北川フラム
インターネットでは、
「フラム」 はノルウェー語で 「前進」 の意味だそうです
と100%書いてある。御本人がそう言っているらしい。しかし、そうではない。単に、「前へ」 という副詞にすぎないのだ。
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実は、
「前へ!」 を “前進” と訳す
ということには、ある意味合いがある。すなわち、それは、
共産主義、ボリシェヴィキ、プロレタリアート運動
とのカラミである。共産主義時代のロシア語で、
«Вперёд!» Fpjerjot [ フピェ ' リョート ] 「前へ」
というコトバは、単なる副詞ではなく、ある種のニュアンスを持っていた。それは、「人類は、共産主義へ向かって進むのだ!」 というイデオロギーである。
実際、
1904年、レーニンがジュネーヴで創刊した
党機関紙が 『フペリョート』 (前へ)
であった。日本では、通例、『前進』 と訳す。
アナトーリイ・ルナチャルスキイが結成した、ボリシェヴィキ左派の名は 「フペリョート」 であった。ソ連邦には 「フペリョート」 という出版所もあった。
つまり、「フペリョート」 という単なるロシア語の副詞は、ボリシェヴィキ、共産主義者によって赤く染められたのである。
北川フラム氏の父親、北川省一氏は、良寛研究で知られるけれども、それ以前は、学生時代から、左翼運動、労働・農民運動にかかわっていた。 fram というのは、ロシア語の Вперёд! の訳であろうが、なぜ、ノルウェー語を選んだのか、それは謎である。
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御本人をさしおいて、ナンだけれども、
fram <副詞> 「前へ」 ノルウェー語、アイスランド語、スウェーデン語
である。これは、英語の from と同源。英語の発音と意味が変わってしまったのだ。
*per- 「前へ」 印欧祖語
+
-mo- 最上級語尾
↓
promo- 「前へ」 ゲルマン祖語
↓
fram 古英語、ノルウェー語ほか
という仕組みである。
印欧祖語には、 -mo- とならんで、 -isto- という最上級もあった。ゆえに、 -mo- と -isto- と入れ換えると、
first ← *furistaz ゲルマン祖語
となる。つまり、 first と from は、そもそも、同じ意味の語であった、とわかる。
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promo- 「前へ」 は、 *per- 「前へ」+ -mo- “最上級” であった。つまり、「いちばん前の、いちばん前に」 という意味である。ゆえに、
primus [ プ ' リームス ] 「最初の」 (= first)。ラテン語
となる。英語で prime 「プライム」。この形容詞の副詞形は、まさに、
primo [ プ ' リーモー ] 「いちばん最初に」
である。
印欧語の序数詞で、たとえば、 three → third、five → fifth などという対応が見えるのに、 one → first と関係がないのは、こういう理由による。
この -mo- は、言語によっては -wo- であらわれる。 m と w は人類の言語で普遍的に交替する子音である。口をキチンと閉じないと m は w になる。ゆえに、
первый pjervyj [ ' ピェールヴイ ] 「最初の」。ロシア語
がある。 v を m に変えれば、「ピェールムイ」 でラテン語ソックリだ。
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このゲルマン祖語の -mo- は、動詞の語根に付いて名詞をつくる。ラテン語では、 -men, -min などで現れ、ギリシャ語では -μα (-ma) であらわれる。
この接尾辞を、アッシらが、日常、どれほど目にしているかを知ったら、意外に驚くかもしれない。
war-m 英語。本来は、「熱くなる+こと」
ther-mo- 「サーモ〜」 ギリシャ語由来の造語要素だが
英語の war- とギリシャ語の ther- は同一。
ho-me 英語。本来は、「横たわる+こと」
英語で、 -m, -me に終わる単語を調べると、「動詞」+ -mo- であることが多い。
se-men 「タネ」。ラテン語。「まく+もの」
誰ですか。「精液」 などと言うているのは。ラテン語では 「タネ」 seed の意味です。「まく」 という単語は現代英語にも残っている。 to sow だ。
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また、ゲルマン祖語の -mo- は、ロシア語では -mja 「ミャ」 となる。ゆえに、
семя sjemja [ ' シェーミャ ] 「タネ」。ロシア語
となる。また、さらに、
семья sjem'ja [ シェミ ' ヤー ] 「家族」。ロシア語
が派生する。
ロシア語を学んだヒトは、 семя sjemja の変化が奇妙なのにアタマを痛めたかもしれない。
семя sjemja [ ' シェーミャ ] 「タネは」 (単数)
семени sjemjeni [ ' シェーミェニ ] 「タネの」 (単数)
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семена sjemjena [ シェミェ ' ナー ] 「タネは」 (複数)
なぜ、こんなことになるか? それは、本来の語幹が、
semen- だったから
である。驚きだ。ラテン語とまったく同形なのである。ロシア語では、このような単数主格の語尾 -men の -en が鼻音化した。つまり、 [ -mẽ ] である。さらに、スラヴ語では、ポーランド語を除いて鼻音が消失した。ロシア語では、「エん」 は 「ヤ」 に音が変わった。だから、「シェーミャ」 となる。
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ゲルマン祖語の -mo- は、古典ギリシャ語では、動詞の語根に -μα -ma という語形で付き、名詞をつくった。遠いドッカのハナシではない。
dra-ma ドラマ
poe-m ポエム
dog-ma ドグマ
enig-ma エニグマ
paradig-me パラダイム
こうした単語の -m, -me, -ma は全てコレである。 -g-ma 「グマ」 という語形が多いのは、語根が -k に終わる動詞に -μα -ma が付くと、 -k が有声化するからだ。
これで終わりではない。
-ism
に終わる単語はすべて、
-is- ← izō 「〜化する」 ※動詞を派生する接尾辞。英語では -ize, -ise
+
-ma
↓
-ism 「〜化すること」
なのである。
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from の m と -ism の m が同じものとは、オシャカサマでも気がつくめえ。
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