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2026年03月10日06:11

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「木挽町のあだ討ち」感想

 これは、直木賞・山本周五郎賞をダブル受賞した永井紗耶子の同題時代小説を映画化したもの。
 出演は、柄本佑、渡辺謙、長尾謙杜。監督・脚本は、「東京タワー」の源孝志。
フォト


 文化七年(1810)一月十六日、江戸・木挽町。歌舞伎小屋「森田座」では「仮名手本忠臣蔵」が千穐楽を迎えていた。その舞台がはねた直後、森田座のすぐそばで、仇討ちが起きる。芝居客たちが見守るなか、美濃遠山藩士・伊納菊之助が、父・清左衛門を殺めた御家人の作兵衛を見事、討ちとったのである。
 それから一年半後、菊之助の縁者を名乗る浪人・加瀬総一郎が「仇討ちの顛末を知りたい」と森田座を訪れる。総一郎にとってこの仇討ちは、腑に落ちぬ点があり、それを解明したいのだと言う……

 これは面白い! 
 題名が「あだ討ち」となっており、予告編でもかなりのネタバレをしているので、冒頭に描かれる「仇討ち」に裏があるのは予想がつくだろう。本作は、その裏を浪人・加瀬総一郎が説きほぐして行く、と言う展開になる。
 原作では名前しか出て来ない加瀬総一郎と言う人物――監督のイメージとしては「刑事コロンボ」だと言うのだが、飄々として人当たりがよく、それでいて腕は立つし頭もキレる。演じる柄本佑は、最近、こうした役が多いが、これを実に魅力的に見せているのだ。映画は、そんな彼を案内人にし、あの「仇討ち」の真相に迫って行く……だが、物語はもう一捻りし、「仇討ち」の原因となった作兵衛による主人殺しにも裏があった、と言うのだ。
 そして、明らかになる二重の虚構……侍のそれは“家”を守って命を捨て、森田屋のそれは“命”を守って何も犠牲にしない……そんな対比構造も鮮やかで。尚且つ、面子や仕来りに縛られる武家のままならさを風刺するものにもなっている。
 また、その対比構造を鮮やかに描き出す映像美も素晴らしい。

 そんな美しくも一癖ある物語を映画とした源孝志監督は、映画と言うよりもTVドラマで時代物を手掛けて来たベテラン。時代考証もしっかりしており、丁寧に作り込まれ、リアル過ぎない描写は優れもの――例えば、冒頭の仇討ちシーン。江戸の町に設けられた防火空き地、と言う説得力のある舞台を作り、雪明りに浮かび上がる人影……そこに芝居小屋で使っていた龕灯を当てた、とする。勿論、龕灯のろうそく明かりで映画のように明るくなる訳はないが、理屈がつく、と言うのが大事なのだ。このリアルさとエンターテイメントとのバランスは素晴らしい。
 他にも、江戸時代の歌舞伎を舞台裏まで再現、文化七年だから森田屋で舞台に立っているのは七代目市川團十郎と、しっかりとした考証で見せているのも好印象で、これは間違いなく源監督の代表作になるだろう。

 演者は先に紹介した柄本佑もいいが、「あだ討ち」の仕掛け人で立作者を渡辺謙が、舞台劇の好きな彼らしく実に楽し気に演じているし、菊之助役の長尾謙杜は、メイクなしで美少女にも見える凛々しく美しい若衆を見事に演じた。その他、“森田屋アベンジャーズ”の面々は何れも魅力的だが、個人的には、ノリのよさが小気味よい木戸芸者を演じた瀬戸康史が好印象だった。

 クライマックスは、冒頭の仇討ちを、「仮名手本忠臣蔵」の千穐楽から、今度は舞台裏から見せていくもので、これはまるで「カメラを止めるな!」のノリで正に裏を見せて行く……これは実に面白かった。
 気になったのは、不正を働いた遠山藩家老と、菊之助のその後が描かれなかった事くらいだろうか……まぁ、描かれなくとも想像はつくのだけれど。
 いずれにしても、隙なく見事な時代劇エンターテイメントで、観終えた後、爽やかな後味が残る痛快作。これは傑作と思う。
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