これは、ダウン症当事者を主人公に、障碍者の自立を考えさせるヒューマンドラマ。
出演は実際にダウン症の当事者でもあり、本作が俳優デビューとなるアブリ・ママジ。ムンバイ出身のニキル・ペールワーニー監督の長編デビュー作となる。
ムンバイに暮らすダウン症の青年アハーン。父親はアハーンが人目に晒されるのを好まず、母親が内職で手掛ける焼き菓子を近所に届けるだけが彼の“仕事”だった。
そうして家に縛り付けられているアハーンだが、“自立して仕事をしたい”“結婚して家庭を作りたい”と言う思いを募らせていた。
一方、アハーンが届ける焼き菓子のお得意様でもあるアヌが、夫のオジーの強迫神経症と潔癖症に堪えられなくなり、家を出てしまう。そこで、オジーは妻に会うため、アハーンを利用することを思いついて……
この映画、インド映画としてはかなり異色――歌も踊りもないし、上映時間も81分しかない――でも、そうしたインド映画には、予想外にガツンと来る作品があるのだけど、これが正にそれ。
主人公のアハーンは、ダウン症患者で、男たち……つまり、社会からははじき出されているのだけど、女性たちには好感を持たれている。それはアハーンが、優しくてユーモアがあり、そして真っ直ぐに生きたい、と思っているから。
そんなアハーンが妻に見限られたオジーと共に、復縁作戦を繰り広げる前半は、コメディのように始まるのだが、それが徐々にシリアスな話になって行く、と言う展開が上手い。
そして、強迫神経症で日常生活にも支障を来すようになったオジーが、成功したオンライントレイダーとして裕福でありながらも人間関係が貧しい一方で、出会う人々(特に女性)を笑顔にさせて受け入れられるアハーンが築く豊かな人間関係……人間らしくある事とはどうある事なのか、を示す描写は、先日観た「顔を捨てた男」を思い起こさせものがあった。
映画はそこから反転してアハーンの物語に展じ、彼が社会に出る事を、父親が望まない、と言うやり切れない現実を見せる……それが、本当に障碍を持つ子供の為になるのか、と言う描写には胸が締め付けられる。
そして、映画はまるで「チョコレート・ドーナツ」のような展開に至るか、と思わせて、そこからまた急展開して、納得出来る結末に辿り着く。
アハーンに問うた「10年後、何になりたい?」への答えは、全ての人が自身を振り返るものになるのではないだろうか?
前述したように、映画は81分しかないが、これは後半、はしょり過ぎている、と思わざるを得ない。特に、アハーンの家出からの展開において、最重要シーンとなるであろうものがすっ飛ばされているのだ――小規模の、低予算映画だけに、こうまとめざるを得なかったのかも知れないが……
それでも尚、アハーンの人なりのように、真っ当であろう、とする映画の価値を棄損するものではないだろう。
これは、心に響くよい映画だった。
ログインしてコメントを確認・投稿する