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2010年03月21日13:39

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「カエルアンコウ」 と 「イザリウオ」。

  




湯のみ 最近、TVのバラエティに、

   カエルアンコウ

がよく出てきます。民放、NHK どちらも盛んに出してくる。でね、この 「カエルアンコウ・ブーム」 が始まったときに、

   「あれっ?」

と思ったんですよ。

   これ 「イザリウオ」 じゃなかったっけ?

ってね。

湯のみ そうしたらビンゴ。イヤな予感はしてたんですが。いわゆる 「コトバ狩り」 ですね。

   2007年2月1日

をもって、日本魚類学界は、イザリウオの和名をカエルアンコウに変えたんだそうです。

湯のみ 「和名」 ってナンなの?ですよ。いいっすか。ラテン語による学名は、分類が変更される場合でなければ、いっさいの変更はできません。たとえ、発表者が綴りをまちがえたとしても、それは、まちがえたままで未来永劫使われるんですね。というのも、

   学名を変えてしまうと、過去の資料との
   種の同定ができなくなってしまう

からです。

湯のみ たぶん、「イザリウオ」 なんて名前ではTVで紹介できない、ってことなんでしょう。和名っていうのは、ただでも、信頼性が低いし、厳格な取り決めがありません。その地位を、なおさら、低めたわけです。
湯のみ 今後、カエルアンコウを説明する資料では、旧名は 「イザリウオ」 である、ということを、必ず、付け加えなければなりません。おそらく、これから生まれてくる学者たちは、「いざり」 とか 「いざる」 というコトバを、まったく知らずに育つでしょうから。

   …………………………

湯のみ 「いざる」 というのは、もともと、差別語ではないし、アッシが子どものころでも、大人たちは、

   座ったまま移動することを 「いざる」 と表現していた

んですね。別に 「差別する意味合い」 で使っていたんではありません。

   ゐ (←ゐる) = 座って
   さる  = 移動する

という単純な合成動詞です。古い日本語では、「去る」 というのは、単に “移動する” という意味で、近づく場合にも 「さる」 と言いました。

   風まじり 雪は降りつつ しかすがに 霞たなびき 春去(さり)にけり

湯のみ 「しかす」 というのは、「然」=“そのように”、「す」=“動詞語尾” ですね。

   しかして (而して、然して)
   → しこうして (而して)

というのは、「しかす」 に 「て」 がついたもの。意味は、「そのようにして」、「そして」 です。

湯のみ 「がに」 は古い用法で、「〜するのに」。よって、

   しかすがに = そのようにするのに

湯のみ つまり、「風まじり 雪は降るのに」 ってことです。

   それなのに、ああ、それなのに、それなのに
   「霞がたなびいて 春が “去った” のだなあ」

です。

   雪が降るのに、霞がたなびいて、春が “去った” のだなあ

湯のみ ね、この “去る” は “来る” ということです。

   …………………………

湯のみ 「いざる」 という動詞は、差別の意味合いではなく、ごく最近まで使われていたんですよ。このコトバを “差別語” と決めつける連中が葬り去ったんですね。

   『土左日記』 935頃 承平五年二月九日
     「こころもとなさに、あけぬから、ふねをひきつつのぼれども、
     かはのみづなければ、ゐざりにのみぞゐざる」
     =船が、浅瀬に船腹をこすりながら、のろのろと進む

   『宇津保物語』 970〜999頃
     「そちの君三尺の几帳ひきそへていざりいでたり」
     =座ったまま、前へ出て来た

   『即興詩人』 1901年 森鴎外訳 隧道・ちご
     「我が縛られたる手はいざり落ちて地に達したり」
     =じりじりとずれ動いて

湯のみ つまり、「座ったまま動く」 から、「何かが、のろのろとズリ動く」 という意味まで持っていたコトバなんです。また、方言には、「いざる」 という動詞がたくさん残っていて、

   座る、船が動く、雪の中を歩く、泥の上を歩く、ずれる、移動する、
   転勤する、松が横に這う

など、いろいろな意味に使われています。

   …………………………

湯のみ “差別用語狩り” にはウンザリです。“差別狩り” ではなく “差別用語狩り” ですね。要は、エラい人たちが 「立場があやうくならないようにするため」 の保身です。

   それが、コトバによる表現に、カッテに手を入れる

   …………………………

湯のみ 落語には 「乞食」 がいっぱい出てきます。実際に、たくさんの乞食がいたんだからしょうがないでしょう。
湯のみ 民放は、もともと、今では落語なんかやらないので、知ったこっちゃないでしょうが、NHK は、古い落語の音源をラジオで流すときは 「乞食」 をそのまま放送しますが、

   現在の噺家の落語の収録では、極力、「乞食」 を使わせません

湯のみ あるいは、乞食の出てくるハナシはやらせない。

湯のみ 落語に 『啞の釣り』 (おしのつり) というのがあります。もとのTBSの有名な演芸プロデューサーだった、川戸貞吉さん、というヒトが、一度だけ、TBSラジオで、『啞の釣り』 を掛けたことがあります。このままじゃ、重要なハナシがひとつ埋もれてしまう、と考えたんでしょう。

湯のみ その後、川戸さんが、上層部から叱責されたか、始末書を書かされたか、説明を求められたか、そのあたりのことは伝わってきません。

   …………………………

湯のみ 「イザリウオ」 って名前ですね。そういう名前に子どもが接して、「イザリ」 って、どういうこと? って疑問を持つのは悪いことなんでしょうか?



   ――――――――――――――――――――

湯のみ そうだ、思い出したけど、きのうの 「ふしぎ発見」 で、

   「コビトペンギン」 を 「フェアリーペンギン」

と呼んでいた。英語の標準名 common name は little penguin である。 fairy penguin はオーストラリアの地域名だ。

湯のみ 日本の動物園では、「コビトペンギン」 を 「コガタペンギン」 と表示しているところが多いらしい。日本語版 Wikipedia も 「コガタペンギン」 という名を見出しにしている。

湯のみ こういうふうに、動物園だのTVだのの一存で、

   カッテに名前を変えるのはどうか

と思うわけだ。いったい、標準和名というのは、そんなにテキトーなものなんだろうか。


湯のみ アッシじしんは、いっこうに 「こびと」 が差別語だと実感したことがない。いったい、「こびと」 というコトバで、誰が差別されるんだろう、と思うわけだ。

   「白雪姫と “七人のちっちゃいおじさん”」

と言えばいいのかいな。

湯のみ イザリウオもそうだけど、コビトペンギンとか、

   わざわざ、差別を掘り起こして、
   それをリニューアルしている

ようにしか思えない。

湯のみ コビトカバはそのままだけど、ドッカのオセッカイが 「コガタカバ」 とでも言い出すんじゃないかいな……
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