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2026年07月12日00:27

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「大統領のケーキ」感想

 これは、イラク出身のハサン・ハーディ監督が自らの体験をもとにした初長編映画。
 第78回カンヌ映画祭では、新人監督賞・監督週間観客賞をW受賞している。
 
フォト


 1990年代、サダム・フセインによる独裁政権下のイラク。
 貧しい湿地帯に暮らす9歳の少女ラミアは、小学校でフセイン大統領の誕生日にお祝いのケーキを準備する“大統領のケーキ係”に選ばれてしまう。
 ケーキを用意出来なければ、厳罰が課せられると言う重い務めだが、祖母と二人暮らしで、日々の食事にも事欠くラミアにはケーキの材料を揃える事さえ容易ではない。翌日、ラミアは祖母と共に街に行く……だが、それはケーキの材料を買う為ではなく、祖母の重い決断だったのだが……

 これは、フセイン政権時代のイラクを描く、他に例が殆どない映画。強権的な独裁政権下における歪んだ社会で、市民が如何なる暮らしをしていたのかを描くものとなる――そんな政治体制下では、権力に与する者は腐敗する……警察は市民を守る為には働かず、教師もまた生徒を守らず、子供たちを虐げる側に回るのだ。更に、窮地のラミアの助けとなる幼馴染のサイードですら自分勝手で信用出来ない、と描くのにはイラクでは「愛情」ですら助けにならない、とでも言うような辛辣さを感じた――偶々出会った配達人のジャシムがいなかったら、本当、どうなっていた事か……
 また、中東と言えば砂漠の国、と言うイメージだが、本作の舞台となるイラク南部には湿地が広がり、人々は浮島の上に家を作り、船で移動すると言う村の暮らしや、1980年代の古いクルマが未だ現役と言うクルマ事情なども興味深く観た、

 尚、イラクには映画製作の体制がなく、ハサン・ハーディ監督は日米欧からの助成を受けて本作を撮影、出演者もプロの映画俳優など存在しない事から、殆どが町中でスカウトされた演技未経験者だと言う。
 ラミア役のバニーン・アハマド・ナーイフの年齢の割には大人びた美貌も印象的だが、祖母役のワヒーダ・サーベトの顔に刻まれた皺には歴史を感じさせる重みを感じた。

 最後、大統領の誕生日に子供たちが用意したケーキや果物、ジュースは、勿論、大統領に届けられる事はない。それは、生徒の忠誠の証として教師が食べるのだ――そんな、歪んだ社会構図を見せ付けた後での、文字通りの衝撃的な展開……そんな苛烈な“現実”においてラミアとサードが行った“瞬きゲーム”には、この現実に瞼を閉じる事無く向き合え、と言う監督のメッセージを感じた。
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