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2025年07月07日22:49

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「でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男」感想

 これは、第6回新潮ドキュメント賞受賞の福田ますみによるルポルタージュ「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」を、三池崇史監督が映画化したもの。
 出演は「カラオケ行こ!」の綾野剛、「蛇の道」の柴咲コウ。

 2003年、日本で初めてとなる教師による「いじめ」が市の教育委員会によって認定され、その被害児童両親による民事裁判が行わる事になった。
 被告となる小学校教諭・薮下誠一には日本中から非難が殺到、一方で被害児童の氷室拓翔と、その両親を擁護する声は多く、550人の大弁護団が結成され、薮下に慰謝料5800万円を請求する。
 誰もが氷室親子の勝利を確信する中、法廷で薮下が口にしたのは、「訴状の内容に真実はひとつもない」という完全否認だった……

 この映画、裁判シーンに始まり、その中での原告・氷室律子の証言としての薮下による加害行為が描かれた後に、薮下誠一の反証としての事実が描かれて行く。
 本作は、日本映画としては珍しいと言える法廷映画なのだが、この映画は分類がなかなか難しい……一見すると、双方の主張が食い違う「羅生門」方式とも思えるが、律子の主張は「でっちあげ」だと、タイトルで言い切っており、これでは、「羅生門」にも、サスペンスになり得ないのだ。
 映画としては、身に覚えのない告発から、身動きがとれない泥沼にハマり込む、一種のホラー、と言うのが正解のようにも思えた。

 見所としては、やはり、W主演となる綾野剛と柴咲コウが、それぞれの主張の中で見せる、対照的とも言える表情で、これを演じ分けているのは確かに見事ではある。
 ただ、綾野剛がああした両面を持っているのは判っていたし、蛇のように瞬きをせず、体温を感じさせない柴咲コウの能面演技は、「蛇の道」でも観た既視感のあるもの――むしろ、律子役が石原さとみか、長澤まさみだったらどうだったろう、とも思ってしまった。

 物語としての要点は、「事なかれ主義」と「優柔不断」が如何に事態を悪化させるのか、と言う事……映画を観て、氷室夫妻の“モンスターペアレント”っぷりに怒りを覚える人もいるだろう。だが、それを助長したのは何だったのか、と言うのを本作は丁寧に描いて行く……その意味では、ブレーキをかけられる事無く、ここまでの事をしてしまった夫妻と、それにより、小学4年のわんぱく盛りに180日以上も精神病院に入院させられた氷室拓翔も、一種の“被害者”であった、と言えるかも知れない――本作に対し、氷室親子が断罪されない事にカタルシスがない、と言う不満の声を上げる人がいるが、原作ルポでも親子の“その後”を追っていない、と言う意味を考えた方がよいのではないだろうか?

 物足りなかったのは、事件と裁判を報じたメディアの描写――「殺人教師」のフレーズを世に広め、事件を全国区に押し上げた週刊誌記者を代表とし、映画は、薮下の声を「誰も信じてくれない」と描くのだが、そもそも、原作の「でっちあげ」を書いた福田ますみを始め、少なくないメディアが事件報道には当初から疑問を呈していた筈なのだが……
 (尚、雑誌記者は裁判が開かれる頃には関心を失い、裁判の傍聴もしなかった、と言う)

 それでも、本作は日本映画らしからぬ法廷映画として、演者の見事な演技と併せ、見応えのある映画となっているように思う。
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