Die Haghe, Den Haghe

の両様で呼ばれているそうです。前者の Die Haghe は現代語で De Haag で、後者が Den Haag です。 haag は女性名詞なので、いかなる格でも定冠詞が den となることがありません。昔からそうなんだ、と言われれば、そうですか、と言うしかないですね。

   …………………………

クローバー 「ハバナ」 のもともとの名前は、

   San Cristóbal de la Havana 「“ハヴァナ” の聖クリストーバル」

です。「聖クリストーバル」 というのは、ラテン語で言う Christophorus 「クリストポルス」、英語で言う、 Christopher 「クリストファー」 のことです。ハバナの守護聖人がクリストーバルなんですね。また、コロンブスの名前でもありますなぁ。

クローバー モンダイは、 Havana のほうであります。古い綴りでは、英語に見るとおり Havana です。スペイン語では b と v に発音に区別がないので、現代では Habana になっています。

クローバー 一説には、この地を支配していた地元の先住民の酋長の名を、

   Habaguanex 「ハバガネシュ」

と言ったので、その名を取ったのだ、と言います。

クローバー しかし、 Havana と v が旧綴であることを考えると、

   havana [ ア ' ヴァーナ ] 「港」

の可能性もあります。この単語は現代スペイン語には残っていないんですが、フランス語には、先ほど見たようにあるんですね。

   havre [ ' アーヴル ] 「港」

クローバー そう、「ル・アーヴル」 の havre です。この語は、12世紀に中世オランダ語から

   havene [ ' アヴェネ ] 「港」

として入っています。現代オランダ語では haven [ ' ハーヴェ(ン) ] となります。これは、ドイツ語の Hafen [ ' ハーフェン ] と同源です。また、 Copenhagen 「コペンハーゲン」 の “ハーゲン” にもあたります。
クローバー デンマーク語では、本来、

   København 「ケベンハウン」

と言うんですね。 havn の部分が 「港」 です。

クローバー 英語では、古く、 haven 「ヘイヴン」 が 「港」 に使われました。しかし、“隠れ家、安全な所” という抽象的な意味にズレテしまったんですね。

クローバー もともと、 harbo(u)r 「避難所」 という単語があって、1200年ごろを機に、なぜか、両単語の意味が “入れ替わる” のです。つまり、

   haven 「港」 → 「避難所」
   harbor 「避難所」 → 「港」

ということ。その他、ラテン語から入った port という単語もあり、「港」 を意味するコトバからは “お役ゴメン” になったわけです。

   …………………………

クローバー いっぽう、フランス語ですが、

   havene [ ' アヴェネ ]

は、都合が悪い。と言うのは、

   フランス語は、アクセントがある音節よりアトの音節では、
   母音がすべて消失するから

です。つまり、

   *havn [ ' アヴン ]

となっちゃう。ところが、フランス語には、もうひとつ、特徴的なクセがあって、

   語末に -vn という子音群が来るのを嫌い、これを -vr に変える

のです。だから、

   havre [ ' アーヴル ]

です。

クローバー このオランダ語が、フランスを通じてスペインに入る、ということは十分考えられます。

   havene 古フランス語
    ↓
   havana スペイン語

クローバー この語は、英語では haven 「ヘイヴン」 になると申し上げました。これは、日本人のよく知る、あのコトバに使われています。つまり、

   タックスヘブン

ですね。税金対策のために資本が逃げ込む国や地域を言いますね。つまり、

   「税金の避難所・隠れ家」

で 「タックスヘイヴン」 です。 tax haven ね。 tax heaven 「税金天国」 ではありません。

   …………………………

クローバー つまりですね、

   ハバネロ
   ル・アーヴル
   コペンハーゲン
   タックスヘブン

これらには、同じ単語が入ってる。「港」 です。
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