これは、狂言師・野村万作を狂言「川上」の公演に臨む1日を「のぼうの城」の犬童一心監督が追ったドキュメンタリー。
映画の監修には野村万作本人と息子の野村萬斎が当たり、ナレーションはオダギリジョー、万作が語る過去と現在を繋ぐアニメーションと、その人生の節目となる“六つの顔”を「頭山」の山村浩二監督が担当する、と言う豪華な布陣。
本作は、ノーチェックだったのだけど、マイミクのsilver catさんの「面白くない訳がない」と言うお墨付きもあって、劇場に足を運んだ。
650余年の歴史のある狂言は、日本の伝統芸能であり、物語の面白さを主とする会話劇であるのが特徴だ。
本作は、その狂言の第一人者でで芸歴90年を超えて尚、現役である人間国宝の狂言師・野村万作が文化勲章受章記念公演に臨む1日に寄り添い、万作が磨き上げてきた珠玉の狂言「川上」と、狂言と向き合ってきたその人生を描き出して行く……
狂言は、能と同じ能舞台で演じられる事もあり、面をつけるのが能で、素顔で演じるのが狂言、と言うくらいの知識しかなく、これまで、その舞台をしっかりと観た事もなく、楽しめるのか、と危惧していたのだが、映画は、野村万作の人生と狂言を、複数の視点と語り口で語りながら、主となる「川上」の舞台に繋げて行く、と言う構成で、理解を深めながら観る事が出来た。
まぁ、形式美を前面に出す能に対し、狂言は軽妙なおかしみを含めた喜劇的なもので、時に笑いも生む、元々が「面白い」ものなのだ、と言う事もあるだろうし、狂言の第一人者が、その歴史を踏まえて語る、と言う本作は、狂言の入門編として優れたものと思う。
あと、正に本物の“人間国宝”である野村万作の健勝ぶりにも驚かされた。未だ杖も使わず、声もしゃがれず、舞台に立てばちゃんと声を張るのだ。
狂言師として”現役”である事を納得させられた。
孫や息子らが前座を務める記念公演で見せる「川上」は、見応えあり。映画なので台詞の現代語訳が字幕で出る事もあって、内容もしっかり理解出来た――ただ、形式的な能とは異なり、基本は日常会話のやり取りで見せる喜劇が狂言であり、その台詞の方も、ある程度の古文の知見があれば判るものと思うが……
「川上」の内容としては、人情喜劇と言う事になるだろうか……現代劇のようなテンポではないが、内容としては現代劇とさして変わらぬものであるのにも驚かされるし、素顔で演じているだけに、その表情でも見せる――盲目の主人公が、祈りが通じて目が見せるようになった、と言うのを、正に「目で」語って見せた野村万作には驚かされた。
エピローグとなるのは、野村万作の父・万蔵の一句「ややあって また見る月の 高さかな」。
芸事には「やりきった」と言う事はない、と言う事を指し示すような句に背筋の伸びる思いがした。
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